一見くんと壱村くん。

合格発表２

　騙されないから……。

　騙されない……。

　…………。


「っ……、あーもう！　分かったよ！」
「壱村いちむらっ」
「でもプロポーズはひとまずなかったことに！」
「えっ……」
「社会に出て、お前の給料で俺を養えるようになったら考えてもいい」

　なんで上から目線なんだよ。自分で自分にツッコミを入れる。
　いや、養えるくらいの収入があっても、一方的に養われるつもりはないのだが。

「壱村、それって、プロポーズを……」
「受けてないからな。ひとまずなかったことにって言ったろ」
「あっ……うん……」
「まだ大学に入ってもないんだし、何が起こるか分からないだろ？」

　眉を下げ釈然としない顔をする一見いちみに、一つ溜め息をついた。

「壱村は、俺を捨てて他の人と付き合うつもりなの？」
「は？　いや、そんなつもりないけど」
「何が起こるか分からないって、そういうことだろう？」
「違うって。就職先が地方とか……ってか、それならお前が心変わりする可能性もあるだろ」
「俺は一生壱村のことが好きだし、壱村と離れるくらいなら迷わず監禁するよ？」
「いやいやいや、迷えよ！？　それ犯罪だからな！？」

　真顔でサラリと言う事ではない。
　全力でツッコミを入れてから、はーー、と深く息を吐いた。

　落ち着け……。
　一見なら監禁くらい普通にしそう……いや、それを普通と言ってしまうところからおかしいのだが、一見の執着を考えればそのくらいはしそうだ。

　そしてそれを別に嫌だとは思わないあたり、似た者同士なのかもしれない。


　――……まあ、俺も、一見とずっと一緒にいたいしな……。

　だが、人生何が起こるか分からない。万が一、という事もある。一見が変な事を言い出すから、ちょっとだけ心配になってしまった。

「お前の気持ちはよく分かった、けど……、まあ、俺も、お前に飽きられないように頑張るわ」
「っ……健気な壱村、かわいっ……」
「はいはい。家まで“待て”な？」

　そう言うと、一見は抱きつこうとしていた腕をスッと下ろす。後でまとめて決済だよ、という顔で。
　なんでこっちが払う側だよ、と笑いながら、いつまで待てるかなと意地悪な事を思ってしまう。
　先に壱村の家に寄って合格報告をする間、一見は堪えられるだろうか。



　きちんと自分の口から言いたくて、電話ではなく家に帰ってから合格を伝えた。すると家族はとても喜んでくれた。
　恵まれてるな、と思う。それと同時に、この家族と離れて暮らすと考えると少し躊躇ってしまい、一見と同居する事はまだ言えなかった。

　そのまま壱村の家で一見と話しても良かったのだが、少し考えて一見の家に向かった。
　この濃い数ヶ月を過ごした一見の家はもう想い出の場所になっている。そこを訪れるのももう後少しだ。

　マンションの一見の部屋も、これで最後かもと思うと感傷的になってしまう。
　そんな壱村の様子を察して、一見はただそばにいて優しく髪を撫でてくれた。