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王宮2
しおりを挟む引き摺られるようにして連れて行かれたのは、オスカーの名が書かれた部屋だった。
放るように座らされ、ソファの背に両手を付いたオスカーが暖人に詰め寄る。
「今のはどういう事だ? 何故知っている?」
「っ……、わかりませんっ……。でも、見えたんですっ……」
「見えた、だと?」
「はい……」
「オスカー、ハルトが怯えているよ」
ウィリアムに制され、オスカーは我に返る。悪い、と言い、体を離した。
「あの、俺、どうしてっ……」
どうして……、どうして、あんなものが見えたのだろう。目の前で見ているように、はっきりしていた。声も、息遣いさえ、リアルで。
指先が、体が、震える。
「俺が、こんな……、それじゃ、涼佑が……」
こんな、力……。まるで、救世主みたいな……。
だとしたら、涼佑は……。
「ハルト。救世主は一人だけとは限らないよ。君と彼がいて、世界は救われるのかもしれない」
「っ……、ウィルさん……」
泣きそうな顔をする暖人を、そっと抱き締める。大丈夫だよ。そう言って小さな子供にするように背を撫でた。
暫くして、何とか落ち着いた暖人は、おず……とウィリアムを見上げる。
もう大丈夫だと言い離れようとしても、ウィリアムは暖人の肩を抱いたままでそっと髪を撫でた。
「ハルト。何が見えたのか、教えてくれるかい?」
「……はい。大きな屋敷の地下に、黒い葉っぱのマークがついた木箱がたくさんありました……。さっきの人と、背が高くて口髭のある男性がいて、これは密輸ではなく投資だ、と言って笑っていたんです。それと、契約書が二枚……」
記憶を辿る。するとどういう事か、その先まで見え始めた。
「B、O、……ボルドック? と、J 、O、L……えっと、何か書く物を」
オスカーが無言で紙とペンを差し出した。
男たちの映像も見えるのに、自分の手も見える。頭がおかしくなりそうだった。
あまりに達筆な筆記体で読めない文字を、見えた通りに紙に書く。
「ジョルガド、か」
オスカーは眉間に皺を寄せた。
「サインが書かれた紙を、さっきの人は金庫に入れました。髭の男性は鞄に入れて……」
……その先が、見えない。
「ハルト?」
「っ……」
どんなに髭の男性の行き先を見ようとしても、見えるのは一緒にいた時の二人の会話だけだ。
他に、他に何か……。
すると場所が変わり、別の男性が現れた。年配で銀フレームの眼鏡をしている。
「……砂漠、の、ルート……? 砂漠からのルートなら、容易に海を越えられる」
二人が息を呑むのが分かった。
「銀縁の眼鏡をした白髪の男性と、濃い茶髪で鼻の高い中年の男性がそう言ってます」
そこで映像は消えてしまった。
「あの……」
「砂漠からのルートで海を越える、だと?」
「はい。買収は済んでいる、と。砂漠の方から海を越えると、何があるんですか?」
問うと、二人は顔を見合わせ、視線だけで頷いた。
「海を越えた先は、リグリッド帝国だ。それも、南部の警戒が手薄な方のな」
「っ……、じゃあ、密輸って……」
「ああ。第三皇子派が優勢になり、皇帝派が慌てて武器を集めているんだろう。木の葉のマークは、国を介さない慈善団体からの食料支援だ。それを利用した武器の密輸だな」
オスカーが苦々しく吐き捨てた。
先程擦れ違った男……ボルドックが主犯で、加担しているのは、貴族派の二人。ジョルガドはリグリッド国の者だろう。
オスカーたちも怪しい動きを始めたボルドックを探ってはいたが、狡猾な男は上手く証拠を隠していた。
下手に屋敷を捜索すれば、地位だけはあるあの男はここぞとばかりに騎士団を糾弾しようとするだろう。
隙あらば貴族派の力を強め、私腹を肥やそうとする薄汚い奴だ。
「お前は、あの男の事を知っていたのか?」
「いえ……」
「本当か?」
「オスカー」
「俺はまだ完全には信じていない。密偵だったらどうする?」
「それは、ないよ」
国を護る立場としては一度怯むべきかもしれない。だがウィリアムはきっぱりと言い切った。
ウィリアムとオスカーが睨み合う。
そこで暖人は、スッと手を挙げた。
「あの……、俺が密偵だとしたら、この事をお二人に話すのは不利益しかないのですが……」
ふと気付いた事を言えば、二人の視線がやけに鋭く刺さる。ウィリアムの方はすぐに柔らかなものに戻ったのだが、少しだけ怖かった。
「えっと……、嘘を言って関係ない人たちを犯人に仕立て上げて、お二人がそこを捜索している間に真犯人が事件を起こす、という誘導ならありとは思いますが。でも、お二人もあの人のことを怪しいと思っていたんですよね。火のないところに煙は立たないのでは?」
あれ、今のは使い方合っていただろうか。暖人はあまり関係のないところで首を傾げた。
「あ、でも、証拠がない場所を捜索させて、名誉毀損とかであの人が騎士団に責任を取らせるように……、という手もあるか……」
うーん、と暖人は悩む。
可能性を考え始めると、妙に冷静になる。嘘ではないと、どうすれば上手く弁明出来るだろう。
そんな暖人を、二人は唖然とした顔で見つめる。
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