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異世界3
しおりを挟む「落ち着いたかい?」
「はい……。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」
温かい紅茶を飲み終えると、優しく声を掛けられた。
大きな屋敷の応接室。大人四人でも座れそうな広々としたソファに、暖人はちょこんと座っている。絶対これ高いやつだ。つい浅く腰掛けてしまう。
その向かいには、優しい笑顔と、仏頂面。
先程まで髪を上げていた金の目の男性は、今は髪を下ろしている。目元に髪が掛かり影が出来ると堀の深さが際立ち、ますますイケメンだな……とこっそりと見つめた。
もう一人の男性に視線を向けると、こちらは柔らかく微笑んでくれる。
「まだ名乗っていなかったね。俺は、ウィリアム。ウィルと呼んでくれ。彼はオスカーだよ。俺たちはこの国で騎士で、怪しい者ではないから安心して欲しい」
あくまでにこやかに。それに反してオスカーと呼ばれた男性はにこりともしない。
「暖人、です」
「ハルトか。名前まで美しいな」
「え、あの……?」
「気にするな。発作みたいなものだ」
首を傾げると、今まで黙っていたオスカーが呆れたようにそう言った。
オスカー、とウィリアムに咎められ、肩を竦める。どうやらこの二人は友人同士のようだ。
何やら二人でヒソヒソと話している間に、暖人は周囲を見渡す。
ソファやテーブルもだが、飾られた調度品も絶対に高いやつだ。ガレとかドームとかそういう。絶対に触らないでおこう。と暖人は真顔で全ての位置を確認した。
この屋敷までは、白金の髪……ウィリアムの馬に一緒に乗せて貰った。毛並みの良い綺麗な白馬だった。
掛けて貰ったマントをおそるおそる返そうとすると、夜は冷えるから、と肩からふわりと掛けられて。王子様かな? と暖人は目を瞬かせた。
背後からウィリアムに抱き締められるような体勢で、まるでおとぎ話のお姫様のように運ばれてしまって。やはりウィリアムは王子様かもしれない。
ソファに座る時も、一度地面に付いた服だからと躊躇っていると、流れるような動作でハンカチを敷いて。
騎士ではなく、お忍びの王子様かな? と暖人は何度も疑っている。
ここへ来るまでに、鎧の感覚を忘れない為の訓練の日だった事や、普段はこれ程大きな剣を下げていない事、こんな格好をしているが戦争などではない事を、暖人を怖がらせないようゆっくりと語った。
見た目はいかにも王子様……そうでなければ高貴なお貴族様で、真顔で黙っていれば、プライドが高そうで庶民と話などしなさそうに見える。
土埃で汚れた子供など見るのも嫌がりそうなのに、彼は全く構わず暖人を抱き上げ馬に乗せた。やはり童話系王子様かもしれない。
森を抜け、開けた場所を進んだ先に建っていたこの屋敷。
門から玄関までは数十メートルあっただろうか。暗くてあまり見えなかったが、三階建てのようだ。
「ところで、ハルトは、何故あの森にいたのかな?」
話が終わったらしく、ウィリアムが問い掛ける。
「……分かりません。崖から飛び降りたら、あの森にいて……」
「崖から?」
「はい。……涼佑を、追って」
そこで言葉を切ると、二人は察したようだった。
今度はオスカーが口を開く。
「ニホン、というのは、街か村の名か?」
「いえ、国の名前です」
小さな街や村なら知らない場所もあるかと思ったが、とオスカーが呟く。
「ニホンという国は、存在しない」
「っ……ここは、何という国ですか……?」
「リュエール王国だ」
それを聞いた途端、後頭部を殴られた心地がした。
崖から落ちた先が、森の中で。
中世の騎士のような人たちと、見た事のない色の瞳。知らない国名。
あの世でなければ、きっとここは、……異世界だ。
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