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露天風呂2
しおりを挟む「ほんとに! 露天! 風呂~!」
露天風呂を前に、風真はバッと両手を上げて喜びを表した。
「こんなに喜んでいただけて、私も嬉しいです」
トキは微笑みながら風真の腰にそっとタオルを巻いた。
「フウマさん。以前の約束は覚えていらっしゃいますか?」
「約束、……あっ、はいっ」
トキと並び、洗い場の椅子に座る。トキが前に、風真が後ろに並んだ。
「……何故だろうか。祖父と孫に見えるのは」
「俺にもそう見えるよ。フウマが可愛いからかな」
タオルで一生懸命石鹸を泡立ててトキの背を洗う風真に、驚くほどに邪な気持ちは湧いてこなかった。
風真がトキの泡を流すと、アールが背後に回る。
「フウマの背中は私が」
「わっ、駄目っ、アールに触られたら感じちゃうからっ」
無邪気で可愛い風真にそう言われても、アールは微笑みしか出ない。そうかそうか、と思うこの気持ちが祖父の気持ちだろうか。
「じゃあ俺がしようかな」
「だっ、……どうでしょうか」
「どうだろうね。試してみよう」
風真の後ろに椅子を置き、泡を風真の背に滑らせる。
「ふひゃっ、ひ、あはははっ!」
「相手の問題じゃなかったか」
「力加減の問題ではないですか?」
トキに言われ、少しだけ力を込める。
「んっ、ぅ……うひゃっ、ひゃふっ」
「ユアン様、喘がせないでください」
「不可抗力だ」
タオルと共に両手を上げた。そのタオルを取り、トキが風真の背に触れさせる。
「もっと、こうです」
「んっ、……あ~……気持ちいです~」
「かなりガシガシいくな……」
「私には出来そうにない……」
「私は必要とあらば、痛みを与える事も出来ますので」
にっこりと良い笑顔を向けられ、二人は口を噤む。
(性癖のことなのにな……)
アールとユアンは、風真に対する邪な意味か、それとも拷問も簡単だと自分たちが牽制されているのかと計りかねた。
(えっちな意味ですって言ったら誤解されそうだし、黙っとこ……)
「泡を転がす程度が肌には良いのでしょうが、たまにはこうしてしっかり洗うのも必要ですよね」
「はい、必要です~」
「髪も洗いますね」
「お願いします~」
トキの手によってぐだぐだにされた風真は、肯定しか出てこない。
「洗っているな……」
「洗ってるね……。トキが何もしないのが不思議だよ」
髪を丁寧に洗い、流してから、背中以外の場所も洗い始める。風真はまるで風呂好きの犬のようにふにゃふにゃになっていた。
健全に洗いながらも、実はトキの脳内は変わらない。
風真を泡だらけにして全身を直に手で撫で回したい。脚の間のソコを丁寧に洗うふりで、悶えて跳ねて泣き出すまで擦り続けたい。開放的なこの場所で外に声が聞こえるまで……。
……などと考える頭と、純粋に心地よさを与えたい心。
そしてこうも無防備に全身を晒されると、子犬のお世話をしている気持ちにもなる。
「終わりましたよ。湯船に浸かりましょうか」
「はい~、ありがとうございましたぁ」
ぽやぽやになった風真は、トキに手を引かれるまま湯船に向かう。アールとユアンも手早く洗い終え、二人の後を追った。
「ふあ~~、あったか~~い」
湯船の縁に後頭部を乗せ、暖かさと青空を堪能する。
「神子様~~、露天風呂文化を伝えてくださって、ありがとうございます~~」
それも、ザラッとした岩の風呂と檜風呂の二種類が並んでいる。最高だ。
「気持ちが良いですね」
「温度が低めで長く楽しめそうだな」
トキとユアンも湯の温かさにホッと息を吐いた。
湯船は二種類あるのに、四人で同じ岩風呂に入っている。
風真の隣ではアールが同じように縁に後頭部を乗せ、空を見上げた。これが風真の世界での楽しみ方かと、純粋に。
愛らしい鳥の声と、木々のそよぐ音と、波の音。誰も何も言わずに流れる雲をぼんやりと眺めた。
「…………ハッ、アールとユアンさんの背中も流すつもりだったのにっ」
「そうだったのか」
「トキに骨抜きにされちゃったからね」
「すみませんっ、夜か朝にさせてくださいっ」
「じゃあ、夜と朝にお願いしようかな」
「はいっ」
素直に頷く風真に、三人はほわっと和む。温泉の暖かさも相俟って、今の風真はただただ可愛い。
「重労働になりますから、今はのんびりしましょうか」
「はいっ」
トキに手を引かれて、檜風呂に移動する。アールとユアンも何も言わずについてきた。
「あっ、海が見える~っ」
目隠しの衝立は低く、立ち上がれば砂浜と海が見えた。この宿は少し高い場所にあるため、向こうからは顔しか見えないだろう。
「フウマさんのお国の文化は、控えめなのか大胆なのか分かりませんね」
「だよね。アールと一緒にフウマの全裸を見てるのが不思議だよ」
「全裸をお前たちに見せているというのに、隠す方が不思議に思える」
不思議な文化だ。
三人は同じ事を言い、はしゃぐ風真の背を見つめた。露天風呂には、邪な心を洗い流す作用があるのかもしれないと、また同じ事を思いながら。
夕食では目の前で焼き上げる貝や蟹をはふはふと食べ、新鮮な刺身に目を輝かせ、海の幸を全身で楽しむ風真を、三人は堪能していた。
「海、さいこ~っ」
ぱあっと夜空すら照らす笑顔。アールはこの宿を選んだ自分を内心で褒め、ユアンとトキは心から感謝した。
フウマが笑えば世界は平和になる――。
三人は本気でそう考え、アールは戻り次第休みの調整をしようと思案する。次は、牛づくしの宿に行くために。
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