比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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おまけ2

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※ここから二つは出産と二年後のお話です。苦手な方はご注意ください。





 懐妊の知らせを聞いた王と王妃は大層喜び、その日のうちに公務の全てを王妃が引き継いだ。外交は勿論、書類仕事もストレスになるという理由だ。
 この世界では、元の世界の半分ほどの時間で子供は産まれる。急激に育つ子は不安定になりやすく、母体にも大きな負担がかかるという。王妃もアールを身ごもった時は、公務から離れてのんびりと過ごしていたらしい。


(じっとしてるのもストレス……)

 ベッドに仰向けになり、ぼんやりと天井を見つめる。

(……って思ってたけど、眠い)

 寝ても寝ても眠い。昼食を食べて寝て、本を読もうとしてまた横になった。


 ――……神子よ。


「んっ?」


 ――知識を持つものがそなたの元を訪れるであろう。


「えっ、なに、今の本物の神託みたいなのっ」

 パチッと目を開ける。
 周囲に画面はない。そっと身体を起こし、誰か来るのかなとベッドを下りた。


 その時、部屋の前では。
 どこからともなく漂う火のにおいに、護衛は瞬時に剣を抜いた。するとすぐそばに気配が現れ……。

「っ……、申し訳ありませんっ、ケイですっ」
「ケイ様?」

 フードの下から現れた見知った顔に、護衛は剣を下げる。

「至急お伝えしたいことがあります。神子様はお部屋にいらっしゃいますか?」
「えっ、ケイ君?」

 護衛が答えるより早く、扉が開いた。

風真ふうまさんっ、ご懐妊おめでとうございます!」
「えっ、わっ、ありがとう!」

 ぎゅっと両手を握られる。輝く笑顔のケイがあまりに可愛くて思わず頬を染めたことを、護衛は見逃さなかった。

「でもどうして……あっ、知識を持つ者って、ケイ君?」
「はいっ。風真さんにお伝えしなければと慌てて飛んできました」

 にっこりと笑う顔も可愛い。ジェイに愛されて自信を付けたケイは、以前より遙かに魅力的になっていた。

「っ……」
「ケイ君っ」
「すみません……」

 フラリと傾いたケイを慌てて支える。

「力使ってくれたから……。ひとまずここで休」
「神子様、私が」

 自分の部屋に入れようとすると、護衛がケイを抱きかかえる。そしてズンズンと予備の部屋へと向かった。


 ケイが目を覚ました時には、アールたちも部屋へと集まっていた。
 ケイの口からは、神子が子を産む方法が伝えられる。既にアールが離れの中にひっそりと整えていた医療体制にケイは満足そうに頷き、後は当日を待つだけになった。








 そして、当日。
 少し食べ過ぎた程度の腹痛で済むと伝えられていた風真は、予想以上の痛みに耐えて、耐え続けた。
 ケイは顔色を変えるが、風真の顔には血色があり、脈も速いが力強い。意識もはっきりしている。出血は見られないと医師も判断した。

 そばにいて手をしっかりと握るアールの方が、痛そう。アールが痛くなくて良かった。風真はふっと身体から力が抜け、安心させるように微笑んだ。


 何故こんなにも腹痛が強かったのか。その理由は……。

「天使が……二人……」

 アールは呆然として呟く。
 見つめる先で、ふぇ、と小さな声が。息を吸い込む仕草の後、二人は元気に泣き出した。

「っ……フウマっ、私たちの子が、二人もっ……」
「ふた、り……?」

 ケイと医師が子供を風真に見せる。太陽のような金の髪と、艶やかな黒髪だ。

「う……うえぇっ、アールぅっ」

 喜びのあまり泣き出し、アールの手をぎゅうぎゅうと握る。無事に生まれてくれた。それも、二人も。
 抱き合って喜ぶアールと風真に、ケイも静かに涙を流した。


 落ち着いた風真とアールに子供たちがそっと渡され、しばらく涙を流し幸せを噛みしめた。そして、廊下で待っていたユアンたちを呼ぶ。

「元気な男の子と女の子ですよ」

 ケイがそう言うと、ユアンはぴたりと動きを止めて。

「俺の……孫、たち……」

 風真とアールに抱かれた小さな子供たち。
 ぽたりと、床に雫が落ちた。

「ありがとう……ありがとう、フウマっ……」

 初めて見るユアンの涙。袖で目元を拭い、泣くなんて恥ずかしいな、とユアンは笑った。

「喜びの涙は、恥ずかしいものではありませんよ」
「そうだよな……って、トキの方がすごかった」

 振り向くと、ハンカチで顔を覆いうつむいていた。

「ユアンさん、トキさん。……ありがとうございますっ」

 ぶわっとまた風真の目から涙が溢れる。子供に涙が落ちないように上を向く風真と、子供を抱いたまま視線だけで慌てるアール。トキは動けない。


「ユアン様」

 ケイがタオルを差し出し、受け取ったユアンは風真の目元を拭った。

「お手数おかけします……」

 ふわふわのタオルに気持ちが落ち着いていく。もう親になったというのに、泣いてばかりで申し訳ない。

「……頑張ったね。ありがとう、フウマ」
「っ……、う……また泣かせないでくださいぃ……」

 頭を撫でられ、そんな言葉をかけられれば涙腺はたやすく崩壊してしまう。でも、ありがとうございます。ぐしぐしとタオルに顔を押し付けながら、風真は今日という幸せを噛みしめた。

「私が伴侶なのだが……」
「今は殿下もたくさん喜んでいいのですよ」
「……そうか」

 ケイに声をかけられ、子供を見つめる。もうすっかり泣きやみ、すやすやと眠る小さな命。
 じわりと視界が滲み、その目元を、まだ涙目のトキがそっと拭った。


「私たちの曾孫、だな……」

 扉の傍で、ドラゴンが呟く。袖で目元を押さえ、くすりと笑った。

「ああ、年を取ると涙脆くていかんな」

 傍らに寄り添う暖かな存在に、そっと頬を寄せる。宥めるように髪を撫でる風も、同じように喜びの涙を流していた。

「神子様……」

 扉のそばで、護衛は瞳を伏せる。それは一瞬で、すぐに表情を引き締めて顔を上げた。
 近付く気配。騒がしい足音と共に、王と王妃が服の裾を掴み、こちらに向かって走って来ていた。



 その日のうちに、ロイとアイリスも到着した。
 何度も大公領を訪れては控えめに滞在していた風真と、堂々としながらも風真を溺愛しているアールは微笑ましく、大公と大臣たちにも好意的に受け入れられた。その初の子とあればと、ソワソワしていたロイとアイリスと共に大量の祝いの品が贈り届けられたのだった。



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