32 / 168
事件解決
しおりを挟む翌日。
目が覚めると、ウィリアムは隣にいなかった。
まだ朝も早い時間。今はもう密輸の件で奔走しているのだろうか。
(ちょっと、おかしな気分だ……)
くしゃりとシーツを掴む。
この感情は知っている。寂しさ、喪失感、そんな名前の感情。
ここへ来てからずっと独りで眠っていたのに、人の体温に触れて思い出してしまった。
人肌の暖かさ。髪を撫でる優しい手。慈しむように呼ばれる名。
どれも物心付いた頃から当然のように側にあって、失う事など考えもしなかったものばかりだ。
寂しい……。
一度意識してしまうと、途端に酷い喪失感に襲われる。もう熱の残っていないシーツに頬を擦り寄せた。
涼佑とは違う、それでもどこまでも優しい暖かさ。
涼佑とは違うのに、その熱が欲しくなる。
(だめだ……、あの優しい人をこれ以上利用しちゃ……)
これ以上は、だめだ。
これ以上、弱くなったら、だめだ。
シーツから手を離し、体を起こす。
顔を洗って外の空気を吸えば、きっと気分も変わるはず。そうでなくては、駄目だ。
大きく伸びをして、そっと息を吐き、ベッドから下りた。
ボルドックの屋敷には、暖人の言った通りの場所に隠し部屋があった。
そんな部屋は知らないと言い出すボルドックに、オスカーは契約書を突きつけた。これも暖人の言った通りの場所にあったものだ。
言い逃れできない証拠にガクリと膝を付き呻く男を、オスカーは凍てつくような冷たい瞳で見下ろしていた。
同時刻。
ウィリアムたち赤の騎士団は、別の貴族派の屋敷を捜索していた。ひとまず書斎で拘束をして、青からの連絡を待つ。
証拠がなければ赤も青も終わりだと喚く男があまりに耳障りで、ウィリアムは剣を抜いた。ただ、静かに。
それだけで男はガタガタと震え、それ以降無駄口を叩かなくなった。
もう一方の屋敷は青の副団長が捜索している。赤は涼佑探しで殆ど残っていない。あちらもまあ、彼に任せれば大丈夫だろう。
昨日テオドールに謁見した後、早馬を走らせ、買収したという船の船長を見つけ出した。
彼はウィリアムを見るなり、勝手に洗いざらい話してくれたのだ。更には証拠となる領収書も付けて。
船長が何度も知らぬふりで貰っていないと追加の金を要求した為、貴族派の男が金額と船賃と書いたものを渡したという。それは船賃にしては法外な額で、証拠に足るものだった。
程なくして青の騎士から捕獲の連絡が届き、ウィリアムは口の端を上げた。
今までに掴んでいた情報や証拠も出せば、もう誰一人擁護は出来ない。刑も軽いものでは済まないだろう。
こうして密輸事件は、その日のうちに無事解決を見せたのだった。
・
・
・
それから、ウィリアム達は後片付けに奔走していた。
ボルドックが捕縛された事で他におかしな動きを見せる者がいないか目を光らせ、仲間はいないか尋問もした。
ここで少しでも取り零せば、後々の火種になりかねない。根絶やしにしてしまわなければ。ウィリアムとオスカーは、これは暖人には聞かせられないな、と同時にふと思うのだった。
77
お気に入りに追加
1,771
あなたにおすすめの小説
【完結】世界で一番嫌いな男と無理やり結婚させられました
華抹茶
BL
『神に愛された国』といわれるミスティエ王国。この国は魔術技術がこの世界で一番栄えていて、魔術師たち個々の能力も非常に高い。だがその中でもシルヴィック家とイスエンド家は別格で、この国の双璧と言われるほどの力量を持っていた。
だがこの二家はとにかく犬猿の仲で白魔術師団副団長ジョシュア・シルヴィックと、黒魔術師団副団長ヴァージル・イスエンドも例外なくとにかく仲が悪かった。
それがこの国の魔術師団全体に伝播し雰囲気は最悪だった。お陰で魔獣討伐でもミスが目立ち、それを他国に知られてしまいこの国は狙われることになる。
そんな時、ミスティエ王国の国王はとんでもない王命を発令した。
「ジョシュア・シルヴィックとヴァージル・イスエンドの婚姻を命ずる」
「は……? はぁぁぁぁ!? な、なんでこんな奴と結婚しなきゃいけないんだ!」
「なっ……! 僕だって嫌に決まってるだろう! お前みたいないけ好かない奴と結婚なんて死んだ方がマシだ!」
犬猿の仲である二人が結婚させられたことにより、その関係性は大きく変わっていく――
●全14話です。
●R18には※付けてます。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
SODOM7日間─異世界性奴隷快楽調教─
槇木 五泉(Maki Izumi)
BL
冴えないサラリーマンが、異世界最高の愛玩奴隷として幸せを掴む話。
第11回BL小説大賞51位を頂きました!!
