後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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涼佑の事

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 それから暫し洋服談義に花を咲かせ、焼き菓子もなくなった頃。

「ところで、君が探している彼は、友人かい?」

 何気ない様子で問われ、暖人はるとは躊躇う。だが何故か、誤魔化してもウィリアムは騙せないような気がした。

涼佑りょうすけは、俺の……、……恋人、です」
「そうか、恋人か」

 何度も口を開いたり閉じたりしてやっと言葉にしたというのに、ウィリアムはサラリとそう言った。そして何故か残念そうに肩を竦める。だが、ただ、それだけだ。

「あの……、気持ち悪いとか、思わないですか?」
「何故?」
「俺も涼佑も、男同士なのに……」
「それがどうかしたのかな?」
「っ……だって普通、男同士なんて気持ちが悪いとか、子供も産めないから駄目だって……」

 戸惑う暖人に、ウィリアムは首を傾げた。

「君の世界ではそうなのかい? ここでは、少し難しくはあるが、男同士でも子を成せるよ」
「え……? どうやってですか?」

 思わず身を乗り出した。既に近い距離で更に詰めれば、鼻先が触れそうになる。

「それは……、また今度説明するね」

 ウィリアムは困ったように笑い、暖人の肩をそっと押さえソファに座らせた。


 性教育――。


 暖人の脳内に、そんな単語がポンと浮かぶ。
 同性同士とはいえ、子を成す方法だ。それは言いづらい。暖人は顔を真っ赤にして俯いた。
 そんな二人の様子に、オスカーは呆れた顔をする。代わりに言ってやろうかと思うが、それも面倒臭くてやめた。

「君の恋人なら、君と同じで優しい人だろうね」

 ウィリアムが甘い笑みを見せる。そんな顔で優しいなどとサラリと褒められては、うっかりドキリとしてしまった。

「え、っと……涼佑は俺よりももっと優しいですよ。それに頭も良くて運動も出来て、いつも俺を守ってくれる、かっこいい人です」

 ふと思い出し、ベッドの上に置いている鞄を持って来る。その中から写真を取り出した。

 この鞄には、涼佑との思い出の物を二人分詰めて来た。と言っても、一緒に撮った写真を入れた薄いアルバムと、一緒に出かけた時に買った水族館のイルカのアクリルストラップと、動物園でのヒョウのぬいぐるみストラップくらいだが。
 お揃いで、二つずつ。ぬいぐるみの一つは涼佑の鞄に付いたまま崖の端に引っかかっていた為、洗ったのだがまだ少しだけ汚れている。

(まさか異世界に持って来られるなんて……)

 死ぬなら涼佑の思い出と一緒に、と思ったのだが、こんな事になるとは。
 写真も印刷が消えることも滲むこともなく、二人が並んで写っていた。

 暖人からそれを受け取ったウィリアムは、目を丸くした。

「これは……精巧な肖像画だね」
「この世界には写真ってないですか?」
「シャシン、というのか」
「はい。風景をそのまま紙に写し取る機械がありまして」

 知る限りの情報を伝えると、ウィリアムよりもオスカーの方が熱心に聞いていた。表情は変わらずに険しいままだが。

 涼佑の持っているペットボトルや、暖人の腕時計、背景の高層ビル、大水槽。見た事のない物に驚きながらも興味津々といった様子で見つめる。
 こんな事なら風景写真も持ってくれば良かった。きっと飛行機や新幹線を見せたら今以上に驚いた顔を見られただろう。


 アルバムを最後まで見終えたウィリアムは、少しだけ眉間に皺を寄せた。

「彼は、君の事がとても大切なんだね」
「分かりますか?」
「ああ、顔を見ればね。それに、君も」

 何故かますます不機嫌な顔をしたウィリアムだったが、暖人へと視線を向ける時には変わらず穏やかな笑顔だった。

「俺たちは、お互いが一番大切なんです」

 ウィリアムからアルバムを受け取り、写真の中の涼佑にそっと触れる。

「俺と涼佑は、同じ日に施設の前に捨てられていたそうです。俺はへその緒が付いたままで。なので、俺は生まれた頃から涼佑と一緒で、涼佑の方が二ヶ月くらいお兄さんなんです」

 暖人の言葉に、ウィリアムは目を見開いた。

「捨てられていた……?」
「はい。そのまま施設で育ちました」
「……そう、か」
「あ、気にしないでください。最初からそうなので俺にとっては普通ですし、だから涼佑にも出逢えたので」

 気にさせてすみません、と暖人は眉を下げた。

「それに一緒に名前を書いた紙があったそうで、涼佑は有栖川 涼佑ありすがわ りょうすけ、俺は新名 暖人にいな はるとなんです。だからきっと、いらない子だったわけじゃなくて仕方なく手放すしかなかったのかなと」

 それだけで充分なんです、と暖人は笑った。

「ハルト……」

 ウィリアムが暖人を抱き締める。髪や背を撫でる暖かな手。両親がいたらこんな暖かさを感じたのかなと、心地よさに胸が暖かいような、痛いような、妙な感覚になった。

 だが、突然熱が離れ、ウィリアムは暖人から慌てたように手を離した。

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