一見くんと壱村くん。

雪 いつき

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護衛騎士

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壱村いちむら、次移動教室だよ」
「ああ、……って、何してんの?」
「え? 教科書持ってる」
「……それ、俺のだけど」

 それがどうしたの? みたいな顔で首を傾げないで欲しい。彼女の鞄を持つ彼氏か。

「壱村と一見いちみって、付き合ってんの?」

 そんなやり取りをしていると、友人が面白半分にからかってくる。

「お前らな……」

 思わず溜め息をついた。
 告白はされたが付き合うとは言っていない。結局昨日は体力の限界でそのまま帰宅した。しっかりと一見の送迎付きで。

 そんなわけないだろ、と返す前に、一見が隣で爽やかな笑顔を浮かべた。

「俺が一方的に役に立ちたいって思ってるだけだよ。壱村のことが可愛くてね」

 何でもない事のようにサラリと言う。
 きゃっ、と周囲で女子の悲鳴が上がった。私も言われたい、と各所から聞こえる。
 ……確かに、今の一見の顔は格好良かった。この天然ホストめ。
 というか、ここでこんなこと言っていいのか? と一見を見る。可愛いだ何だ、過去のトラウマは大丈夫なのだろうか。
 だが、一見は清々しい顔をしていた。

「壱村には、勇気を貰ったから」
「……そっか」

 先程の台詞はともかく、トラウマが克服出来たならそれは喜ばしい事だ。
 一見は嬉しそうに笑い、教科書を二人分持ったまま廊下へと出る。そして壱村の半歩後ろに付いて歩いた。

「一見って、こんな面白い奴だったんだな」
「お前の護衛騎士かよ」

 親しみ沸いた、という顔をする友人と、吹き出して大笑いする友人。
 最近は大体この四人で連む事が多い。どちらも一年から同じクラスで、壱村と一番仲が良かった。

「お前笑いすぎ」
「いやー、笑うだろ! 姫の壱村に、ついに騎士まで現れ……っあーだめだ、おもしれー!」

 ヒーヒー言って笑う。
 姫というのはあれだ。一年の時に学園祭で男女逆転仮装カフェをしたのだが、壱村はクラスメイトに押しに押されて、西洋の姫の仮装で呼び込み係をしたのだ。

「壱村はこの顔と身長でも、暴れ馬なんだけどな」
「わかるー! じゃじゃ馬姫!」
「お前は黙れ。ってか、暴れ馬ってほどでもないだろ?」

 こんなに落ち着いてるのに、と言うとまた友人は笑った。

「そんな壱村だから、守りたいと思うんだよ」

 にこにこと笑顔で言うこの発言も、一見の顔とスタイルと声があるからこそ“格好良い”と女子から黄色い声が飛ぶ。

 そこに突然弐虎にこが現れ、一見に飛びついた。
 「弐虎ちゃん!」と男子が盛り上がり、「一見君応援するよ!」「私は弐虎ちゃん応援する!」と派閥が分かれた。何だこのカオス。

 その間に壱村はそっと人混みに紛れ、移動先の教室へと向かった。身長が低いのにも使い道があった。

 教室に入る前にふと一見の方を見ると……。

 ――……は??

 思わず目を疑った。
 人垣の隙間から、パチリと合った視線。一見、ではなく、弐虎とだ。
 弐虎はこちらを見て、挑発するように笑ったのだ。

 見間違いではない。視力は両目共に2.0だ。弐虎は確実にこちらの事を敵だと認識している。

 ――……いや、待て、喧嘩売られても、別に俺は一見を狙っていない。

 ふー、と息を吐いた。
 確かにイラッとした。売られた喧嘩は大抵買い取ってしまう壱村でも、今それがまずい事は分かる。
 ここで弐虎に掴み掛かりでもすれば、“アイドル弐虎ちゃんに嫉妬して苛めた”だの“イケメン一見君を取り合う泥沼三角関係”だのという根も葉もない噂が生まれてしまう。

 ――……一見、生きろ。

 もみくちゃにされても頭ひとつ飛び出た一見にエールを送り、そっと教室へと入り深い溜め息をついた。

 フラグはへし折った。……はずなのに。

 その日から、弐虎→一見→壱村の三角関係の噂が学校中に広がってしまった。

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