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異世界4
しおりを挟む「その国は、俺の住んでいるところにはありませんでした」
眉を下げても、勝手に口元が笑ってしまう。納得と諦めと……それでもやはり混乱して、もう、笑うしかないだろう。
「やはり……」
「ああ、そうだな……」
そんな暖人を痛々しく見つめながら、二人は何やら納得した顔を見せた。
「ハルト、落ち着いて聞いて欲しい。この国には伝説があるんだ。数百年前、別の世界から訪れた者がこの国を救った、と。その者は太陽の色をした肌と、宵闇の髪と瞳をしていたそうだ。この国……いや、この世界には、君のような髪と瞳の色をした人間は、存在していないんだよ」
暖人が信じ切れていないと思ったのだろう。ウィリアムがゆっくりとそんな話をする。オスカーは眉を寄せ、静かに暖人を見つめていた。
「そう、ですか。やっぱりここは、俺のいた世界じゃないんですね」
ふう、と息を吐いた。
「冷静だな?」
「え、えっと、その……驚きすぎて、逆に冷静になったというか……」
目を丸くするウィリアムの隣で、オスカーが怪訝な顔をする。
まさか、異世界転移や転生系のライトノベルで良くある設定だとは言えない。確かにそれが自分の身に起きたとなると驚きはしたが、笑った後はもう受け入れるしかないだろう。
それに、涼佑なら自分より先に気付いている筈。森にいなかったなら、きっと今頃どこかの街で暮らしているのだ。
涼佑は頭も良くて運動も出来る。自分のように危ない目に遭う筈がない。そう思うと冷静になれた。
「無理に平気なふりをしなくてもいいんだよ?」
ウィリアムが心配そうな顔をする。そんな彼に、そっと笑ってみせた。
「俺は大丈夫です。それより、今頃になってしまいましたが……危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」
ペコリと頭を下げた。
異世界で騎士で最初に助けて貰ったイケメンときたら、良い人に決まっている。たまに片方が裏切り者のパターンもあるが、起こるにしてもある程度信頼度が上がってからだ。
「当然の事をしただけだよ。君が無事で良かった」
ウィリアムが隣へと座り、そっと暖人の背を撫でる。どうやら彼は人との距離が近いらしい。違和感なく触れてくるものだから忘れていたが、今まで涼佑以外にこんなに触れられた事はなかった。
施設の年下の子たちを撫でる事はあっても、撫でられる側になる事はなくて。
(暖かいな……)
ホッとするような暖かさ。兄や父親がいたら、こんな感じなのだろうか。思わずそんな事を思ってしまった。
「オスカー。彼の事は、この屋敷で預かろうと思う」
「お前の? まさか、こんな子供にまで……」
オスカーの言葉に、暖人は目を瞬かせた。ウィリアムは見た目通りに手が早い人なのかな? と思う。男も対象とはなかなか守備範囲が広い。
「そんなつもりはないよ。俺が行き場のない子を放っておけないのは知っているだろう?」
苦笑するウィリアムに、オスカーは何とも言えない顔をする。ジッと見据えて、ややあって、そうだなと溜め息をついた。
ウィリアムは、手は早いが基本は優しい人。暖人はそう思うことにした。
「それに、こんなに綺麗な瞳は見た事がないからね。もっとゆっくり、見つめてみたい」
甘い笑みを見せる彼に、暖人は身を固くした。
(手を出されるの? 出されないの? どっち??)
どちらにしろ、彼は悪い人ではないとは思うのだが。
そう思っていると、オスカーが呆れたような溜め息をついた。
「何かあったら大声を出せ。近くにいる使用人が駆けつける」
「え、っと……はい」
「大丈夫だよ。俺の屋敷でハルトを危険な目に遭わせる事はないからね」
にっこりと笑うウィリアム。本当に、どっち。暖人は迷った。
ひとまずしばらくは警戒しておこう。チラリと彼を見ると、またどちらともつかない柔らかな笑顔を見せた。
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