後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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褒美

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 それからすぐに、王のテオドールから正式に呼び出しを受けた。
 正式に、という事はまた正装の二人を見る事になる。
 今回もあまりにイケメン揃いだったが、フラグを立てたくないあまり、人並み程度に褒めるに留めた。

 そして今、王の謁見の間に来ている。


「褒美を取らそう。何なりと申せ」

 暖人はるとに向けられた言葉だ。暖人は、ウィリアムの方をちらりと見た。

 数日前、大喧嘩の勢いで話し合って了承して貰った事がある。正確には了承ではなく、彼は「俺も行く」と言い出した。
 今度は暖人が反対をして、反対を続けていたタイミングで王から呼び出され、ウィリアムは暖人にひとつ提案をしたのだ。


「あの……、南の森に涼佑りょうすけを探しに行きたいのですが、俺はこの世界のことが分からないので、出来れば道案内をしていただける人を紹介していただければと……」

 南の、伝説のある森の近くの街で、奇跡が起きたという情報が入った。その人物はフードを被り顔も見えずすぐに森の方へと去ってしまったが、きっと救世主だろうと。

 だが伝説のある森に、部下が辿り着けないという話をラスから聞いた。
 森の入口に言葉の通じない部族がいて森を捜索出来ない。攻撃をする訳にもいかず、指示を仰ぎに来た。そこは未開の地で、王都にも言葉の分かる者がいるかどうか。


 団長には内緒で、とこっそり教えてくれた為、ウィリアムには何故か映像が見えたのだと嘘をついてしまった。
 自分なら言葉が分かるかもしれない。見慣れない文字も読めたのだから。その森に行きたい、と言って言い合いになったのだ。

 ラスにも同じ事を言い、もしウィリアムの了承が得られたら護衛を引き受けると言ってくれた。
 だがそれをそのまま言うわけにはいかず「もし他の街に探しに行くときはラスさんが護衛してくれるって言ってくれました」と、この前の話だという事にした。
 嘘ばかりついて心苦しいが、こうでもしないとラスが騎士でいられなくなってしまう。

 ウィリアムは、ラスに任せるのなら自分が護衛としてついて行くと言い出し、団長が王都を離れるなんてと言ってまた言い合いになった。
 だがウィリアムは当然折れなかった。副団長に一時権限を譲る事もあるからと言って。


 王に人を紹介しろなど失礼だろう、と思いつつ見上げると、テオドールは驚いた顔をしていた。

「そんな事で良いのか? 他には何かないか?」
「えっと、では、……出来れば、ウィリアムさんについて来ていただくご許可を……」

 これがウィリアムの提案だった。きっと褒美の話だから、同行者に自分を指名して欲しいと。
 その話を、暖人は渋々了承した。きっと王から許可は下りないだろうと思った。この国を護る大事な騎士団長を、人探しの為に長い間王都から出す事はないだろうと。

 だが、テオドールは呆れた顔をした。

「ハルトは謙虚が過ぎるな……。この国を救った褒美にその程度とは……」
「え……でも、ウィリアムさんは……」
「この国の護りの要ではあるが、一時貸し出す事など、そなたの功績への褒美には到底足りぬ」

 そう言い切られ、唖然としてしまった。
 確かに密輸が成功していたら大変な事になっていただろう。だからといって、実際に事件を解決したのは両騎士団の力だ。自分はそれほどまでの功績は立てていない。と、暖人は思っている。

(もしかして、テオ様も過保護……?)

 この世界には過保護で優しい人しかいないのかもしれない。

 ちらりとウィリアムを見ると、口元が満足げに笑っている。
 騙された、と気付いても後の祭り。この国の護りの片翼が王都を離れる事が決定してしまった。


「人探しが済んだら直ちに戻るように」
「はい……」
「それまでに屋敷と使用人を用意しておこう」
「は、……はい!?」
「海の見える高台の保養地はどうだ?」
「いえっ、あのっ」
「街に近い方が良いか」
「いえ、そうじゃなくっ、あの、屋敷は結構です。俺は庶民なので、そんな大それたものは……」
「そうか」

 残念、という顔をするテオドールにホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。

「ならば、私の養子になるのはどうだ?」
「どっ、どうだじゃなくてですねっ!? ……失礼しました。お気持ちは嬉しいのですが、俺は目立たず静かに生きていきたいので……」

 思わずツッコミを入れてしまった。コホンと咳払いをする暖人に、テオドールは声を立てて笑った。


「えっと、ご褒美をいただけるのであれば、また一緒にお茶をさせてください。彼女にもまたお会い出来たら嬉しいです」
「誠に、そなたは謙虚が過ぎるな」
「王様とお茶をするなんて、この上ないご褒美ですから」

 諦めたように笑うテオドールに、暖人はふわりと暖かな笑顔を見せた。

「その二人に護衛を命じよう。世界を巡れるだけの旅費も用意する」
「っ……二人って、オスカーさんまで離れたらっ」
「副団長を昇格させれば良いだけだ」
「そんなっ、俺のせいでっ……」
「帰ったら私の護衛騎士になれば良いだけだ。なあ?」

 視線を向けられ、二人は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「元々その打診をしていたのだが、まだ未熟だの何だのと体よく断られていてな。そろそろ諦め時だろう?」
「……戻り次第、ご返答致します」

 ウィリアムが普段より低い声で答える。
 オロオロする暖人に、テオドールは、ふっと笑った。

「ハルト、気に病むな。これはその二人が願い出た事だ」
「え……?」
「そなたを止める事が出来ないから休暇が欲しい、とな」
「えっ……、オスカーさんもですかっ?」
「先日二人揃って私のところに直談判に来たのだ。ハルトの為だと言われれば断る理由はない。今のこの国ならひと月程なら問題はないからな」

 それを聞き、暖人は唖然とした。
 ウィリアムがあっさりと王へ判断を投げたのは、こういう事か。先に根回しをして……いや、そもそも王が暖人に過保護な事を知っていて。

(騙された……)

 ガクリと項垂れた。
 そんな暖人の側で、ウィリアムたちは頭を下げたまま怒気を漂わせていた。申請したのは休暇であって辞職届けではない、とばかりに。
 オスカーの方は心の中で「騙しやがってこの狸が」と悪態をつく。テオドールはそれを察しながら、愉しそうに笑っていた。

「準備が出来次第、出立するが良い」

 その声は普段以上に威厳を持ち、高らかに響き渡った。

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