比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

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婚約式3

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 王とアールが祭壇前に着き、王が席に戻った後に、風真ふうまとユアンも会場内に入る。

 結婚式と同様に、ユアンの腕に添えられた風真の手。
 風真の隣で、風真の家族として、この道を歩いている。
 感極まり零れそうな涙を堪え、道の先にいるアールを見据える。風真を必ず幸せにすると信じられる、アールに託す為に。

 だが、風真を嫁……いや、婿に出しても、自分も風真を笑顔にすることは変わらない。寂しさを感じる事はない。これからもずっと、変わらずにずっと……一緒にいられるのだから。


 アールの待つ場所で、二人は脚を止める。
 風真はユアンを見上げ、太陽のような笑みを見せた。

「ユアンさん、行ってきます」
「っ……ああ、行ってらっしゃい。また、後で」
「はいっ」

 寂しさも不安も払拭する明るい笑顔に、ユアンも自然と笑顔になる。周囲に声までは聞こえずとも仲睦まじい雰囲気に、人々は本当にユアンが養父になったのだと納得した。


「フウマ」

 二人の遣り取りを待って、アールは風真に手を差し伸べる。風真はその手に、そっと手を重ねた。

(姉ちゃん、完全に王子様のスチルだ……)

 愛しげに見つめるアール。その柔らかな微笑みに、人々がざわめく。
 否定的な声ではない。あまりの美しさに対する感嘆の溜め息だ。美しい、と聞こえた声に、アールは気付かれないよう張っていた緊張をふっと解いた。



「それでは、婚約式を執り行います」

 トキの穏やかな声で会場はまた静まり返る。
 流れるような声で祝福の言葉が述べられ、トキにならと預けた二人の指輪を、トキが差し出した。

 アールが風真の指に嵌め、次は風真が。

(アール?)

 指輪は嵌めたのに、グッと手を握られる。どうしたのだろうと見上げると。

「!?」

 ちゅ、と指先にキスをされた。
 またざわめく人々。正式に婚約出来た歓びを抑えきれないアールの眩しい微笑みに、皆、目を奪われた。
 だが固まっていては強制的な婚約と思われるかもと、風真は手を伸ばし、アールの頬を愛しげに撫でる。触れると互いに愛しさが溢れて……。


「仲睦まじいお二人を、神も祝福しておられるでしょう」

 トキが穏やかな声でその場を収め、続きはお部屋でどうぞ、と笑顔で風真とアールに囁いた。

「すみませんっ……」

 条件反射で謝る声は小声。風真も成長したなとアールは愛しげに見つめ、風真の手を取る。

「フウマ。皆に挨拶をしよう」
「うんっ」

 二人は人々の方を振り返り、列席への感謝を込めて礼をした。


 最前列ではロイとアイリスと、王と王妃が、涙を浮かべて拍手をする。ケイとジェイは婚約式の準備に尽力した人々の席で、同じく拍手をしていた。

(あ……細工師さんと宝石商さん、来てくれたんだ)

 風真が視線と笑顔を向けると、アールはそちらへ指輪を掲げ、ふっと満足げに笑った。


「神の祝福だ!」

 ステンドグラスからは光が射し込み、二人の進む先を照らしている。何もないはずの天井からは白い花びらと羽根が舞い降りた。

(んんっ、祝福すご~!)

 ステンドグラス越しの光が、ロイとアイリスの時より色鮮やかだ。
 俳優に合わせてライトの変わる舞台のようで、異世界で舞台俳優体験! と心の中でそっとツッコミを入れた。


 人々の盛大な拍手の中を進み、外に出ると、まるで雨のように光の粒と花びらが振り注ぐ。祝福に訪れた民衆から戸惑いの声と歓声が上がる。

(えっ、やりすぎぃっ……!)

 馬車までの道に、赤い花びらがカーペットのように敷き詰められた。

(んも~っ! 異世界でハリウッド体験~!)

 アールはもはやそれでしかない。映える。映えしかない。その隣を歩く自分は、……いや、周囲をキラキラと舞う光の粒によって、平凡でしかない自分の顔が見えたとしても神々しく映るかもしれない。

(異世界補正、ありがとう!)

 誰もおかしな顔をしていない。そうだ、きっと顔どころではない。神の祝福イベントが今、目の前で起こっているのだ。
 風真は安堵して、人々に笑顔で手を振った。

「神子様~!!」
「王太子殿下、おめでとうございます~!!」

 一際大きな声の方へと視線を向けると、以前風真と訪れたカフェにいた客と店員が手を振っていた。その隣でオーナーと思われる者がアールを拝んでいる。
 アールの記憶に間違いはない。あれは彼らだ。あの日の行動だけでこうも祝福される事に、戸惑いと……風真への評価が好意的なものであることに安堵し、声の方へと手を掲げて応えた。


「ふ……、我らの孫は規格外だな?」

 木の上から眺めていたドラゴンは、傍にいる神子に声を掛ける。

「ああ、良い時代になったものだ。そなたと私が護ってきた国だからな」

 その行く末がこの祝福に溢れた光景であることにそっと笑みを零し、馬車に乗り込むまで民衆に応えている風真とアールの姿を見守った。





「緊張したぁ……」

 自室へと戻り、離れの衣装部屋で着替えた私服すらソファの上に脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込む。
 ユアンに、「部屋に戻ったらすぐ脱ぐのにね」と言われた時はえっちな意味かと思ったが、健全な方だった。健全に今、下着一枚になっている。

 疲れただろうからと、アールが夕食まで自室で休む時間をくれた。王と王妃への挨拶も後日、四日後に予定されている。

 以前、三日三晩抱きたいなどと言われた言葉に嘘はなく、今夜から三日はアールと二人きりで過ごす。防犯のために、この部屋で。

(ここで、アールと……)

 どうあっても、今後はその三日間を思い出して悶えてしまいそうだ。


「……婚約、したんだよな」

 もそ、と身を丸める。

「婚約者になったアールが、……この部屋に、くる」

 あのキラキラとした、花びらのレッドカーペットを堂々と歩いていた……祭壇前で、婚約を誓った、アールが……。

「んあああ~~!!」
「神子様?」
「すみません! なんでもないです!」

 護衛の声とノックの音に、飛び起きて元気に答えた。いけない、悶える声は自分で思うより大きいことを忘れていた。

(声……。……うん、護衛さんなら、聞こえない位置にいてくれるよな)

 今夜の事をまた考えてしまい、今度は口を押さえてゴロンゴロンと転がった。


 ――伴侶の約束をクリアしました。


「んっ!?」

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