上 下
22 / 168

やはり王子様では?

しおりを挟む

「みなさんお忙しいのに、お手数をおかけしてすみません……」
「気にしないで、ハルト。訓練ばかりで皆気が緩んでいたところだから、必ず見つけると言って意気揚々と出て行ったよ」

 そっと頭を撫でると、今度はウィリアムに「ありがとうございます」と申し訳なさそうに控えめな笑顔を見せた。

「あの、こんな事を訊くのは失礼ですけど……どうしてここまで良くしてくださるんですか?」

 眉を下げたままの暖人はるとも、謙虚で可愛い。

「君たちは救世主かもしれない。それが表向きの理由だね」
「表向き、ですか?」
「俺は困っている人を放っておけないたちだし、君の助けになりたいと思った。それに、俺たちを心配させないよう無理して笑っている君を、心から笑えるようにしてあげたい。それが俺の一番の理由だよ」

 ウィリアムはそう言って、ふわりと花が綻ぶように笑う。男性に使うのも、と思ったが、彼は咲き誇る花のように美しい人だ。
 ありがとうございます、と言うと、今度は春の陽のように暖かさが広がった。

「ウィルさんって、本当に優しいですね。みなさんが好きになる気持ちがよく分かりました」

 褒められて、大切にされて、自分が必要な人間のように思える。彼の側は居心地が良い。

「ハルトも好きになってくれたかい?」
「はい」
「そうか、嬉しいよ」

 にこにこと笑うウィリアムを、オスカーだけは呆れたように見つめていた。


「あの、俺に出来ることはないですか? 何か、ご迷惑にならない範囲で」

 自分で探しに行っても迷惑にしかならないのは分かっている。そうならない為に今、この世界の事を学んでいる途中だ。それ以外で何かあればと思ったのだが。
 ウィリアムは顎に手を当て、思案する。

「俺のベッドで一緒に眠ってくれないか、というのは」
「それはちょっと」
「即答されると少し悲しいな」
「すみません、異世界系のすごい美形との添い寝は平凡顔の俺にはハードルが高くて。あっ、涼佑りょうすけ以外と寝るのもちょっと」

 慌てて付け加える。
 ウィリアムは思わず声を出して笑ってしまった。

「ハルトは平凡じゃないよ? 俺を魅了する程の美しさを持っているじゃないか」
「っ……それは異世界補正というものですっ」
「それが何かは分からないが、ハルトは魅力的だよ。とても綺麗で、可愛い」

 頬を撫でられ、暖人は固まった。

(この人、本当に王子様じゃないのかな……)

 異世界転生系で『王子様に溺愛されています!』というタイトルが付きそうな状況に混乱する。
 ギギ、と錆びたロボットのようにオスカーを見れば、心底呆れた顔をしている。良かった。彼は攻略対象のような行動をとってこない。

 ウィリアムの行動に戸惑いはする。だが頬に触れる手の暖かさに、ホッとしている自分もいて。
 暖人にとってウィリアムは既に、パーソナルスペースの中にいる。恋心はないが、一緒にいて居心地の良い相手になっているのだ。

(……ごめん、涼佑)

 それが後ろめたい。涼佑がいない間に、誰かにこんな想いを抱くなんて。


 ウィリアムは手を離し、今度は暖人の頭を撫でた。

「ああ、そうだ。陛下が君に会いたがっていたから、一緒に王宮に行ってくれないかい?」
「王宮」

 まさかそんな展開がくるとは。

「オスカー。明日の昼過ぎなら確か時間があったよな」
「ああ」
「ハルト、いいかな?」

 いいかと訊かれても、陛下が相手なら頷くしかない。
 緊張する暖人に、マリアたちに支度は頼んでおくから大丈夫だよ、と笑う。違う。そうじゃない。服装とかそうじゃなく、いきなり王宮で陛下に会うだなんて。

「緊張するハルトも愛らしいな……」

 わりと大きな独り言に、もはや反論する気力もない。そもそも何故陛下が自分に会いたがっているのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)

