一見くんと壱村くん。

雪 いつき

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今、何かおかしかった

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 落ち着いた一見いちみに麦茶を渡され、一気に飲み干す。
 腕が緩んだ後も、頭や背中を愛犬のように撫で回され頬擦りをされ、やめろー!! と叫びすぎて喉がカラカラだ。

 ふう、と息を吐くと、一見は不安そうに顔を覗き込んできた。

弐虎にこ君のことだけど、壱村いちむらこそ、好きじゃないの?」
「は? なんで?」
「だって、可愛い子が好きって」
「……あー、言ったな。いや、悪いけど、俺が欲しいのは彼女なんだわ」

 いくら可愛くても、やはり女の子がいい。恋愛の意味を抜いても抱き締めるなら女の子がいい。

「一見こそ、ああいう小さいの好きだろ?」
「懐いてくれるのは嬉しいし可愛いと思うけど、可愛い自分を作って武器にしてる子はあまり……」

 眉を下げ、申し訳なさそうな顔をする。

「なんか、色々面倒臭いなお前」
「そういう素直なところが可愛いよ」
「やっぱちょっと分かんないわ」

 一見の“可愛い”の基準は相変わらず謎だ。

「ってか、俺も女装した時、可愛さを武器にしてるけど」
「壱村は可愛いから」
「それ理由になってなくない?」
「壱村は、本気で男を落として自分のものにしようとか考えてないだろう?」
「それは、まあ。男落としても使い道ないし」

 そもそも恋愛対象は女の子だ。男は使い勝手の良い財布にするにしても、見返りを求められては面倒臭い。
 それに、本気の気持ちを弄ぶのは主義に反していた。

「そういう壱村だから、好きなんだ」
「へぇ……?」

 爽やかな笑顔で言われても、やはりちょっと良く分からない。

「まあ、お前も恋愛対象は女だしな。あいつに本気で好かれても応えらんないか」
「うん。恋愛対象は女の子だけど、壱村のことが好きだよ」
「そっか、………………ん?」

 今、何かおかしかった。

「男は恋愛対象じゃないけど、壱村は特別。好きだよ」

 そっと目を細め見つめてくる。それはもう、甘い顔で。

「………………もしかして俺、今、告白されてる?」
「うん」
「付き合って欲しいとか言われてる……?」
「うん」
「なんで……?」
「好きだから。キスしたいし、その先もしたい」

 それには友人のままじゃ駄目だろう? と視線が告げてくる。

「…………錯覚」
「じゃないよ。錯覚で男相手にキスしたいとか思わないだろう?」
「それは、まあ」

 元の恋愛対象が女なら尚更。冷静に分析されれば本気だと思わざるを得ない。だが、先程までそんな素振り見せなかったのに、何故。
 突然の事に動揺していると、一見は困ったように笑った。

「壱村が可愛い女の子が好きって言った時、俺じゃ絶対に駄目なんだって言われたようで、悲しかったんだ。俺は、女にはなれないから。それでも、壱村のことが好きだから……。壱村が誰かを好きになる前に、伝えようと思ったんだ」

 だから、今だった。
 本当はあの時、伝えてしまいたかったけれど。

「壱村なら、俺を気持ち悪いって言わないの、信じてるから」

 そっと目を細め、壱村の頬を指先でするりと撫でる。
 初めての触れられ方にピクリと反応した頬を包み込む、少しひんやりとした手のひら。
 真っ直ぐに見つめる視線。
 真剣な告白、……のはず、だが……。

「………………お前、さては確信犯だな……?」
「なんのこと?」
「俺の良心に訴えかけて、頷かせようって魂胆だな?」
「ああ、そういうことか。否定はしないけど」
「しろよ!」

 頬に触れる手から逃れるように、頭を抱えた。
 一見の気持ちが嘘ではないのは分かる。だが、言葉の選び方に、端々に、罪悪感を刺激する意図が見えるのだ。

「好きな子相手に、手段なんて選んでいられないだろう?」
「選ばないのは自由だけどさ、せめて隠せよ……。その腹黒さ見せてどうすんだよ……」
「壱村には嘘をつきたくなくて」
「俺のこと信頼しすぎだろ……」
「全部受け止めてくれるって、信じてるよ」
「っ……あーもう、そういうとこな……」

 ここまでキラキラと輝くような笑顔、初めて見た。一度上げた顔をまた俯けて頭を抱えた。

「好きになるのは後からでいいから、俺と付き合って?」
「お前、むちゃくちゃ言ってんの分かってる?」
「うん。でも、先に既成事実を作ろうかと」
「だから、少しは本音隠せよ!」
「かわいい」
「話聞いてる!?」
「好きだよ」
「話聞け!!」

 と言っても今日の一見は暴走が止まらず、抵抗虚しく、また抱き締められてしまうのだった。





「またお揃いのもの、プレゼントしてもいい?」
「……いいけど……お前、手加減ってものを……」

 中身は出そうだし、胸筋に埋もれて窒息するかと思った。
 ゼーハーしながら答えているというのに、一見はそれはまあ輝く笑顔で、嬉しそうに笑った。

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