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やはり王子様では?
しおりを挟む「みなさんお忙しいのに、お手数をおかけしてすみません……」
「気にしないで、ハルト。訓練ばかりで皆気が緩んでいたところだから、必ず見つけると言って意気揚々と出て行ったよ」
そっと頭を撫でると、今度はウィリアムに「ありがとうございます」と申し訳なさそうに控えめな笑顔を見せた。
「あの、こんな事を訊くのは失礼ですけど……どうしてここまで良くしてくださるんですか?」
眉を下げたままの暖人も、謙虚で可愛い。
「君たちは救世主かもしれない。それが表向きの理由だね」
「表向き、ですか?」
「俺は困っている人を放っておけないたちだし、君の助けになりたいと思った。それに、俺たちを心配させないよう無理して笑っている君を、心から笑えるようにしてあげたい。それが俺の一番の理由だよ」
ウィリアムはそう言って、ふわりと花が綻ぶように笑う。男性に使うのも、と思ったが、彼は咲き誇る花のように美しい人だ。
ありがとうございます、と言うと、今度は春の陽のように暖かさが広がった。
「ウィルさんって、本当に優しいですね。みなさんが好きになる気持ちがよく分かりました」
褒められて、大切にされて、自分が必要な人間のように思える。彼の側は居心地が良い。
「ハルトも好きになってくれたかい?」
「はい」
「そうか、嬉しいよ」
にこにこと笑うウィリアムを、オスカーだけは呆れたように見つめていた。
「あの、俺に出来ることはないですか? 何か、ご迷惑にならない範囲で」
自分で探しに行っても迷惑にしかならないのは分かっている。そうならない為に今、この世界の事を学んでいる途中だ。それ以外で何かあればと思ったのだが。
ウィリアムは顎に手を当て、思案する。
「俺のベッドで一緒に眠ってくれないか、というのは」
「それはちょっと」
「即答されると少し悲しいな」
「すみません、異世界系のすごい美形との添い寝は平凡顔の俺にはハードルが高くて。あっ、涼佑以外と寝るのもちょっと」
慌てて付け加える。
ウィリアムは思わず声を出して笑ってしまった。
「ハルトは平凡じゃないよ? 俺を魅了する程の美しさを持っているじゃないか」
「っ……それは異世界補正というものですっ」
「それが何かは分からないが、ハルトは魅力的だよ。とても綺麗で、可愛い」
頬を撫でられ、暖人は固まった。
(この人、本当に王子様じゃないのかな……)
異世界転生系で『王子様に溺愛されています!』というタイトルが付きそうな状況に混乱する。
ギギ、と錆びたロボットのようにオスカーを見れば、心底呆れた顔をしている。良かった。彼は攻略対象のような行動をとってこない。
ウィリアムの行動に戸惑いはする。だが頬に触れる手の暖かさに、ホッとしている自分もいて。
暖人にとってウィリアムは既に、パーソナルスペースの中にいる。恋心はないが、一緒にいて居心地の良い相手になっているのだ。
(……ごめん、涼佑)
それが後ろめたい。涼佑がいない間に、誰かにこんな想いを抱くなんて。
ウィリアムは手を離し、今度は暖人の頭を撫でた。
「ああ、そうだ。陛下が君に会いたがっていたから、一緒に王宮に行ってくれないかい?」
「王宮」
まさかそんな展開がくるとは。
「オスカー。明日の昼過ぎなら確か時間があったよな」
「ああ」
「ハルト、いいかな?」
いいかと訊かれても、陛下が相手なら頷くしかない。
緊張する暖人に、マリアたちに支度は頼んでおくから大丈夫だよ、と笑う。違う。そうじゃない。服装とかそうじゃなく、いきなり王宮で陛下に会うだなんて。
「緊張するハルトも愛らしいな……」
わりと大きな独り言に、もはや反論する気力もない。そもそも何故陛下が自分に会いたがっているのだ。
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