お礼の「番外編」スタートいたしました。今しばらくお付き合いくださいませ。(本編シナリオは完結済みです)
上司に無視され、後輩たちにいじめられながら、毎日終電までのブラック労働に明け暮れる気弱な会社員・真治32歳。とある寒い夜、思い余ってプラットホームから回送電車に飛び込んだ真治は、大昔に人間界から切り離された堕落と退廃の街、ソドムへと転送されてしまう。
魔族が支配し、全ての人間は魔族に管理される奴隷であるというソドムの街で偶然にも真治を拾ったのは、絶世の美貌を持つ淫魔の青年・ザラキアだった。
異世界からの貴重な迷い人(ワンダラー)である真治は、最高位性奴隷調教師のザラキアに淫乱の素質を見出され、ソドム最高の『最高級愛玩奴隷・シンジ』になるため、調教されることになる。
7日間で性感帯の全てを開発され、立派な性奴隷(セクシズ)として生まれ変わることになった冴えないサラリーマンは、果たしてこの退廃した異世界で、最高の地位と愛と幸福を掴めるのか…?
美貌攻め×平凡受け。調教・異種姦・前立腺責め・尿道責め・ドライオーガズム多イキ等で最後は溺愛イチャラブ含むハピエン。(ラストにほんの軽度の流血描写あり。)
【キャラ設定】
●シンジ 165/56/32
人間。お人好しで出世コースから外れ、童顔と気弱な性格から、後輩からも「新人さん」と陰口を叩かれている。押し付けられた仕事を断れないせいで社畜労働に明け暮れ、思い余って回送電車に身を投げたところソドムに異世界転移した。彼女ナシ童貞。
●ザラキア 195/80/外見年齢25才程度
淫魔。褐色肌で、横に突き出た15センチ位の長い耳と、山羊のようゆるくにカーブした象牙色の角を持ち、藍色の眼に藍色の長髪を後ろで一つに縛っている。絶世の美貌の持ち主。ソドムの街で一番の奴隷調教師。飴と鞭を使い分ける、陽気な性格。
【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!
セイヂ・カグラ
BL
⚠縦(たて)読み推奨⚠
ひょろっとした細みの柔らかそうな身体と、癖のない少し長めの黒髪。血色の良い頬とふっくらした唇・・・、少しつり上がって見えるキツそうな顔立ち。自身に満ちた、その姿はBLゲームに出てくる悪役令息そのもの。
いやいや、待ってくれ。女性が存在しないってマジ⁉ それに俺は、知っている・・・。悪役令息に転生した場合は大抵、処刑されるか、総受けになるか、どちらかだということを。
俺は、生っちょろい男になる気はないぞ!こんな、ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指します!あわよくば、処刑と総受けを回避したい!
騎士途中まで総受け(マッチョ高身長)
一応、固定カプエンドです。
チート能力ありません。努力でチート運動能力を得ます。
※r18 流血、などのシーン有り
BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)
庚寅
BL
内容はほぼ題名の通りです。
生まれた頃から始まり、幼少期を経て大人になっていきます。
主人公の幼少期の時から性的描写、接触あります。
性的接触描写入れる時にはタイトルに✱付けます。
苦手な方ご注意ください。
残酷描写タグは保険です。
良くある話のアレコレ。
世界観からしてご都合主義全開です。
大した山も谷もなく、周囲からただただ溺愛されるだけの話になることでしょう(今の所それしか予定なし)
ご都合溺愛苦労なしチート人生系が読みたい、好きという方以外は面白みないと思われます!
ストーリーに意味を求める方もUターンをオススメしますm(_ _)m
勢いのまま書くので、文章や言い回し可笑しくても脳内変換したりスルーしてやってください(重要)
どうしてもそういうの気になる方は回れ右推奨。
誤字や文章おかしいなって読み返して気がついたらその都度訂正してます。
完全なる自分の趣味(内容や設定が)と息抜きのみの為の勢いでの作品。
基本の流れも作風も軽ーい感じの設定も軽ーい感じの、主人公無自覚総愛され溺愛モノです。
近親相姦なので苦手な方はお気をつけください。
何かあればまた追記します。
更新は不定期です。
なろう様のムーンライトノベルズで掲載しています。
10/23より番外編も別で掲載始めました( ᵕᴗᵕ )
こちらには初めて投稿するので不備がありましたらすみません。
タグ乗せきれなかったのでこちらに。
地雷ありましたらバックお願い致します。
BL恋愛ゲームに転生 近親相姦 自称モブ 主人公無自覚受け 主人公総愛され 溺愛 男しかいない世界 男性妊娠 ショタ受け (幼少期は本場なし) それ以外はあるかも ご都合チート ただイチャイチャ ハピエン 兄弟固定カプ
作中に出てくるセリフ解説
✱学園編 5話 カディラリオ
うろっと覚えとけば〜
訳:何となくで覚えとけば
(うろ覚えなどのうろの事で造語です。)
虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士
ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。
国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。
王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。
そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。
そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。
彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。
心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。
アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。
王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。
少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。
記憶を失った半年間で俺の身に何が起きた!? ~俺の彼氏は調査団の中にいる!?~
モト
BL
調査団団長のダリアは、ダンジョン中の事故で怪我を負った。
病院で目覚めると半年間だけ記憶が抜け落ちていた。退院後、自分の家に戻ると、ベッド下何故か黒々としたアナルスティックがあった。
ノンケでノーマルセックスしかしたことがない自分なのに。
────おかしいぞ!? 身に覚えのない、身体の奥の疼き。それから、少し思い出す彼氏かもしれない男の残像、同じ調査団の制服。
一体、半年間で俺の身に何が起きたんだ!?
Twitterのエロタグ遊びで書いたものですので、エロがアホっぽい上に多めです。ご無理なく楽しんで頂けますように。
推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。
櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。
でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!?
そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。
その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない!
なので、全力で可愛がる事にします!
すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──?
【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる