比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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翌朝

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(ナカに出しても、出来るわけじゃないのに……)

 朝色の白い明かりが室内を照らす。
 以前にも二度出して、何もなかった。

 祈って子を授かるという方法も、まだ取っていない。
 もし、システムに祈って、子供は授かれないという答えが返ってきたら。神子だからもしかしたらという可能性すら、絶たれてしまったら。自分がどうなるか、分からないから……。

(これは願いじゃないけど……いつか、アールの子を……)

 そう考えて、きつく目を閉じた。


「フウマ」
「ん……おはよ、アール」
「今日も愛している。私の、フウマ」
「うぁっ……挨拶の代わりのそれ、朝からはまだ慣れないや」
「私は、朝から可愛いフウマにまだ慣れない」

 愛しげに瞳を細め、風真ふうまの頬を指の背で撫でる。
 先程の風真が何を考えていたか、アールには分かっていた。そして今は、気付かないふりをする事が最善という事も。
 上体を軽く起こし、風真の目元にキスをする。ほんのりと赤い頬にも唇を触れさせた。


「予想はしていたが、やはりお前は言いなりにならなかったな」

 わざと意地悪な口調で言い、くすりと楽しげに笑う。

「うっ、ごめんなっ」
「八割はなっていたが」
「二割ごめん~っ」
「だがあれがなければ、フウマを抱いている気がしない」
「!」
「私の言いなりでは、物足りなくなってしまった。どうしてくれる?」
「へへ。じゃあこれからはアールの上にいっぱい乗っちゃお」

 にへっと笑い、乗り上げる代わりに、腕をアールの上に乗せた。今は腰やら何やらが痛くて、動けそうにない。

「で、アールと喧嘩したらおとなしくしてよ~」
「喧嘩をしても抱かれてくれるのか」
「あっ、ほんとだなっ?」
「そもそも喧嘩をしないだろうな」
「ほんとにな~。最初は喧嘩ばっかだったのに」

 アールが変わり、他人を知る心を持ってくれた事もだが、本音を言い合って互いを知れた事が良かったのだと今は思う。


「最近言い争った事と言えば、フウマがいつまでも私に下着を贈ってくれない事だったな」
「んぇっ」
「着るのは私だというのに、何故そこまで拒否するのか分からない」
「それは……」

(面積狭い下着が、アールに似合うからだよ……)

 以前に一ヶ月後という圧を受けていたが、結局用意していない。未来の俺に期待! を何度も繰り返している。
 世界最強、最終兵器を生み出すから駄目だと考えたあの日から、下着の知識が増えてしまったからだ。

(そもそもなぁ……アールの美と色気が日々アップデートしてるからなぁ)

 自分も成長しているが、アールの成長スピードに置いて行かれている。

「私に何を着せたいか、ずっと気になっている」
「う~ん、それはごめんなんだけどさ……」
「それを着て、フウマの望む体勢を取ってやろう」
「んぐっ!」
「何を想像した?」
「っ……、う……」

 妖艶な微笑みを向けられ、一瞬で脳内いっぱいに溢れた妄想。


「……大変申し訳ありませんでした」

 だが、以前のように騒いだりしない。自分も成長している。だてにアールを押し倒したりソレを舐めたりしていない。

「ふっ……何を、想像した?」
「!? ぅ、っ…………ごめんなさいぃっ……!」

 耳元で囁かれ、間近で小悪魔の微笑を浴びては理性の限界を越えた。

「うぇっ……、時々ドSなのにキラキラ王子で天使で小悪魔なんてずるいっ……」
「フウマの好みそうな顔は全て会得している」
「計画的犯行っ!」
「そういう私も、好きだろう?」
「ううっ、好きぃ……」

 めそ、と泣いてしまう。こんな事をされる度に泣いている。

「私も、私でそうなってしまうフウマが好きだ」

 小出しにしているとはいえ、未だに泣くほど好きだと言ってくれる風真に愛情しかない。アールは今度は蕩けるような甘い笑みを浮かべた。


「結婚もしたのだから、腹を括って下着を」
「未来の俺に期待っ」
「ではその間に、私がフウマに下着を贈ろう」
「うぇっ!?」
「週に一度は増えていくな」
「週イチ!? せめて月イチ!」
「仕方がないな。月に一度にしてやろう」
「あっ……、誘導尋問っ!」

 ふっと勝ち誇ったアールの顔。罠にはまって、下着を贈られる事を受け入れてしまった。


(次はアールが何を選ぶか、気になってる俺がいる……)

 などとは言えない。言えば、明日にでも贈られそうだ。
 ただ一つ予想出来るのは、いつか全裸にローブだけ着せられて、自ら捲る事を求められることだ。

(なんかもう、穿いてない方が恥ずかしくない気がしてきた)

 いっそローブもない方が、全裸でベッドに転がっている方が潔くて恥ずかしくないのでは。
 ハッとした顔をする風真に、アールは思案する。どのタイミングで全裸にローブが良いだろうかと。伴侶になっても風真の顔は大変素直だった。


 風真の中で結論が出て、ふう、と息を吐く。気持ちが落ち着くと、チクッと肩が痛んだ。

「……最近のえっち後の、惨状」

 風真にはキスマークと歯型がくっきりと残り、血まで滲んでいる。
 アールには、これも血の滲む引っ掻き傷だ。

「私の肌に傷を付けたと泣いていた頃が懐かしいな」
「今も泣きたい。ってかアールも俺を噛んだ後でぷるぷる震えてたくせに」
「今も震えている。だが、私のものだという証は嬉しい」

 矛盾する思いに悩むのは今も変わらなかった。

「しかし……これ以上はさすがに、魔物と揉み合ったようになるな」
「だよなぁ……。歯型が人間ってとこしか証拠がない」

 今日は腕にも付いている。アールに噛み癖が付いてしまった。

「ってか、アールは歯型まで完璧か」
「歯並びなら、皆同じようなものだろう?」
「俺の歯並び知っててそんなこと言う?」
「知っているが? 犬歯が長いな。そこも犬か。愛嬌があるのも大概にしてくれ」
「ツンギレ属性まで会得しなくていいんだよ」

 どれだけ属性追加してくれるのか。
 かぷっと肩に噛みつくと、甘噛みでじゃれる犬扱いで撫で回された。

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