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力関係
しおりを挟む太陽が高く昇った頃、ウィリアムが部屋を訪ねて来た。
先にオスカーが。その後からウィリアムが、ピクニックかごのようなものをマリアへと渡してから入って来る。
だが暖人へと視線を向けた途端、ぴたりと動きを止めた。そして。
「ハルト、とても良く似合っているよ」
「あ、りがとうございます……」
暖人の側へとツカツカと歩み寄り、ふわりと甘い笑みを浮かべた。
頭ひとつ分近く高い位置からわりと間近で見つめられ、心臓がドキリとする。これは女性がひっきりなしに訪れても仕方ないな、と納得してしまった。
「いくらでも寝ていて構わないと言ったのに。ちゃんと眠れたかい?」
頷いて笑ってみせると、ウィリアムは顔を綻ばせた。だが、突然暖人の目元に指先を触れさせる。
まだ腫れていただろうか。気まずさを感じたが、ウィリアムは特に何も言わず、また王子様のような仕草で暖人の手を取りソファに座らせた。
ウィリアムも隣へと座り、オスカーはその向かいの一人掛けソファに。
一度部屋を出ていたマリアとメアリが、皿に盛られた焼き菓子と温かい紅茶を持って戻って来た。メアリがそれをローテーブルへと並べ、マリアはウィリアムへと何事かを耳打ちする。
「ウィリアム様。私は感動いたしました」
「ん? どうした?」
「ハルト様に、心からの純粋なご厚意でこちらのお部屋をご用意された事です」
「っ……、マリア、その話はここでは」
「ご存じのようでしたよ」
サラリと言われ、ウィリアムはバッと暖人の方を振り向く。
耳打ちといっても、暖人はすぐ隣。普通に聞こえてしまった。
「え、っと……昨日のオスカーさんとのやり取りで、ウィルさんってそうなのかな、と……」
ウィリアムの為には知らないふりをしていたいが、言わなければ彼女たちが怒られてしまうかもしれない。
言葉を濁しながら申し訳なさそうに話す暖人に、ウィリアムは顔を覆い項垂れた。
暖人は気付いていないと思っていた事もあるが、そもそもこんな話は聞かせたくなかった。
「マリア。メアリ」
「はい。失礼いたします」
不機嫌な声で名を呼ばれた二人は、にこにこと笑いながら部屋を出て行った。
ふと向かいを見れば、オスカーもニヤニヤしている。何となく彼らの力関係が分かったような気がした。
「彼女たちは幼い頃に引き取ったのだが、兄弟のように育ったせいか遠慮がなくてね。君に何か失礼はなかったかい?」
床を見つめたまま言葉を零す。彼女たちに怒っているのではなく、格好悪いところを見せてしまった、困った、とばかりに眉を下げ、もう一つ溜め息をついた。
「お二人ともとても良くしてくださいましたし、お話してて楽しかったです」
「そうか……。安心したよ」
「あと、ウィルさん愛されてるなあと思いました」
「君がそう思ってくれたなら嬉しいな。愛にしては容赦がないけれどね」
そう言って肩を竦める。その顔は優しく、彼女たちを大切に思っている事が伝わってきた。
「ああ、そうだ。料理長が作ったばかりのものをくれてね。冷める前にどうぞ」
焼き菓子の盛られた大皿を暖人の方へと寄せる。白磁に淡い花柄の描かれた皿には、様々な形のクッキーと、正方形でひと口サイズのフィナンシェが並んでいた。
お言葉に甘えてクッキーを取り、サクリとひと口。
「! 美味しいです! サクサクでほろほろで、甘すぎないからいくらでも食べちゃいそう」
元々甘い物は好きだが、これは皿丸ごとでも食べてしまいそう。つい続けて食べたフィナンシェはしっとりして蜂蜜のような優しい甘さだった。
「それは良かった。彼にも伝えておこう。とても喜ぶと思うよ」
暖人の髪を撫で、まるで自分の事のように嬉しそうに笑う。
(ウィルさんのところって働きやすそうだな)
従業員を大事にする雇い主。最高では。マリアたちのように、言いたい事を言い合ったりも出来る。やはり最高では。
そんな事を考えていると、向かいでオスカーもクッキーを食べていた。見た目は怖いのにもしかして甘党、と思うと親近感が湧く。
「……何だ?」
「いえ、何でも」
鋭い瞳で睨まれ、思わず笑って誤魔化した。するとオスカーは何故か驚いた顔をする。だがすぐに視線を逸らされ、気のせいかなと暖人は首を傾げた。
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