一見くんと壱村くん。

雪 いつき

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眼鏡

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 授業が始まり、配られたプリントを後ろに回して、壱村いちむらは目を瞬かせた。
 一見いちみ、と声を掛けようとして口を噤む。今は授業中だった。


 授業が終わり、壱村はくるりと後ろを振り向いた。

「眼鏡、するんだ」
「あ、うん。小さい文字が少し見づらいくらいだけど、一応ね」

 受験生だし、と言って教科書を仕舞う。

「席、替わって貰って悪かったな」

 そんな事と知っていれば、他の背の高い友人と替わって貰ったのに。申し訳なさそうにする壱村に、一見は驚いた顔をした。そしてすぐに目を細め、嬉しそうに壱村を見つめる。

「え、なに?」
「やっぱり壱村って優しいな。この身長だから後ろに行くのは当然なんだけど、そんな風に気にしてくれた人いなかったから」
「そ? そっか」

 つい曖昧に答えてしまう。
 この高身長イケメンは、転校前はどれだけ不遇な学校生活を送っていたのか。いくら気が弱くて俯いていたにしても、だ。
 まだ出会って二日目だが、普通に話しやすくていい奴なのに、と不思議でならなかった。

「あ、一見君、眼鏡だ」
「え? ほんとだ」
「雰囲気違ってかっこいい~」

 わらわらと集まる女子たちに、一見は表情を変えずに視線で助けを求めてきた。今更笑顔を封印したところで、一度やってしまっては意味がないのに。壱村は仕方ないと席を立った。

「一見、さっき先生に呼ばれてたろ?」
「え? あ、そうだった」

 察した一見も立ち上がり、女子たちにごめんねと謝ってから壱村の後に続いて教室を出た。
 壱村君ずるい、と騒ぐ声を聞きながら、また女子たちの敵になってしまったと項垂れる。いや、いやいや、彼女は大学で作るからいいんだよ……!! と心の中で絶叫した。

 階段を上がり、屋上に出たところで一見は申し訳なさそうに壱村を見た。

「ごめん、壱村」
「ああ、いいって。……ってか、いつも一緒にいるわけにもいかないし、女が苦手なら男友達作った方がいいな。後で誰か紹介するな?」

 一見が引かない程度に落ち着いた友人を、と考えていると、一見は眉を下げ捨てれられた子犬のような顔をする。大きな図体で小さく見える一見に、つい小さく笑ってしまった。

「そんな顔すんなって。俺以外にも友達いた方がいいだろ?」
「俺は、壱村がいればそれで……」

 言い掛けて、ハッとして口を噤んだ。
 そのまま視線を反らしてしまった一見に、目を瞬かせる。
 この台詞、この反応。女子にやれば完全に勘違いされるやつだ。一見は天然なのかもしれない。

「そういう恥ずかしいことはスラスラ出てくるのにな」

 笑いながら一見の背を叩くと、おず……と視線が戻ってきた。

「今のは女にやったら勘違いされるからあれだけど、その調子でもっと主張していけよ。話しやすい奴だって分かって貰えるからさ」

 ポンポンと背を叩きながら言うと、一見はまた視線を反らしてしまった。そして。

「ありがとう」

 ぽつりと呟いたその顔は、耳まで真っ赤になっていた。

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