比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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久々の通話2

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「……あのさ、姉ちゃん。王族の宝石、というものがありまして……」
「ほう、詳しく」
「王族が求婚の時にだけ使える宝石で、すごく綺麗に澄んだ青空色をしているのです」
「なるほど。青空色、と」
「そうです。誰かを、思い出しませんか……」

 由茉ゆまは「そうですな……」と渋い探偵のような口調になる。コホンと咳払いまでした。

「それは、今日あなたの隣に立ち結婚の約束をし、それ以前には星の綺麗な夜空の下であなたに求婚をした人物ですか?」
「ふぁ!? なんで知ってるのっ!?」
「あれ? 当たり?」
「大正解だよっ……」
「そっか~。良かった。風真ふうまが星が好きなことくらい知ってないと、婚約者として認められないからね」

 風真を大事にする王子の好感度上がった、と由茉は明るく笑った。


「王子が自分の色をいつも風真に身に付けてほしくて、その色の宝石にしたんでしょ?」
「大正解だよっ……」
「王子のことだから、十億くらいするのあげようとして、風真が気にするから一億で我慢しておこうって感じじゃない?」
「ありえるっ……てか俺、一億する指輪って言ったっけ!?」
「まじか。本当に一億」
「……ってユアンさんが」
「なら一億ね……風真が指に豪邸乗せてる」

 豪邸。風真は左手を見つめ、改めて息を呑んだ。

「愛されてるね~」
「あ……愛され、てる……すごく」

 ぽそぽそと小声になる風真に、あの風真がねぇ、と感慨深くなる。


「俺も、アールに指輪プレゼントしたんだ」
「そうなのっ? 風真もやるね~。王子、喜んだでしょ」
「うんっ。すごい喜んでくれて、嬉しくてっ、……なんかもう、アールが可愛くて仕方ない……」
「風真。可愛いと思い始めたら、もう抜けられないのよ」
「姉ちゃんのその言葉で、俺はもう駄目だと思いました」
「ようこそ、幸福しかない暖かい沼底へ」

 由茉はクスクスと笑った。

「そんな沼底、抜け出せないし抜け出す気も起きないよ~」
「それでいいのよ。風真が幸せならずっとそこにいていいの」
「姉ちゃん……。と沼を掛けたんだね」
「正解。微妙なダジャレみたいになっちゃったわ」

 二人で笑い合う。この他愛ない会話が、二人には貴重な時間。同じ世界にいた頃のような時間を過ごせる、幸せな時だ。

 だが画面に表示された残り時間はあと少し。風真は指輪を撫で、そっと息を吐いた。


「姉ちゃん……。俺の生活費も、買い物するお金も、国民の税金から出てるんだよね……」

 声のトーンを落とした風真に、そうね、と落ち着いた声で返す。

「俺、アールと結婚するまでに、どうすれば国民に還元出来るか勉強しようと思うんだ。今でも豊かな国だけど、困ってることはあるだろうから……。貴族の人と衝突しないようにしながら、平民の生活水準を上げていきたい」

 王太子妃になってからでは遅い。そう思い、少しずつ勉強していた。それでもまだこれという答えが出せずにいる。

「……風真、よね?」

 由茉が心から怪訝な声を出した。

「うんっ、俺だよっ?」
「いつの間に、そんなに立派に……」
「ユアンさんにも言われた……。俺、そんなに変わったかなぁ……」
「うん……。もうすっかり国を動かす人の思考だよ。感動しちゃった」
「へへ。姉ちゃんにそう言って貰えたら、王太子妃頑張れそうっ」

 勇気も元気も、いつも姉から貰っている。
 だからいつも、心配させないように、この世界で神子も王太子の婚約者も、ちゃんとやれているのだと安心させたかった。


「庶民の気持ちが分かる俺だから出来ることもあると思うんだ。俺に出来る全てでアールを助けたいし、アールをいい王様にしたい。いい王様のいる国だってみんなが誇りに思って、笑顔で暮らせる国にしたい」

 アールなら、誰もが認める国王になれる。まだ誤解される事も多いアールだから、その手助けをしたい。
 もう二度と、襲撃など起こさせない。アールを悲しませない。危険な目に遭わせない。
 一度目を閉じ、そっと瞼を開いた。

「俺、頑張るから。だから、これからも応援しててほしいな」
「風真……。うん、応援してるよ。風真なら大丈夫。きっと叶えられるって信じてるよ」
「ありがとうっ。姉ちゃんに応援して貰えたらなんだって出来そうっ」

