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進捗報告

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 それから、暖人はるとにはほぼ毎日状況を伝えていた。
 そのおかげで幾分落ち着いた様子ではあったが、部屋では悲しげな顔で窓の外を眺める時間も多いとマリアから聞いた。それでも暖人は自ら探しに出たいと言い出す事はなかった。

 ノーマンからウィリアムとオスカーが騎士団長だった事、騎士を自由に動かせる権限を与えられている事、その力を使いウィリアムが涼佑りょうすけの捜索をしている事を教えられたらしく、深々とお辞儀をされた。

『涼佑に会いたい一心でお願いしていましたが、そんなにすごい権力を持つ方だとは知らず……』

『……でも、もう探さなくていいですとは言えなくて……、ごめんなさい……』

 最後は涙声だった。
 それでも今度は涙は零れず、頭はしっかりと下げたままで。
 権力を前にしても折れない暖人が、その力を借りたいと真っ直ぐに願うところが、綺麗だと思った。

 今度こそ我慢が出来ずに抱き締めると、暖人は戸惑ったように腕を彷徨わせて。迷った末に、少しだけウィリアムの服を掴んだのだった。







 それから二週間。
 暖人とウィリアム、オスカーは、ウィリアムの屋敷の図書室にいた。大判の地図を前に報告を始めるところだ。

「東の国の可能性は今のところないね」

 ウィリアムが地図を指さす。

「ヴェスティ公国は、救世主が現れればすぐに各国の王を招いて盛大な宴を催すんだ。各国への牽制と、同盟強調の為にね」

 愛と芸術を生きる喜びとする国では、戦争でそれらが壊される事を良しとしない。
 戦争はしないと公言し、自国を守る為にどこよりも強い軍隊を持ち、それらを各国に隠さず公表している。このリュエール王国も同盟国のひとつだ。
 愛と芸術と平和の国。それを二百年以上貫いている。

「南のモッル王国の人々は褐色の肌をしているから、彼がいれば目立つだろう。干ばつや水害に悩まされる地域もあるのが気になるところだから、そちらを重点的に調べさせているよ」

 モッル王国には、救世主が干ばつ地帯に雨を降らせた伝説が残っている。今ではそこは緑豊かな土地だ。

「北は探しようがないのだが、あの国には救うような事態は起きないだろうから、彼のいる可能性は低いかな」

 好奇心旺盛なエルフ族は密かに各国を訪れている。彼らは皆、離れた土地で暮らしているため種族間で争いが起きる事はないと話していた。


「一番救世主を必要としているのは西のリグリッド帝国ではあるが……、ハルトは知っているね」
「はい……。今、内戦をしているんですよね」

 結局ウィリアムは、暖人に問われるままに国の情勢を話してしまった。

 皇帝が圧制を強いて国民が飢えに苦しんでいる事、第三皇子派が内乱を起こしている事、干渉する国があれば戦争を仕掛けると皇帝が通達している事。
 涼佑の事を密偵に指示しているとも伝えた。すると暖人は顔を青くして、密偵の命の心配をしたのだ。そんな暖人だからこそ、ますます力になりたいと思った。……想いだけで現状が変わればと願って止まない。

「戦況が変わってきているようだからもしかしたらと思ったのだが、指揮官は帝国の元将軍だという話だ」

 それを聞き落胆した様子を見せる暖人の背を、そっと撫でた。

「隠された第四皇子と名乗る者が現れたそうだけど、第三皇子に似た容姿をしているらしくてね。でも彼が怪しいと思って調べさせているよ」
「あの皇帝なら庶子がいくらいてもおかしくないが、このタイミングで名乗り出るのは不自然だからな」

 オスカーが補足する。
 第四皇子が名乗り出たのは、戦況が変わって暫くしてからだった。彼が救世主の……涼佑の可能性を否定は出来ない。
 本当に第四皇子だとしても、たまたまこのタイミングで見つかっただけか、仲間の志気を高める為に今第三皇子が表舞台に出したか。

 だが皆が皆歓迎するとは限らない。内乱が成功に終わった後に第三皇子を殺して自分が皇帝になろうと目論んでいるのではと、そう疑う者もいるだろう。そうなれば内部分裂を起こす。
 そんな状況でも、名乗り出なければならない理由があったのだろう。

「南部の森は特に怪しい事もなかった。リョウスケが現れるなら北の、王都近くの森だろうな」

 地図を見つめるオスカーを、暖人は驚いたように見つめる。
 前回会った時は少し刺々しかったというのに、危険な国で部下を動かしてくれている。

「……何だ?」
「っ……、オスカーさん、ありがとうございます」

 パッと笑顔を見せる暖人に、今度はオスカーの方が驚いた顔を見せた。そしてハッとして視線を逸らし、ああ、とだけ呟く。
 その姿をウィリアムは愉しげに見つめた。

 暖人が自分以外に笑いかけるのは少し面白くないが、暖人の魅力をオスカーも分かったようで自慢げな気持ちになる。お前は親かと揶揄された通り、暖人に対しては親馬鹿なようだ。

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