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*婚約初夜おまけ

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 とんでもないところに巻き付けられるリボン。
 真っ赤なそれが、綺麗な指で丁寧に蝶結びされた。

「蝶が留まっているようで、愛らしいな」
「こんなとこじゃなきゃな……」

 感嘆の溜め息をつくアールと、羞恥に悶える風真ふうま
 これは想像以上に恥ずかしい。根本だけでなく全体にも巻かれた。何より、ただ巻かれただけで軽く反応している事が、とても居たたまれない。

「ううっ、専用の道具とかあったら、今後はそっちを使いたい……」
「詳しい者に訊いてみよう」
「王太子がそんなの訊いて大丈夫?」
「信用出来る者だが、例え漏れたとしても使いどころのない情報だろう?」
「それは、まあ……」

 王太子殿下が夜のプレイで、射精出来ないようにする道具を使用している。
 確かに噂もしづらく、だからどうしたという情報だ。あえて言うなら、風真の耳に入れば羞恥で悶えるくらい。


「だが、このリボン以上にフウマに似合うものがあるだろうか……」
「普通でいいんだよ……黒とか白とか……」

 と言ってもアールは難しい顔をする。本当に出逢った頃とは別人のように愛でてくれる。悪いのは顔だけにしろ、などと言っていた頃が嘘のように。

「やはり、これが良く似合っている」

 可愛い、と瞳を細め、愛しげに指先で撫でた。

(撫でるのソコじゃないんだよなぁ……)

 ソコと会話しないで、顔を見て可愛いと言って欲しい。男だけど、アールに可愛いと言われるのは嬉しいから。




 十数分後――。

「うぇっ……出したいっ、出したいよぉっ……」

 めそ、と早々に泣いてしまう。アールの固いモノで奥を突かれ、もう何度も達した感覚が襲っている。

「あっ、だめっ、ほどかないでっ……」

 リボンを解こうとすると、その手を押さえてイヤイヤと頭を振った。
 出したいけど、出したくない。
 矛盾した事を言ってアールを困らせている。それでも。

「もっといっぱい、アールを感じてたいっ……」
「っ……」
「ひぐッ――!」

 縋るように抱きつくと、腰を掴まれガツンと奥を突き上げられた。

「ひ、ぃ……イって、りゅぅ……」

 出さずに達した体を激しく攻められ、ガクガクと震える。

(苦しい……、けど……)

 アールが行為をやめない事が、求めてくれる事が、愛してくれる事が、嬉しい。

「あぅっ、あ、あぁッ」

 アールの名を呼びたいのに、言葉を成さない喘ぎばかりが零れる。それならと頬を擦り寄せ、震える脚をアールに巻き付けた。


「可愛い……私の、フウマ」

 懸命に縋り付き、泣きじゃくり、ぐちゃぐちゃになった顔。
 太陽のような風真のこんな姿は、誰も見る事の出来ない、自分だけの……。

「ッ……――!!」

 声もなくまた絶頂を迎えた風真の額に口付け、奥深くに自身を押し付ける。薄い膜越しに溢れ出る白濁を本能のままに擦り付け、風真の耳元へそっと言葉を注いだ。





 体力が回復しては体を重ね、抱き合って眠り、食事も互いに食べさせては笑い合い、ずっと触れ合う三日が過ぎた。

 結局、縛る事で体力消費量が減ったかどうかは、分からなかった。あまりの快楽に、何度も意識を飛ばしてしまったからだ。
 食事をしながら冷静に話し合い、引き続き試してみようということで落ち着いた。


 そして、四日目。
 抱かれすぎて色気がダダ漏れになっているからと、風真は外に出して貰えなかった。風真としても全身が痛く、歩く気力すらなかった。
 同じ理由でアールも風真に外出禁止を言い渡され、今はおとなしく自室で書類仕事をしている。
 離れるのは寂しい。だが一緒にいては、また抱き合ってしまう。それではいつまで経っても外へ出られない。互いを想い、二人は溜め息をついた。

(アールの色気はもはや鈍器だしな……)

 あんなアールを見ては、理性をガツンッとやられて無意識に襲ってしまう。間近で見続けて少しは耐性の出来た自分でさえ、ムラッときて何度か押し倒したのだから。
 自分は気付けばアールの上で喘いでいたが、相手が屈強な男ならアールは勝てないかもしれない。

(アールは俺が護るんだ)

 だから、会いたい気持ちも触れたい気持ちも我慢する。護衛にもお願い事をした。アールの護衛騎士に、数日は目の届く距離にいて貰えるよう話して欲しいと。

(……でも、会いたいな)

