後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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オスカー邸へ2

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 はあ、と溜め息をつくオスカーの背後。
 黒の執事服を着た男性が、青い顔をして立っていた。

「オスカー様……」
「どうした?」
「そちらは、まさか……オスカー様の、お子で……」

 ティアの言う通り、執事が驚いた。まさかの隠し子だと思われた。
 その事に驚く暖人はるとと、心底呆れた顔をするオスカー。

「良く見ろ。俺に似てるか?」
「似て……、…………似ておりませんね……?」
「だろうな。俺はここまで間抜けな顔はしてない」
「オスカーさん、それはただの悪口です」

 つい口をついて出てしまった。
 ハッとして唇をギュッと引き結ぶと、オスカーは何故か楽しそうな顔をする。そして。

「度胸があるところは俺の子でも良さそうだがな」

 そう言って、暖人の頭をポンと撫でた。
 その様子に執事は腰を抜かしそうな程に驚愕し、この屋敷でもオスカーは強面キャラなんだな、と暖人は理解した。


 そんな執事を放ってオスカーに案内されたのは、暖人用に用意された客間だった。
 ウィリアムの屋敷の部屋と同じくらい広い室内に、濃紺のカーテンが掛かった大きな窓。黒い革張りのソファ。大人の雰囲気が漂う部屋だった。

 突然の事で文句を言いながらも準備してくれているところが嬉しい、のだが……。
 ちょこん、とソファの端に座る。
 向かいには腕を組んだオスカーが。

「あの……この度はとんだご迷惑を……」
「本当にな」
「なので、そろそろ帰らせていただきます……」
「お前は煩くないから別に構わないが?」
「え?」
「小さくて邪魔にもならん」
「いやいや、それは失礼ですからね? そこまで小さくないですよ?」
「……どこがだ?」
「上から下まで見て言わないでください。本当に小さいみたいじゃないですか」
「場所を取らなくていいじゃないか」
「だからっ」
「まあ、来たからには歓迎はする」

 むっとする暖人に、オスカーはそう言って口の端を上げた。

「してくれるんですか?」
「ああ。追い返してもティアが煩いだろ」
「ですよね……。ティアさんと仲がいいんですね。意外でした」
「……お前には、あれがそう見えたのか?」
「はい」
「勘弁してくれ」

 オスカーは眉間に皺を寄せ、溜め息をついた。
 そんな遠慮のないところも仲が良い証拠では、と思うものの、暖人はグッと堪えた。別にここへ喧嘩をしに来た訳ではない。


「で、お前は何故ここに来た?」
「ええっと……突然連れて来られたので……」
「お前もティアの被害者だったか」
「はい、いえ、その、気分転換にと勧めてくださったので」

 気分転換、とオスカーは呟く。なるのか? と本人が首を傾げてしまった。

「ティアさんの言う通り、ウィルさんのところにばかりいると、甘やかされすぎて駄目になるなと思いまして……」
「ああ、そういう事か」

 オスカーは納得した様子を見せた。

「アイツは人を駄目にする才能に恵まれてるからな。それも、無自覚だ」
「才能」
「お前も、ティアに連れ出されなかったらあの屋敷から出なかっただろ」
「それは……」

 そうだ……。先程ティアにも言われてハッとした。いつの間にか、あの屋敷の中だけで全てが完結している気になっていた。

「完全な厚意で甘やかしてるからな。それを断る方が悪いと思わせる。甘やかされる方は飼い殺しにされてる事にも気付けない。そのうちそれが当然だと思うようになるんだ。それはもはや才能だろ」

(否定出来ない……)

 暖人はきゅっと唇を引き結んだ。
 それにしてもオスカーもティアも、ウィリアムの事を良く分かっている。三人は幼馴染だったのだろうか。

(……涼佑りょうすけに……会いたい……)

 ふと酷い寂しさに襲われる。
 今までウィリアムが、屋敷の皆が、いつも気にかけてくれたから寂しさを紛らわす事が出来ていたのだと実感した。

「その方が幸せかもしれないが、お前はどうだ?」
「俺は……、……ウィルさんに、頼り過ぎてました。俺にも何か、出来る事があるかもしれないのに」

 その為にこの世界の事を勉強していた。その知識を使わずにどうする。
 膝の上で拳を握る暖人を、オスカーは満足げに見つめた。

「ここにいて気分転換になるかは分からないが、自我を取り戻す効果くらいはあるだろ」

 また口の端を上げるオスカーに、暖人は顔を上げ苦笑した。自我を取り戻すというのは言い得て妙だ。


「それで、お前はこの屋敷で何をしたい?」
「ええっと……突然言われましても……。オスカーさんは今日は何をする予定でした?」
「そうだな、本でも読もうかと」
「本……。ここにも図書室があったりします……?」
「ああ。お前も行くか?」
「はい、ぜひ」

 暖人は大きく頷いた。

 目をキラキラさせる暖人に、こんなところは子供だな、と立ち上がり暖人の頭を撫でる。
 わりと優しく撫でてから、オスカーはふと気付いた。何故ウィルのような事をしている、と。

 暖人はオスカーの後をついて行きながら、あれ? と首を傾げた。
 オスカーとはつい最近までギスギス……とまではいかないが、こんなに親しい感じではなかったのに。

 二人してそれぞれに疑問に思いながらも、まあいいか、と同じ納得の仕方をして図書室へと入った。

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