11 / 168
マリアとメアリ
しおりを挟む目の腫れが引くと、窓の側のテーブルの上に食事が用意されていた。
不思議な食べ物が出て来たらどうしようと思っていたが、見た目は普通の洋食だ。
熟成したハムやチーズ、新鮮な野菜が挟まったサンドウィッチに、コンソメ味のスープ。デザートだけが異世界らしく、苺に似た見た目でプリンのような味のする果物だった。
「とても美味しかったです」
完食すると、マリアは我が子を見るような顔をした。
それから暫し。
「あの、俺、自分で」
「いけません。私どもの仕事です」
「でも、服くらい」
「ハルト様。おとなしくしててください」
ますます容赦がなくなった。庶民だと蔑んでいるのではなく、まるで子供相手のような……。
(この世界ではそこまで子供に見えるのかな?)
日本人は若く見えると聞いた事があるが、いくら高校を卒業したばかりとはいえさすがにそこまでは。
疑問に思っていると、あれよあれよと言う間に着替えさせられてしまった。それも、女性に。だがあまりにテキパキと動くものだから、羞恥心すら感じる間もなかった。
「……このせか、……国では、普段からこういう服を着るんですか……?」
満足そうなマリアたちと、鏡に映った己の姿。暖人は表情を引き吊らせた。
やたらとフリルの多い白いシャツに、金刺繍の施された朱色のベスト。後ろは黒でバイカラーだ。首元には黒のベルベッドリボンが巻かれ、下は脹ら脛までの黒のパンツ、白のソックスに革靴。
ベスト以外は黒が基調でシックではあるのだが、どちらかと言うと可愛さが前面に出たデザインだ。まるでおとぎ話の王子様のようで、思わず鏡の中の自分から目を逸らした。
その先で、彼女たちはにっこりとプロの笑顔を見せる。
「こちらはお出かけの際や、お客様をお迎えする際のものです。お部屋で過ごす際はシャツとスラックスが一般的ですが、本日は後ほどウィリアム様がお見えになりますので、腕によりをかけました」
突然畏まった口調になり、マリアがつらつらと説明をする。
「そ、そうですか。…………ん? 腕に?」
「よりをかけました。あのウィリアム様が、純粋なご厚意でお招きした方ですもの」
「ウィリアムさんって、相当……いえ、何でもないです」
暖人が察しているせいか、二人もあまり隠そうとしない。主人の秘密を話して大丈夫かと心配もするが、もはや秘密ですらないのだろう。
穏やかな主人と陽気な侍女たち。明るいお屋敷だな、と思う事にした。
「それにハルト様は、私たちにもお優しく接してくださって。お仕え出来て嬉しいです」
メアリがパッと明るい笑顔を見せる。
最初に刺々しい雰囲気だったのはそういう事かと腑に落ちた。ここを訪れる女性は気位の高い者ばかりだったのだろう。それと同時に、ウィリアムは女性に騙されやすいのではと少し心配になってしまった。
100
お気に入りに追加
1,812
あなたにおすすめの小説
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる