上 下
5 / 168

異世界3

しおりを挟む

「落ち着いたかい?」
「はい……。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」

 温かい紅茶を飲み終えると、優しく声を掛けられた。

 大きな屋敷の応接室。大人四人でも座れそうな広々としたソファに、暖人はるとはちょこんと座っている。絶対これ高いやつだ。つい浅く腰掛けてしまう。

 その向かいには、優しい笑顔と、仏頂面。
 先程まで髪を上げていた金の目の男性は、今は髪を下ろしている。目元に髪が掛かり影が出来ると堀の深さが際立ち、ますますイケメンだな……とこっそりと見つめた。

 もう一人の男性に視線を向けると、こちらは柔らかく微笑んでくれる。

「まだ名乗っていなかったね。俺は、ウィリアム。ウィルと呼んでくれ。彼はオスカーだよ。俺たちはこの国で騎士で、怪しい者ではないから安心して欲しい」

 あくまでにこやかに。それに反してオスカーと呼ばれた男性はにこりともしない。

「暖人、です」
「ハルトか。名前まで美しいな」
「え、あの……?」
「気にするな。発作みたいなものだ」

 首を傾げると、今まで黙っていたオスカーが呆れたようにそう言った。
 オスカー、とウィリアムに咎められ、肩を竦める。どうやらこの二人は友人同士のようだ。

 何やら二人でヒソヒソと話している間に、暖人は周囲を見渡す。
 ソファやテーブルもだが、飾られた調度品も絶対に高いやつだ。ガレとかドームとかそういう。絶対に触らないでおこう。と暖人は真顔で全ての位置を確認した。


 この屋敷までは、白金の髪……ウィリアムの馬に一緒に乗せて貰った。毛並みの良い綺麗な白馬だった。
 掛けて貰ったマントをおそるおそる返そうとすると、夜は冷えるから、と肩からふわりと掛けられて。王子様かな? と暖人は目を瞬かせた。
 背後からウィリアムに抱き締められるような体勢で、まるでおとぎ話のお姫様のように運ばれてしまって。やはりウィリアムは王子様かもしれない。

 ソファに座る時も、一度地面に付いた服だからと躊躇っていると、流れるような動作でハンカチを敷いて。
 騎士ではなく、お忍びの王子様かな? と暖人は何度も疑っている。

 ここへ来るまでに、鎧の感覚を忘れない為の訓練の日だった事や、普段はこれ程大きな剣を下げていない事、こんな格好をしているが戦争などではない事を、暖人を怖がらせないようゆっくりと語った。

 見た目はいかにも王子様……そうでなければ高貴なお貴族様で、真顔で黙っていれば、プライドが高そうで庶民と話などしなさそうに見える。
 土埃で汚れた子供など見るのも嫌がりそうなのに、彼は全く構わず暖人を抱き上げ馬に乗せた。やはり童話系王子様かもしれない。

 森を抜け、開けた場所を進んだ先に建っていたこの屋敷。
 門から玄関までは数十メートルあっただろうか。暗くてあまり見えなかったが、三階建てのようだ。


「ところで、ハルトは、何故あの森にいたのかな?」

 話が終わったらしく、ウィリアムが問い掛ける。

「……分かりません。崖から飛び降りたら、あの森にいて……」
「崖から?」
「はい。……涼佑りょうすけを、追って」

 そこで言葉を切ると、二人は察したようだった。
 今度はオスカーが口を開く。

「ニホン、というのは、街か村の名か?」
「いえ、国の名前です」

 小さな街や村なら知らない場所もあるかと思ったが、とオスカーが呟く。

「ニホンという国は、存在しない」
「っ……ここは、何という国ですか……?」
「リュエール王国だ」

 それを聞いた途端、後頭部を殴られた心地がした。

 崖から落ちた先が、森の中で。
 中世の騎士のような人たちと、見た事のない色の瞳。知らない国名。
 あの世でなければ、きっとここは、……異世界だ。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

【完結】王子様たちに狙われています。本気出せばいつでも美しくなれるらしいですが、どうでもいいじゃないですか。

竜鳴躍
BL
同性でも子を成せるようになった世界。ソルト=ペッパーは公爵家の3男で、王宮務めの文官だ。他の兄弟はそれなりに高級官吏になっているが、ソルトは昔からこまごまとした仕事が好きで、下級貴族に混じって働いている。机で物を書いたり、何かを作ったり、仕事や趣味に没頭するあまり、物心がついてからは身だしなみもおざなりになった。だが、本当はソルトはものすごく美しかったのだ。 自分に無頓着な美人と彼に恋する王子と騎士の話。 番外編はおまけです。 特に番外編2はある意味蛇足です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

暗殺者は王子に溺愛される

竜鳴躍
BL
ヘマをして傷つき倒れた暗殺者の青年は、王子に保護される。孤児として組織に暗殺者として育てられ、頑なだった心は、やがて王子に溺愛されて……。 本編後、番外編あります。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...