庚寅
BL
内容はほぼ題名の通りです。 生まれた頃から始まり、幼少期を経て大人になっていきます。 主人公の幼少期の時から性的描写、接触あります。 性的接触描写入れる時にはタイトルに✱付けます。 苦手な方ご注意ください。 残酷描写タグは保険です。 良くある話のアレコレ。 世界観からしてご都合主義全開です。 大した山も谷もなく、周囲からただただ溺愛されるだけの話になることでしょう(今の所それしか予定なし) ご都合溺愛苦労なしチート人生系が読みたい、好きという方以外は面白みないと思われます! ストーリーに意味を求める方もUターンをオススメしますm(_ _)m 勢いのまま書くので、文章や言い回し可笑しくても脳内変換したりスルーしてやってください(重要) どうしてもそういうの気になる方は回れ右推奨。 誤字や文章おかしいなって読み返して気がついたらその都度訂正してます。 完全なる自分の趣味(内容や設定が)と息抜きのみの為の勢いでの作品。 基本の流れも作風も軽ーい感じの設定も軽ーい感じの、主人公無自覚総愛され溺愛モノです。 近親相姦なので苦手な方はお気をつけください。 何かあればまた追記します。 更新は不定期です。 なろう様のムーンライトノベルズで掲載しています。 10/23より番外編も別で掲載始めました( ᵕᴗᵕ ) こちらには初めて投稿するので不備がありましたらすみません。 タグ乗せきれなかったのでこちらに。 地雷ありましたらバックお願い致します。 BL恋愛ゲームに転生 近親相姦 自称モブ 主人公無自覚受け 主人公総愛され 溺愛 男しかいない世界 男性妊娠 ショタ受け (幼少期は本場なし) それ以外はあるかも ご都合チート ただイチャイチャ ハピエン 兄弟固定カプ 作中に出てくるセリフ解説 ✱学園編 5話 カディラリオ うろっと覚えとけば〜 訳:何となくで覚えとけば (うろ覚えなどのうろの事で造語です。)

虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士

ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。 国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。 王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。 そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。 そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。 彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。 心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。 アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。 王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。 少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。

【完結済み】異世界でもモテるって、僕すごいかも。

mamaマリナ
BL
【完結済み 番外編を投稿予定】   モデルの仕事帰りに、異世界転移。召還された国は、男しかいない。別にバイだから、気にしないけど、ここでもモテるって、僕すごくない?  国を助けるために子ども生めるかなあ? 騎士団長(攻)×中性的な美人(受) ???×中性的な美人 体格差  複数プレイあり 一妻多夫 タイトルに※は、R18です

【R18BL】転生したらドワーフでした【後日談更新中】

明和里苳
BL
◆ 後日談の後日談更新中。まとまったストーリーが書き上がり次第、順次追加更新していきます。 ◆ あらすじ ◆ ある日、前世の記憶を取り戻したコンラートは、今世もモテそうにない貧弱ドワーフであることに絶望する。しかし嘆いていても仕方ない。せっかくだから、なけなしの知識チートで無双でもするかな。と思っていた時代が、俺にもありました。なぜクズ野郎にばかりモテるのか。解せぬ。 ◆ 全編クズ×合法ショタ ◆ コンラート(18)ドワーフ細工師、貧弱合法ショタ ◆ ディルク(24)人間族戦斧使い、ガチムチ残念イケメン ◆ フロル(?)小人族斥候、美ショタ ◆ アールト(約350)エルフ族レンジャー、腹黒麗人 ◆ アイヴァン(17)人間族王太子、ボンクライケメン ◆ バルドゥル(26)人間族神官、一見善人 (ここではネタバレは記載しておりません) ◆ 主人公総受け。攻めは全員クズです。モラルはありません。生温かい目でお楽しみください。 ◆ R18シーンを含む話には※印を付けてあります。結構な割合で付いてますのでご注意ください。 ◆ 他サイトにも掲載しています。 ◆ 表紙はトリュフ先生(X: @trufflechocolat)に描いていただきました。トリュフ先生ありがとうございます!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

処理中です...