一見くんと壱村くん。

店舗限定

　翌日も学校帰りに一見いちみの家へと寄った。

　壱村いちむらの家には、まだ小学生の弟妹がいる。こうして集中出来る場所を提供して貰えるだけでもありがたいのに、勉強まで教えて貰える。もはや個別指導の塾だ。
　しかも、ドリンク付きで、無料。
　……いや、その対価に身体は張っているが。

　今日は昼食時にくるみパンを食べているのがリスみたいで可愛いという謎の理由で、残りの昼休みを一見を巻き付けたまま過ごす事になった。
　さすがに食べたばかりで大蛇のようには絞め付けられなかったが、自制してくれて良かった。比喩ではなく本当に中身が出るところだ。


　数学の過去問を解き終え、休憩しよう、とマグカップを渡される。そこで一見のスマホが鳴った。
　画面を開いた一見は、数回スクロールしてから眉間に皺を寄せる。

「どうした？」
「あ、いや、大したことじゃ……」
「大したことだな？」
「……うん」

　顔を曇らせる一見の手元を覗き込む。
　一見が見ていたのは、キャラクターショップのホームページだ。
　壱村は首を傾げた。あれだけ深刻な顔をして、このファンシーなページ。どういう事だ。

　今のは、好きなキャラクターの新着グッズ発売の通知だったらしい。

「……店舗限定、で」
「ん？」
「いつもは通販で買ってるけど、まさか店舗限定なんて……」

　商業施設に入っている大型ショップの限定グッズだという。
　それでこの深刻な顔。壱村には良く分からないが、一見にとっては一大事のようだ。そして、そんな一見を放っておけないのが壱村だった。だが。

「付き合ってやりたいけど、男二人だと余計に目立つよな」
「あっ、大丈夫だよ。また他にも通販出来るのが出ると思うから。……その気持ちが嬉しいよ。ありがとう」

　また甘い顔でサラリと言いながらも眉を下げる。どうやら一見にとって今回のグッズはこんな顔をするほどに気に入ったものらしい。
　うーん、と壱村は考えた。
　考えて、決心した。

「……あまり乗り気はしないけど、解決策、あるかも」
「え？」
「お前、明日暇？」
「うん」
「じゃあ、この建物の入口で待ち合わせな」
「え、でも、付き合わせるわけには……」
「いいから。欲しいんだろ、それ」

　そう言うと、一見は躊躇いながらも頷く。
　じゃあ決まり、と言ってこの話は終わりだとばかりにさっさと物理の問題集を開いた。

　この大きな図体で小さな子供のようなところがまた頼りなくて、俺が何とかしてやらないと、と思う。
　時々お人好しと言われるのはこういうところだろうなと分かっていながらも、やはり世話を焼かずにはいられないのだった。