比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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親子と友人2

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「へへ……。ユアンさん、トキさん、だぁいすき~」
「すっかり酔ってしまったね」
「酔ってないですよぉ」
「酔っ払いはみんなそう言うんだよ?」
「ふへへ~」

 ふにゃふにゃと笑い、ユアンに擦り寄る。

「酔ったフウマさんはこんなにも愛らしいのですか……」
「トキ。酔っ払いに悪戯をするなよ」
「しませんよ。お酒で食道が、っ……」
「んん~、ひんやり、きもちぃ~」

 三人横並び。隣にいたトキの手を掴み、ぺたりと頬に当てる。

「……お酒で食道が、緩んで……」
「吐いてしまうかもしれないな」
「ええ。それはフウマさんの健康に悪いので……」

 グタグタになった風真ふうまに悪戯をして悶えさせたいが、吐くのは身体に負担が掛かる。グッと拳を握りしめて堪えた。


「お酒でとても素直なフウマは、今日は何を言ってくれるかな?」
「ん~~」

 じわじわと酔いが回り、ふにゃ、と笑う。

「おれ、りっぱな王太子妃になって~、この国のやくに立ちたいんです~。がんばりますっ」

 今の風真は、それが目標だ。幸せな気持ちで宣言した。

「アールのとなりにいても、あーるがわるく……いわれないよう、に……」

 ウト、と瞼が落ち始める。

「ゆあんさんと、ときさんが……じまん、できる……みこに……」

 いっぱい褒めてくれる、それに相応しい神子になりたい。
 四人で一緒にいても、あんな神子の使いなんて、と言われない立派な神子になりたい。

 それは声に出来たか分からない。ふわふわと幸せな気持ちで眠りに落ちていった。


「もう、ずっと前から自慢の神子だよ」

 呂律の回らない言葉は、二人にはきちんと伝わっていた。
 ユアンは風真を抱きしめ、トキは風真の手を握り、優しく髪を撫でる。

「フウマさんは、いつも誰かのためですね」
「それを自分のためと思ってるよね。本当にいい子だ」

 額にキスをして、頬を撫でた。

「王太子妃か……」
「重いものを背負わせてしまいましたね」
「ああ。……それでも、俺じゃ駄目だったんだろうな」
「他の誰でも駄目だったのでしょう」

 アールが良かった。ただ、それだけ。
 風真が立派な王太子妃になりたいと望むなら、それを助けるのが自分たちのやるべきことだ。

「きっとすぐ、立派な王太子妃になるんだろうな」
「ええ。この世界に来られた頃のフウマさんとも、もう随分変わられましたから」

 それでも、風真はいつまでもこうして懐いてくれる。王太子妃だからと、自分たちを敬遠するなどない。そう信じたくて。

 二人は視線を合わせ、ふっと笑う。
 自分たちに撫でられるのを拒否する風真など、やはり想像も出来なかった。


「さて。今のうちに運んでおかないと」

 ユアンは風真を抱き上げ、立ち上がる。

「今日は多分、跳ねるから」
「跳ねる?」

 トキが首を傾げると、答えるようにびちっと跳ねた。

「ふふ、生け簀から出された魚みたいですね」

 びちびちと跳ね、スンとおとなしくなった。

「酔っても大丈夫だって気を許して飲みすぎた時は、こうなるんだ」
「それは嬉しいですね。ふふ、可愛い」

 つん、と頬をつつくとまた跳ねる。次におとなしくなったタイミングで、ユアンは足早に風真を予備の部屋へ運んだ。


 ユアンは少し考え、広いベッドの枕元に風真の体を横たえる。

「うう~~ん……」

 すると呻いた風真は、枕元から足元までコロコロと転がっていく。

「わぁ、よく転がりますねぇ」
「宿のベッドは狭くて出来なかったけど、一度見てみたかったんだ」

 足元で風真の体を支えると、コロコロとまた枕元へと戻ってくる。

「フウマさんで遊んではいけないと、分かってはいますが……」
「可愛いし、フウマも楽しそうだから」
「どんな夢を見ているのでしょうね」

 ふふ、と微笑み、枕元から風真を転がす。ユアンは足元から転がした。

「へへ……オムレツ~……」
「……どんな夢でしょうか?」
「オムレツになる夢……オムレツごっこをしてる夢かな」
「想像が難しいですが、可愛いですね」

 可愛いから、と全てはそれで片付いてしまった。
 あまり転がしても気分が悪くなってしまうかもしれない。ユアンは風真を正しく横に寝かせ、自らもベッドに入る。


「転がるフウマを押さえるためだから」
「問われる前に言い訳をすると余計に怪しいですよ」

 トキはくすりと笑い、ユアンの反対側からベッドに上がった。

「私もフウマさんを押さえているだけですので」
「……まあいいか。三人でいた方がアールも心配しないだろうし」

 仕方ないとユアンは苦笑し、風真を抱き寄せる。トキは風真の髪を撫でて手触りを堪能した。
 ユアンが油断した頃に風真を奪い、しばらくして奪い返される。
 そんな事が繰り返されている中、風真は暖かい布団に前から後ろから包まれる幸せな夢を見ていた。

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