一見くんと壱村くん。

数年後

　そして、数年後。

　大学時代はアルバイトで雑誌モデルをしていた一見いちみだが、あっさりと辞めて、大手の銀行に就職をした。

　元々、給料が良くて時間に余裕が出来るからと言って始めたアルバイトだった事は知っている。
　だが、壱村いちむらとしては続ければいいのにと勿体なく思っていた。このイケメンを隠しておくなんて勿体ない、と。

　一見は認めないが、辞めた一番の理由は壱村だろう。
　人気が出過ぎて、そんな一見に特別大切にされている壱村に妬みやら色々なものが飛び火していたからだ。壱村本人は、全く気にしていなかったが。


　――……まあ、こんなイケメンが自分だけのものっていう優越感もあるけど。

　雑誌から一見の姿が消え、やっと戻ってきた、という感覚も確かにあった。
　それをうっかり口にしてしまった日は色々と大変な事になったのだが、それはここだけの話。



　そんな一見は、一年で昇進してとんだ高給取りになってしまった。
　初任給と共にプロポーズされた時は“一年勤められたら”と保留にしたが、もう断る理由がない。

「俺と、結婚してください」

　善意に訴えかける方法でもなく、ストレートに来られてははぐらかすことも出来なくて。

「わ、わかった」

　つい照れ隠しで雰囲気も何もない答えを返してしまった。それでも一見は、今までで一番嬉しそうな顔をしてくれた。


　首から掛かるチェーンには、付き合い始めた日と、合格祝いの指輪が。
　プロポーズが保留なら婚約指輪だよね、と言って嵌められた一年前の指輪は、左手の薬指に。
　そこに重ねられる、新しい銀色。

　誓いを重ねたがるこの男は、これからあといくつ増やすつもりだろうか。
　きっとこれで終わりではない事に、くすぐったい気持ちになる。


　あの日、一見が転校してきて、席が前後になって、他愛ない出来事から始まり続いてきた関係。
　指の上で輝く銀色が一際眩しく見えて、これはもう運命というやつかな、と柄にもなく思ってしまう。

　柄にもなく、浮かれている。

　初めて逢ったあの時には、こんな事になるなんて……、こんな、泣きたいほどの幸せを感じる日が来るなんて、予想もしていなかったのだ。









―END―