後追いした先の異世界で、溺愛されているのですが。

雪 いつき

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異世界2

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「ぐぁッ!」

 鈍い音に続き、男の醜い声が響いた。
 おそるおそる目を開けると、白目を剥いた男の顔が映る。
 グラリと揺れる巨体。それは暖人はるとの上へと倒れ込む前に、何者かの腕で横へと引き倒された。

「君、大丈夫か?」

 ……突然、眩しい光が射した。

(キラキラしてる……)

 鬱蒼と生い茂る薄暗い森の中、僅かな光でも眩しく輝く、白金の髪。光の正体は、この男性だった。
 白い肌と、中性的な整った顔。銀色の鎧に、燃え盛る炎のような色のマントを羽織って。まるで、中世の騎士のようだ。

 ここは、日本の森じゃ、ない……?
 呆然としているうちに、彼は暖人の晒された下肢にマントを掛けた。

「怖かっただろう? もう大丈夫だよ」

 小さな子供に話すような口調で、身を屈めて視線を合わせる。だが、目が合った途端、彼はピタリと動きを止めた。
 そして。

「美しい……」

 綺麗な形の薄い唇から、そんな言葉が零れた。

 暖人は目を瞬かせる。美しい? 何が? 目をぱちぱちと瞬かせるが、彼は惚けたような顔で暖人を見つめるだけ。

 目の前には、長い白金の睫毛に縁取られた、晴れ渡る秋空のような澄んだ瞳。人形のように整った顔。右側で分けた長めの前髪は、毛先だけが淡い朱色をしている。
 垂れ気味の目が甘い雰囲気と色香を漂わせつつも、キリッとした眉が男らしさを感じさせた。

 美しいのはこの人の方。暖人も思わず見つめていると、背後から足音が聞こえた。

「ウィル。残りも捕まえて部下に引き渡した」
「……あ、ああ」

 その声に我に返ったように、白金の彼は声のした方を振り向いた。


 二人が話している間に、暖人はマントの下でモソモソとスラックスを穿く。
 ベルトを締めて立ち上がってから、掛けて貰ったマントがあまりにも高そうな生地だと気付く。

(こんなものを下半身に掛けさせてしまったなんて……後でしっかり謝ろう……)

 ブルッと震えながら彼らを見ると、ウィルと呼んだ男性も、同じ銀色の鎧を着けていた。マントは深い海の色だ。
 日に焼けているが西洋人らしい白い肌と、端正な顔立ちをしている。こちらは切れ長の目と男らしい形の眉で、嫌でも女性が寄ってくるような風貌をしていた。
 その彼も、暖人を見るなり動きを止める。

「この髪と目は……」

 唖然とした様子で見下ろす。
 頭ひとつ分近く高い位置にあるのは、前髪を上げた夜空のような深い濃紺の髪と、星の瞬きのような金色の瞳。……金色の瞳なんて、物語の中以外で見た事がない。

「ここは、日本じゃないんですか?」

 思わずそう問い掛ける。すると彼らは顔を見合わせた。

「聞いた事のない名だな」
「っ……涼佑りょうすけはっ、俺と同じくらいの歳の男性を見ませんでしたかっ」

 ここは、日本じゃない。先程の男たちも、この二人も、腰に剣を下げている。
 それなら、もしかしたら、涼佑も誰かに襲われたかもしれない。

「涼佑! 涼!!」
「大声を出すな。猛獣を呼び寄せるぞ」
「でもっ」
「この森には俺たち以外はいない」
「涼佑がっ、涼佑がいるかもしれないんですっ」
「その可能性はない。この森には森番がいるんだ。人が入れば必ず報告が来る」

 それであの盗賊を捕らえに来たのだと、金の目の男性は言った。森番は森の中の全てを見通す力を持っているからと。


「一緒にここに来たのか?」
「……いえ。涼佑はきっと、一ヶ月前に来たんです」

 深く息を吐き、何とか気持ちを落ち着ける。
 考えれば、今もこの森に涼佑がいる筈がない。涼佑ならきっと、自力で街まで辿り着いている。

「そいつは、君と同じ肌の色をしてるのか?」
「肌……はい。俺より少し白いですが。髪は茶色で、目は緑色をしています」

 涼佑はどこかの国の血が混ざっている。生まれてすぐに施設前に捨てられていた為、ハーフかどうかも定かではないが。
 暖人の言葉に、金目の男性が森番と思われる男性と話をする。そして。

「ここひと月どころか、一年の間にそういった風貌の者はいなかったそうだ」
「っ……うそ、だ……。涼佑は、ここに来てるんです。ここにいるんですっ。街はっ、街はどっちですかっ? 俺、涼佑を探さなきゃっ……」
「待て、無闇にうろつくと獣に喰われるぞ」
「それでもっ」

 金の目の男性に掴まれた腕を、白金の髪の男性がそっと離させる。そして、暖人の両肩に手を乗せ視線を合わせた。

「落ち着いて。君がここで死んでしまったら、彼を探す事も出来なくなるだろう?」
「っ……」
「ひとまずうちにおいで。暖かいお茶でも飲んで、話はそれからだね」

 優しい声と、柔らかな笑顔。
 初めて会ったというのに、この人なら信じても大丈夫だと本能が語りかける。

 俯き、小さく頷くと、小さな子供を褒めるように優しく頭を撫でられた。

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