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閉じ込めては駄目だろうか
しおりを挟む今日は一日楽しかった。
涼佑を探すという目的は忘れていない。それでも、たっぷり遊んだ、という感覚があった。
バスルームから出ると、マリアが髪を乾かし、メアリが暖かいハーブティーを淹れてくれる。
あれこれとお世話をされて、人として駄目になりそうと言ったら「そうしたらウィリアム様とご結婚されたら良いのです」「一生お世話をさせていただきます」と笑顔で返されてしまった。
ここへ来てから、あまりに規則正しい生活をしている。
今日もまだ早い時間にベッドに押し込まれ、さすがに早すぎて、二人が出て行った後はこっそり本を読んでいたりする。
すると、控えめなノックが響いた。どうぞ、と声を掛けると。
「もう寝るところだったかな?」
「いえ、大丈夫です。ウィルさん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま、ハルト」
ウィリアムはベッドの縁に腰掛け、暖人の髪を撫でた。
「ラスとのデートは楽しかったかい?」
「えっ……あの……」
「ラスがまた一緒に出かけたいと言っていたよ」
「はい……あの、ご迷惑でなかったなら、良かったです……」
妙な沈黙が流れる。
ウィリアムは深く溜め息をついた。
「君の事になるとどうも過保護になってしまうな……」
(自覚はあったんだ……)
そう言い掛けて、グッと呑み込んだ。
「ラスは遊び人だが、仕事に関しては信頼出来る男だ。ハルトが望むならまた彼に護衛を頼もう」
「え、っと……本音を言うと嬉しいのですが、副団長さんですしお忙しいのでは……」
「大丈夫だよ。彼は書類仕事より体を動かしている方が向いているからね」
それは分かる気がする。
たった一日でもそう思ってしまった。
「彼の事が気に入ったのかな?」
「はい。とても気遣ってくださいましたし、話しやすくて、面白くて。兄がいたらこんな感じなのかなと思いました」
「なるほど、兄か」
ウィリアムは安堵したように笑い、暖人の頬を撫でた。
「今度は俺と一緒に出かけてくれるかい?」
「はい、こちらこそお願いします」
元気良く答える暖人に、ウィリアムは目を細める。
もう寝る時間だよ、と暖人を布団に寝かせ、優しく髪を撫でた。
「あの、ウィルさん……。いつも守ってくれてありがとうございます。俺、これからはちゃんと気をつけます」
「何かあったのかい?」
「いえ……。ただ、今までウィルさんに守られてばかりだったと改めて気付いて、俺もしっかりしないとと思いまして」
「ハルトはしっかり者だよ。でも、そうだね。気をつけてくれるのは嬉しいかな」
嬉しそうに笑うウィリアムは、幼い子供に触れるように暖人の髪を撫で、額にキスをした。
おやすみ、と告げる声はまるで我が子に語るように柔らかだった。
・
・
・
執務室に戻ったウィリアムは、密輸事件の関係者を改めて確認する。
怪しい動きをしていた者は全て処理した。
そもそも暖人が関係していると知っているのは、自分とオスカーとテオドール、その護衛騎士の一人と宰相、赤と青の副団長のみだ。その誰もが疑う余地もなく白だと分かる。
「関係者ではない、か……」
あの事件ではないとすると、ただの人買いか。
屋敷へ戻る前に、ラスから気になる報告を受けた。暖人をつけている者がいた、と。
オスカーの血縁者だと思わせる発言をしたところ、その気配は遠ざかったそうだが、やはり気になる。
……閉じ込めては駄目だろうか。
わりと本気で思う。
暖人を野放しに……いや、自由にさせてはいけない気がするのだ。
暖人は気をつけると言っていたが、またいつ無茶を言い出すか分からない。
真面目で賢く、心優しいとても良い子だが、根本的には気が強く行動的な性格らしい。それに、無茶を無茶と思わないところがある。
元の世界は平和だったと言っていた。
本当に平和だったのか、彼が徹底的に暖人を危険から遠ざけていたのか。
あの写真というものを見る限り、彼は暖人を溺愛していたのだろう。暖人は、ひと時も離れた事がないと言っていた。
危険を遠ざけ安全な場所に暖人を隔離していたとなると、そのストッパーがなくなれば、暖人は危険と分からず飛び出してしまう。
「……いや、そこまで物を知らぬ赤子ではないか」
ただ、彼の事を想うあまり、周りが見えなくなるだけ。
自分ではまだ暖人を留める安全装置にはなれない。
西からの報告では、第四皇子は涼佑ではない可能性が高いとあった。だが、何故か釈然としない。
自分で確かめに行ければ良いのだが、赤の団長が国に入ったとなると戦争の引き金になりかねない。地位と権力があるのも煩わしいものだ。
東でも南でもなければ、北か。北をどうやって探すか。
だがこれだけ探して見つからないはずがない。彼がこの世界にいるのならば、彼か支援者が相当のやり手だとしか思えない。
ウィリアムは深い溜め息をついた。
暖人が西へ彼を探しに行くと言い出す前に、早く見つけてしまわなければ。
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