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副団長、ラス2

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「あ、気にせず周り見ててください。彼を探すのが目的ですから」
「ありがとうございます」

 チラチラと辺りを気にする暖人はるとに、ラスはそう言って笑った。

 広場の中心には噴水があり、日射しを浴びてキラキラと光を散らしている。
 桜に似た淡い桃色の花をつけた木々が、花壇に咲く花々が、街に彩りを添えていた。
 恋人たちは寄り添いベンチに座り、子供たちは元気に走り回っている。明るく平和な光景は、テオドールが良い王様だという証だ。

「本当に茶色の髪と緑の目が多いんですね」
「そうですね。一番多い色だと言われてますよ」
「……涼佑りょうすけは、元々この世界の人だったのかな」

 ふとそんな可能性が思い浮かんで、胸に穴が空いたような心地がした。もしそうなら、自分だけが異世界人で、涼佑とは違うという事が、酷く寂しくて。

「そうだとしても、彼にとっては元の世界が故郷だと思いますよ。ハルト君と過ごした世界ですから」
「っ……、はい」
「ここは知らない世界でも、見た目がそうなら上手く溶け込んで無事に生活してる可能性が高くなりますよね」

 暖人は頷いた。
 ラスは欲しい言葉ばかりをくれる。安心感を与えてくれる。彼が好かれる理由は見た目や地位だけではないと、今はっきりと分かった。


 顔を上げ、しっかりと周囲を見渡す。

「涼佑も、俺を探してくれてるはずです。俺が涼佑のいない世界で生きていられないと知っているから」

 そう信じている。だから。

「……君が名乗り出る事が出来たら、彼も見つけやすいでしょうけど」
「それをすると俺は狙われて、守ろうとしてくださるみなさんにもっと迷惑をかけてしまいます。この国も狙われてしまうかもしれない。それは嫌なんです」

 きっぱりと言い切る暖人に、ラスは目を瞬かせた。
 涼佑の為なら命も惜しまないと聞いていたが、彼よりもこの国を優先させるとは。
 そんなラスに、暖人は眉を下げて笑った。

「何も知らなければ、そうしていたかもしれません。でも、ウィルさんたちの優しさを知ってしまったから……。俺は、みなさんを大切にしたいんです」
「ハルト君……」

 本当は、何を犠牲にしても会いたい気持ちはあるだろう。そんな健気な暖人に、目頭が熱くなった。

「よし、これを食べたら別のとこも探してみましょう! 今日は徹底的に探しますよ!」
「はい!」
「彼が探すとしたら、君が行きそうなとこでしょうね。どこに行きたいです?」

 ラスも周囲を見回しながら、暖人の意見を聞いた。



 まず図書館、そして本屋、それから街を見渡せる場所。
 どこを探しても似た外見の人はいても、涼佑はいない。
 それから広場へと戻る道で、目の端に人影が映った。

「っ……」
「あっ、ハルト君!」

 思わず、走り出していた。
 路地裏へと入り、追った影。
 ……それは涼佑に良く似た体躯をした、この世界の人だった。
 裏口から店に入る従業員。横顔が少しだけ、涼佑に似ていた。

「駄目ですよ、俺から離れちゃ」
「すみません……」

 腕を掴まれ、暖人は俯く。
 路地裏はまだ先まで続いている。他にも同じような場所がたくさんある。表をいくら探しても見つからないのなら、もしかしたら、涼佑は隠れて暮らしているのかもしれない。
 顔を上げ、ジッと路地の先を見つめる。

「良く聞いてくださいね」

 ラスの咎めるような声。振り返ると、笑顔を消したラスが見つめていた。

「団長は言ってないかもしれませんけど、君は自分が思ってる以上に人目を惹くんです。特に、人攫いに狙われやすい外見をしている」

 暖人の肩を掴み、視線を合わせて静かに言葉を紡いだ。

「彼らにとっては、色素の濃い人間ほど価値があるんです。それに一見、日に焼けた肌に見える。健康的で細身で顔立ちの綺麗な君は、高値で売り買いされる対象なんですよ」

 売られる先は……、聞かずとも想像出来た。
 この世界へ来たばかりの時、盗賊に襲われた。そういう目的で、彼らは触れてきたのだ。

 だからウィリアムはこの事を教えなかった。暖人が、あの時の事を思い出さないように。

 この世界は、元の世界とは違う。
 分かっていたつもりで、何も分かっていなかった。

「ごめんなさい……」
「分かってくれました?」
「はい……。言いづらい事を言わせて、すみません……」
「俺の方こそ、怒ってすいません」

 泣き出しそうな暖人の頭をポンポンと撫でる。

「……君は、漆黒の髪にも間違われやすいですから」
「ラスさん……?」
「オスカー団長の弟じゃなく、隠し子だったりしません?」
「しませんよ!」

 突然そんな事を言うラスに、暖人は不思議に思いながらも反射的にそう返した。

「怒った顔も可愛いですね。ほんと俺好みの顔してるのに、残念です」
「……ラスさんと二人きりの方が身の危険を感じるんですけど」
「大丈夫ですよ。君の身の安全は保証します。俺が団長より強くなるまでは、ですけど」

 そう言って暖人を壁際に追い詰める。手は肌に直接触れていないものの、肩を軽く押されて、壁とラスの間に挟まれてしまう。
 顔の横に付かれた手。間近で見つめる視線。
 暖人は俯き、小さく息を吐いた。


「……気は進みませんけど、この事を報告」
「わーっ、それだけは! ちょっとした出来心ですからっ」
「ちょっとしたことで危険な橋を渡りすぎです」
「ですよね、分かってますよ? でも大丈夫、まだ直接触ってないですよね?」
「触ってなくてもこれはアウトでは」
「ギリギリセーフだと思いません?」

 パタパタと手を振り無実を訴える。
 体格の良い男が必死に両手を上げる姿はどこか可愛く見えて、暖人はクスリと笑った。

「セーフですね。元は俺が悪かったのに、からかってすみません」
「はー、良かったー。団長に報告されたら八つ裂きにされるとこでした。あの人おっかないですし。さあ、次は何食べます? 串焼きも美味しいですし、もっと食べごたえあるのにします?」

 暖人の背後に回り、その背を押しながら路地裏から出る。

 その後は、夕暮れまで広場でラスおすすめの串焼きや粉ものを食べ、お腹いっぱいになって帰宅した。

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