 姉の言葉はいつも道を照らしてくれる。
 これからもこうして話して、いつか自分も、道標になれたら……。


 ――国際通話が利用可能になりました。


「「国際通話??」」


 しんみりとしたところで、ピコンッと文字が現れた。


 ――国際通話機能:毎月三時間までかけ放題。


「お得なセット料金じゃないんだから……」
「そもそも国際ってか異世界……」


 ――国際通話機能が追加されました。


「あくまで国際でいくのね」
「あ。画面にボタン出た」
「電話マークに国際の文字、分かりやすい」


 ――クエストクリアによる通話報酬を終了します。


「これからは好きな時に掛けられるのねっ……。ありがとうっ」
「ありがと! 多分ゲームシステム~!」
「一時間話すなら、月三回かけられるじゃないっ」
「三十分なら月六回!」
「ありがたや~!」

 二人で画面に向かって手を合わせる。


 ――*+#!!! :) ***...enjoy ;)


「いきなり英語、って、文字化け?」
「もしかして、照れ隠し?」

 笑い合いながら、ありがとう、と繰り返す。そうしているうちに時間が来てしまった。

「風真っ。じゃあ、またねっ」
「うんっ。また話そうねっ」

 二人は笑顔で別れを告げる。また今度と、約束をして。



 通話が切れると、画面には国際通話の残り三時間の文字。
 風真はジッと画面を見つめ、へらりと笑った。

(また話せる。好きな時に、話せるんだ)

 姉の方にもボタンが現れたのなら、あちらから掛ける事も出来るのだろう。一方的ではない事に、また笑みが零れた。


 嬉しくて、結局ぼろぼろと泣きながらひとしきりベッドの上で転がり、ふと気付いた。
 風真はベッドを下り、シャツを羽織ってからそっと扉を開ける。

「神子様?」
「あの、護衛さん。さっきの俺の声、聞こえました?」
「はい」
「叫んだ後の、話してる声なんですけど」
「……いえ。叫び声以降は何も」

 話し声、と護衛は表情を変えずに思案し、答えた。

「そうですか」

 風真は胸を撫で下ろす。護衛は嘘を言わない。今更だが、由茉との通話は聞こえないようになっているようだ。これはまた便利な機能だ。

「ちょっと独り言が元気になったかもと心配だったので、聞こえてなくて安心しました」
「ご心配には及びません。内容まではこちらからは把握出来ません。万が一聞こえましても、決して他言は致しません」
「ありがとうございます。護衛さんにはいつも信頼しかないです」

 にぱっと笑う。
 風真の心配は、寂しさから空想の姉に語り掛けている、と思われないかだった。いくら護衛でも、何度も続けばきっとアールたちに報告するしかなくなる。


「その……婚約したので、色々と心の整理などをしていました。この後も奇声を上げるかもですが、すみません、気にしないでください」

 由茉との会話が外に聞こえないなら、後の心配は護衛を心配させることだけだ。

「神子様。ご婚約おめでとうございます」
「っ、ありがとうございますっ」
「今後も神子様の護衛として、神子様の愁いは私が全て致します。ご入り用の際は遠慮なくお申し付けください」
「お世話になりますっ、ありがとうございますっ。…………ん?」

 今の会話、何かおかしかった。風真は首を傾げる。

(おめでとうからの、処理?)

「神子様の御身と幸福をお守りする事が、私の仕事であり、私の使命です」

 それは、つまり。

(……俺が幸せじゃないと、クーデターが起こる……)

 婚約からのこの流れ。またしても自分の幸せに重い意味が追加された。


 だがそれは、それほどまでに幸せを願ってくれているということ。
 護衛が仕事としてだけでなく、使命だと言った。大切にされていることに、頬がふにゃりと緩んだ。

「俺、こんなに大事にして貰って幸せです。これからも、ずっと幸せでいますね」

 処理をお願いする日はこない。クーデターも必要ない。アールに不幸にされる日は来ないのだから。

「いつも護ってくださってありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、護衛は胸に手を当て「必ずお護り致します」と深く礼をした。


 扉を閉めた風真は、ハッとする。護衛が処理などと言い出したのはきっと、頬に涙の跡が残っていたからだ。
 風真はもう一度扉を開け、「嬉し泣きです」としっかり主張する。

「……そうでしたか」

 ふっ、と護衛の口元が僅かに綻ぶ。
 すぐに表情は戻ったものの、微笑んでくれた事に心臓が跳ねた。

「……ごゆっくりお休みください」

 笑った、と目が正直にキラキラしている風真から恥ずかしそうに視線を逸らし、元のように壁に背を向けた。

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