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隊長は
しおりを挟む「結婚? するわけがないだろ?」
仕事終わりの食堂で、部下の問いにユアンはさも当然とばかりに答えた。
「まあ、そうですよね……」
「俺の失恋の傷は新しい恋で癒えるようなものじゃないし、そもそもフウマ以外を愛せるわけがない」
きっぱりと言い切る。
「俺にはもう最愛の息子がいるし、愛せもしない妻と子なんて必要ないし邪魔なだけだ」
また迷いもせずに言い切り、チーズを口に放り込んだ。
「そういえば隊長って、そうでしたね……」
「昔から淡々としてるってか……」
「神子様が来る前は、俺たちにすら一線引いてましたもんね」
飲みに行っても、どこか冷めていた。あくまで隊長として部下を管理する立場だった。
「人間らしくなりましたよね」
「丸くなりましたよね。あ、体型のことじゃないっすよ?」
部下たちは楽しげに笑う。ユアンは、ふっと笑みを深めた。
「そうだな……。以前はただの部下だったけど今は戦友……いや、フウマの下僕だと思ってるよ」
「下僕!」
「せめて従僕!」
「光栄ですけども!」
神子様相手なら何でも許せてしまうけれど。
「冗談だ」
「いやいや、本気の目でしたよっ?」
「冗談に冗談で返すくらいには、お前たちに心を許してるという事だ」
「本気でしたけどっ?」
まさか体型を気にしているとは。いやいや、いつも変わらず引き締まった体と逞しい筋肉をしていながら何を気にする事があるのか。
「……世話焼きな兄や叔父は、こんな感じなんだろうな」
「!?」
突然しんみりした声になり、部下たちはハッとする。
「お前たちも、俺とフウマの家族だ」
「隊長~!!」
「フウマの父親は俺だけだから、そこは肝に銘じておけ」
「うっす!!」
「隊長の親バカ~!!」
「褒め言葉だな」
盛り上がる部下たちに、ユアンは満足げに酒を呷った。
「ああ、そうだ。明日の飲み会は可愛い息子と、息子の婚約者が来る」
「神子様~~!! ……ふあっ!?」
「で……でん、か……?」
一瞬で場が静まる。飲み会に、王太子殿下が。優しくなった事はこの目で見て知っているが、それとこれとは別だ。
「仲良くなった方が俺たちとアールの為だと、フウマが言ってね」
「ふ……ふう~! 隊長の親バカ~!」
「なんで最初が飲み会なんですか~!」
「酒が入った方がお前たちも話しやすいんじゃないか?」
「飲むどころじゃないっす!」
今度はブーイングが飛んでくる。ユアンは頑張れ頑張れと楽しげに笑った。
酒が入った方が、アールも話しやすいだろう。ふっと笑みを零し、甘い紫色のワインをグラスに注いだ。
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