 三日も一緒だったから離れるのが寂しいのだと、次からは二人きりで数日籠もるのはやめようという結論に至った。
 毎晩どちらかの部屋で眠り、昼食は王宮のアールの執務室で一緒にとり、出来る限り一緒にいようと。

 それは、明日から。今日は別々に眠り、明日の朝食から顔を合わせる。
 寂しい。会いたい。それでも、王太子と神子としての役目を放り出すわけにはいかない。互いの足枷になるために好きになったわけではないのだから。





「悪いな。今日は護衛騎士を目の届く範囲に置くよう、フウマから言われている」

 翌日。自主的に訪ねてきたロイは、執務室の外ではなく内側にいる護衛騎士に首を傾げた。だが、そんな理由なら納得だ。

「そうでしたか。さすがは神子様です」

 いつかのように悩ましい色気を漂わせているアールに、よく忠告してくれましたと笑顔になる。
 聞いたところ、今日は会議がいくつも入っている。それなら護衛騎士は必要だ。アールを守るために。そして、元はそんな気はないのに色気に参って衝動的に襲ってしまう、普段は真面目な相手を守るためにも。

 籠もっていた三日間、何があったかと聞かずとも分かる。
 風真からの愛情を溢れるほどに受けた兄がここまでの色気を放つとは、ロイにも予想出来なかった。


「ロイ」
「はい」
「神子は、男女と同様の工程で子を成すと思うか?」
「……どうでしょう。神に祈る事で子を授かられたという記述はありますが……」
「記述は信用していない。神の子が男と交わったなどと記すのは、神殿が許すはずがないからな」
「確かにそうですが……」

 まさか、やはり、とロイはアールを見据える。アールはばつが悪そうに視線を逸らした。

「兄上……。お腹を痛めるのは神子様なのですから、無責任な事をなさいませんよう」
「肝に銘じる……」

 アールは珍しく項垂れ、深く息を吐いた。

 この二人の間には、少しばかり誤解がある。
 ロイは、この三日間何度も中に出したのだと思っている。
 アールは、孕めと暗示のように何度も囁いた事で子が出来る可能性の方を考えている。
 記述は信じていないが、風真も最後の方には譫言のように受け入れる言葉を繰り返していた。神に愛されている風真なら、口にした言葉が叶えられるかもしれない。何より、一度は中に出してしまったのだ。

 元々責任は取るつもりだ。風真を伴侶にして歴代一幸福な妃にすると決めている。
 この三日間で、父になる覚悟も出来た。
 だが最も重要なのは、今の風真が子をまだ望んでいないということだ。


「備えておくに越した事はないな」

 いつかの時のために、準備だけはしておこう。

「兄上……」

 何の備えを、と問うまでもない。兄がここまで言うなら、可能性が高いという事だ。まだ婚約したばかり。さすがに無責任と言わざるをえない。

 と、ここでも誤解が生じていた。
 だが。

「結婚式の一年後なら、フウマの腰や体も少しはしっかりしているだろうか」

 その言葉で、ロイは誤解だと気付いた。

「既にお子が出来ているというお話では?」
「可能性を考えている段階だが? 子は神からの授かり物だからな。記述は信用していないが、フウマは神に愛されている。私が子を孕めと言い、頷いたフウマの願いが叶えられるのではと」
「そうでしたか……」

 ロイは安堵した。二人が仲睦まじいのは素晴らしいこと。二人が子を望み、神から授かればめでたいことだ。だが、今ではない。
 ……私的な感情としては、国を離れる前に二人の子を見る事が出来ればと望んでしまうが。



 後日。
 アールは、ドラゴンと建国の神子とケイを呼び出し、緊急会議を開いた。
 その翌日には助産師と医師を呼び、万全の医療体制を整える。
 更には乳幼児専門の品を扱う店を調べ上げ、自ら脚を運び、いくつか目星を付けた。がきた時には、風真と共に選ぼう。

 緊急会議でドラゴンは、神子に子が出来た前例があるだけだと言った。
 ケイは、お二人ならすぐ出来そうなのでお気を付けて、と満面の笑みで言った。
 どちらを信じるかと言えば、後者だ。

 だが、子を授かり賑やかに生きるにしても、風真と二人で生きるにしても、幸せである事に変わりはない。風真がいてさえくれれば幸せだ。
 だからこそ、万全の体制を整えた。風真を、失わないために。
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