後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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事件解決

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 翌日。
 目が覚めると、ウィリアムは隣にいなかった。
 まだ朝も早い時間。今はもう密輸の件で奔走しているのだろうか。

(ちょっと、おかしな気分だ……)

 くしゃりとシーツを掴む。
 この感情は知っている。寂しさ、喪失感、そんな名前の感情。
 ここへ来てからずっと独りで眠っていたのに、人の体温に触れて思い出してしまった。

 人肌の暖かさ。髪を撫でる優しい手。慈しむように呼ばれる名。
 どれも物心付いた頃から当然のように側にあって、失う事など考えもしなかったものばかりだ。


 寂しい……。


 一度意識してしまうと、途端に酷い喪失感に襲われる。もう熱の残っていないシーツに頬を擦り寄せた。

 涼佑りょうすけとは違う、それでもどこまでも優しい暖かさ。
 涼佑とは違うのに、その熱が欲しくなる。

(だめだ……、あの優しい人をこれ以上利用しちゃ……)

 これ以上は、だめだ。
 これ以上、弱くなったら、だめだ。

 シーツから手を離し、体を起こす。
 顔を洗って外の空気を吸えば、きっと気分も変わるはず。そうでなくては、駄目だ。
 大きく伸びをして、そっと息を吐き、ベッドから下りた。



 ボルドックの屋敷には、暖人はるとの言った通りの場所に隠し部屋があった。
 そんな部屋は知らないと言い出すボルドックに、オスカーは契約書を突きつけた。これも暖人の言った通りの場所にあったものだ。
 言い逃れできない証拠にガクリと膝を付き呻く男を、オスカーは凍てつくような冷たい瞳で見下ろしていた。

 同時刻。
 ウィリアムたち赤の騎士団は、別の貴族派の屋敷を捜索していた。ひとまず書斎で拘束をして、青からの連絡を待つ。
 証拠がなければ赤も青も終わりだと喚く男があまりに耳障りで、ウィリアムは剣を抜いた。ただ、静かに。
 それだけで男はガタガタと震え、それ以降無駄口を叩かなくなった。

 もう一方の屋敷は青の副団長が捜索している。赤は涼佑探しで殆ど残っていない。あちらもまあ、彼に任せれば大丈夫だろう。


 昨日テオドールに謁見した後、早馬を走らせ、買収したという船の船長を見つけ出した。
 彼はウィリアムを見るなり、勝手に洗いざらい話してくれたのだ。更には証拠となる領収書も付けて。

 船長が何度も知らぬふりで貰っていないと追加の金を要求した為、貴族派の男が金額と船賃と書いたものを渡したという。それは船賃にしては法外な額で、証拠に足るものだった。


 程なくして青の騎士から捕獲の連絡が届き、ウィリアムは口の端を上げた。
 今までに掴んでいた情報や証拠も出せば、もう誰一人擁護は出来ない。刑も軽いものでは済まないだろう。
 こうして密輸事件は、その日のうちに無事解決を見せたのだった。





 それから、ウィリアム達は後片付けに奔走していた。
 ボルドックが捕縛された事で他におかしな動きを見せる者がいないか目を光らせ、仲間はいないか尋問もした。
 ここで少しでも取り零せば、後々の火種になりかねない。根絶やしにしてしまわなければ。ウィリアムとオスカーは、これは暖人には聞かせられないな、と同時にふと思うのだった。

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