一見くんと壱村くん。

雪 いつき

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始業式

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 高校三年の始業式。

 式が終わり教室へと向かった壱村いちむらは、入口に貼られた席順を見て上機嫌に教室へと入った。

 廊下側の、一番後ろ。
 欲を言えば窓側が理想だが、この席もなかなか。多少気を抜いても教師からはあまり気付かれない。

 やった、と思い席につく。
 それに、前の席には背の高い、……。

 ――……高いな……? 黒板見えないな……?

 座ったまま背伸びをしてみた。これは、寝ててもバレなくてラッキー、というレベルではない。
 さすがに三年にもなれば授業はしっかり受けなければと思うくらいには真面目なつもりだった。一番後ろを明け渡すのは残念だけど。

「えっと、一見いちみ? だっけ。ごめん。出来たら席、替わって欲しいんだけど」

 前の席に声を掛けると、それだけで察したのか、一見は振り返ってすぐに頷いた。

「ああ、いいよ」

 そう言って鞄を手に取る。

 ――うわ、イケメン。

 壱村は目を瞬かせた。
 サラリとした長めの黒髪に、白い肌、綺麗なアーモンド型の目。
 芸能人……というより、ホストっぽい。いや、何となく。夜の街が似合いそう。そんな顔をしている。

 立ち上がるとますます身長差を実感した。
 それもそのはず。
 一見は185cm。壱村は160cm。

 手も脚も長く、体格もしっかりしている。この学校は紺のブレザーに白シャツ、緑のネクタイだが、多分学ランだと似合わなかっただろうなと思う。

 一方の壱村も、違う意味で学ランが似合わなかった。
 癖がありつつも艶のある赤みを帯びた黒髪と、男にしては大きな瞳。口を開かず少し離れて見れば美少女アイドルグループにでもいそうな風貌をしていた。

 高校三年。だが、これから伸びる可能性はある。一見を見つめ、そっと溜め息をついた。

 鞄を持ち振り向いた一見は、驚いた顔をした。

「ん? 一見? 俺の顔、なんか付いてる?」
「あ、いや……」
「気になるんだけど」
「あ、うん、えっと、……俺、今年から転校してきたんだ」

 一見は、見た目に似合わずゆったりとした話し方をする。
 壱村が席につき後ろ向きに座ると、一見も座って鞄を掛けた。

「やっぱり転校生か。こんなイケメン見たことないなって思ってたんだ」
「イケメン……」
「あれ? 自覚なし?」
「たまに言われてはいたけど、真正面から言われたことはあまりなくて……」
「そっか。一見ってクールそうに見えるし、近付きにくかったのかも? ……って、ごめん。デリカシーなかったか」

 今も女子たちは遠巻きに見ているだけだし、と思い口にしたが、もしかしたら本人は近付き難いことを気にしているかもしれない。
 眉を下げ謝ると、一見はまた驚いた顔をして、そっと目を細めた。

「そんな風にはっきり言ってくれる人、俺は好きだよ」

 嬉しそうに言う。それだけで、男相手というのにドキッとしてしまった。
 イケメンは罪。壱村は久々に“イケメン爆発しろ”とそっと心の中で叫んだりしてみた。
 低身長の壱村としては、えらそうな高身長は敵だが、馬鹿にしたりからかってこない高身長は敵ではない。むしろ一見には好感が持てた。

「俺は壱村。これからよろしくな」
「うん。よろしく」

 パッと笑顔を向けると、一見はまた一瞬目を見開いて、すぐに嬉しそうに目を細める。
 その表情の意味を問う前にホームルームが始まってしまい、会話はそこで終わった。

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