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王宮3
しおりを挟む「……君は、ただの子供じゃないのか?」
「え? いえ、ただの学生です。……でした」
卒業はした。涼佑がいないと意味がなくて、式には出なかったけれど。
「推理小説が好きだったので、基本の展開くらいは想像出来ます」
「推理小説?」
「こちらにはないですか? 殺人事件の犯人や、殺害方法の謎を解いていく物語です」
最初は漫画から入って、すっかりハマって小説にも手を出した。
好きだと言っても涼佑のように頭が良いわけではなかったから、本当に基本的な事くらいだが。
「お前の世界では、子供がそんな物騒なものを読むのか……」
「子供の頃からそんな教育なんて……、危険な世界から来たんだね……」
「え、あの、平和な国でしたし、ただの想像の物語ですし……そもそも俺は、そんなに子供じゃないです」
オスカーは眉間に皺を寄せ、哀れな者を見る目をする。ウィリアムは涙でも流しそうな顔をした。
きっと二人とも、子供じゃないのくだりは聞こえていない。
「ハルト。この世界では俺が君を守るからね。君が子供らしく過ごせるように、命を懸けて守るよ」
「あの……命は大切にしてください……」
騎士の命なんて重いものを懸けられても困ってしまう。
「あっ……そもそもさっきのが本当に過去だとは限らないんじゃ……?」
そもそもの可能性にハッとする。
するとそこでまた映像が見え始めた。
(ううっ、さすがに何度もはしんどい……吐きそう……)
だがグラグラする視界はほんの数秒で終わった。
暖人は、目の前に立つオスカーを見上げる。
「……オスカーさん、昨日この部屋を出る前に一番上の引き出しに入れた書類は、鉱山の警備についてですか……? 増員するなら第一部隊か、って話してました……?」
あまりに鮮明な映像と、何故かそれは昨日起こった事だという確信。
これが外れなら、先程の男たちの映像も偽物という事になる。
だがオスカーは顔色を変え、ツカツカと執務机に近付くと一番上の引き出しを開けた。
「昨日君が屋敷から出た後は、ハルトはずっと俺と一緒にいたよ。それこそ眠るまでね。ノーマンに訊いてもいい」
ウィリアムは暖人の頭を抱き込むように撫でながら、オスカーを見た。
眉間に皺を寄せ戻って来たオスカーは、一枚の紙を暖人たちの前に突き付ける。どこか、安堵したような顔で。
「……疑って悪かった」
「いえ、突然あんなことを言えば当然ですし……」
自分ですら疑っていたくらいだ。
苦笑する暖人の手を、オスカーが掴む。何故か、片膝をついて。
「もうお前を疑いはしない。この世界でお前が心穏やかに過ごせるよう、お前の事を守り抜くと誓おう」
「えっ、あの……、俺は大丈夫なので……」
何だかとんでもない事になってきた。
(……まって、今、約束じゃなくて誓いって言った……?)
そう思っているうちに、オスカーが指先にキスをする。
ウィリアムが暖人の手を取り返そうとするが、躊躇うように空を掴んだ。
(まって……、ウィルさんが躊躇うの怖い……)
フラグが立っては綺麗に回収している気がする。何故だ。考えなしに行動するからか。
冷や汗を流しながら、何とかフラグを折る方法を考えた。
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