38 / 168
オスカー邸へ2
しおりを挟むはあ、と溜め息をつくオスカーの背後。
黒の執事服を着た男性が、青い顔をして立っていた。
「オスカー様……」
「どうした?」
「そちらは、まさか……オスカー様の、お子で……」
ティアの言う通り、執事が驚いた。まさかの隠し子だと思われた。
その事に驚く暖人と、心底呆れた顔をするオスカー。
「良く見ろ。俺に似てるか?」
「似て……、…………似ておりませんね……?」
「だろうな。俺はここまで間抜けな顔はしてない」
「オスカーさん、それはただの悪口です」
つい口をついて出てしまった。
ハッとして唇をギュッと引き結ぶと、オスカーは何故か楽しそうな顔をする。そして。
「度胸があるところは俺の子でも良さそうだがな」
そう言って、暖人の頭をポンと撫でた。
その様子に執事は腰を抜かしそうな程に驚愕し、この屋敷でもオスカーは強面キャラなんだな、と暖人は理解した。
そんな執事を放ってオスカーに案内されたのは、暖人用に用意された客間だった。
ウィリアムの屋敷の部屋と同じくらい広い室内に、濃紺のカーテンが掛かった大きな窓。黒い革張りのソファ。大人の雰囲気が漂う部屋だった。
突然の事で文句を言いながらも準備してくれているところが嬉しい、のだが……。
ちょこん、とソファの端に座る。
向かいには腕を組んだオスカーが。
「あの……この度はとんだご迷惑を……」
「本当にな」
「なので、そろそろ帰らせていただきます……」
「お前は煩くないから別に構わないが?」
「え?」
「小さくて邪魔にもならん」
「いやいや、それは失礼ですからね? そこまで小さくないですよ?」
「……どこがだ?」
「上から下まで見て言わないでください。本当に小さいみたいじゃないですか」
「場所を取らなくていいじゃないか」
「だからっ」
「まあ、来たからには歓迎はする」
むっとする暖人に、オスカーはそう言って口の端を上げた。
「してくれるんですか?」
「ああ。追い返してもティアが煩いだろ」
「ですよね……。ティアさんと仲がいいんですね。意外でした」
「……お前には、あれがそう見えたのか?」
「はい」
「勘弁してくれ」
オスカーは眉間に皺を寄せ、溜め息をついた。
そんな遠慮のないところも仲が良い証拠では、と思うものの、暖人はグッと堪えた。別にここへ喧嘩をしに来た訳ではない。
「で、お前は何故ここに来た?」
「ええっと……突然連れて来られたので……」
「お前もティアの被害者だったか」
「はい、いえ、その、気分転換にと勧めてくださったので」
気分転換、とオスカーは呟く。なるのか? と本人が首を傾げてしまった。
「ティアさんの言う通り、ウィルさんのところにばかりいると、甘やかされすぎて駄目になるなと思いまして……」
「ああ、そういう事か」
オスカーは納得した様子を見せた。
「アイツは人を駄目にする才能に恵まれてるからな。それも、無自覚だ」
「才能」
「お前も、ティアに連れ出されなかったらあの屋敷から出なかっただろ」
「それは……」
そうだ……。先程ティアにも言われてハッとした。いつの間にか、あの屋敷の中だけで全てが完結している気になっていた。
「完全な厚意で甘やかしてるからな。それを断る方が悪いと思わせる。甘やかされる方は飼い殺しにされてる事にも気付けない。そのうちそれが当然だと思うようになるんだ。それはもはや才能だろ」
(否定出来ない……)
暖人はきゅっと唇を引き結んだ。
それにしてもオスカーもティアも、ウィリアムの事を良く分かっている。三人は幼馴染だったのだろうか。
(……涼佑に……会いたい……)
ふと酷い寂しさに襲われる。
今までウィリアムが、屋敷の皆が、いつも気にかけてくれたから寂しさを紛らわす事が出来ていたのだと実感した。
「その方が幸せかもしれないが、お前はどうだ?」
「俺は……、……ウィルさんに、頼り過ぎてました。俺にも何か、出来る事があるかもしれないのに」
その為にこの世界の事を勉強していた。その知識を使わずにどうする。
膝の上で拳を握る暖人を、オスカーは満足げに見つめた。
「ここにいて気分転換になるかは分からないが、自我を取り戻す効果くらいはあるだろ」
また口の端を上げるオスカーに、暖人は顔を上げ苦笑した。自我を取り戻すというのは言い得て妙だ。
「それで、お前はこの屋敷で何をしたい?」
「ええっと……突然言われましても……。オスカーさんは今日は何をする予定でした?」
「そうだな、本でも読もうかと」
「本……。ここにも図書室があったりします……?」
「ああ。お前も行くか?」
「はい、ぜひ」
暖人は大きく頷いた。
目をキラキラさせる暖人に、こんなところは子供だな、と立ち上がり暖人の頭を撫でる。
わりと優しく撫でてから、オスカーはふと気付いた。何故ウィルのような事をしている、と。
暖人はオスカーの後をついて行きながら、あれ? と首を傾げた。
オスカーとはつい最近までギスギス……とまではいかないが、こんなに親しい感じではなかったのに。
二人してそれぞれに疑問に思いながらも、まあいいか、と同じ納得の仕方をして図書室へと入った。
80
お気に入りに追加
1,813
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる