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*確認したいこと
しおりを挟む「私の願いは叶えて貰ったが、フウマの望む体位は」
「俺?」
先程の一覧から、いいなと思ったものを思い出す。
背後から抱きしめられながら、向かい合って密着しながらなど、いかにも恋人らしい体位ばかりだ。抱き合う事が好きなのだから、当然そうなる。
だが、それはまた今度にしよう。
先程の体位くらい恥ずかしく、今後言えそうにない事をしてしまいたい。
「……体位じゃないんだけどさ、ちょっと、確認っていうか……」
確認? とアールは風真を見つめる。
「いや、ほんとにただの確認な?」
「ああ。確認だな」
ここまで言うなら相当言いづらい事だろう。アールは風真の意思を尊重し、頷いた。
そして。
「…………ココを靴で、踏んでほしい」
「…………今まで、さぞ不満だっただろう」
「待って、そういう性癖があるわけじゃないから」
「分かっている。私を傷付けないよう、生温い責めでは足りないと言い出せなかったのだろう」
「違うからっ、ほんとにただ、確認したいだけっ」
「何を確認する必要が?」
「うっ、……前にアールが強引に口に突っ込んできたことあるじゃん? あの時、ちょっとだけ…………いっそ踏んで欲しいって思ったのは、俺の本心じゃないっていう確認」
風真の性格では疑問を疑問のままにしておけなかったのだろうと、アールは理解を示す。その上で、何を確認することがあるのかと溜め息をついた。
「本心だろう?」
「違うかもだし」
「快楽に従順なのだから、その場で可能な限りの強い快感を求めても何らおかしくはない」
「ぅ……引かないの?」
「フウマは快楽に対しても素直だと、初めて触れた時から理解しているつもりだ」
ふっと微笑み、風真の頬を撫でる。
「だがお前は、言葉で言ったところで納得しないだろうな。少し待っていろ」
アールはそう言って、クローゼットからバスタオルを数枚出す。それをベッド脇の床に敷き、風真にはバスローブを着せた。そして靴入れから、箱に入っている未使用の靴を取り出す。
(俺を傷付けまいとする愛情を感じる……)
抱き上げられて、重ねられたふわふわのバスタオルの上に乗せられる。正座をした脚の上にもタオルを乗せられたのは、バスローブがずれても風真の体を傷付けないためだろう。
靴を履きベッドの縁に座ったアールは、風真の髪を優しく撫でた。
「……なんか、無理にやらせてごめんな」
「私も興味はある。フウマの事なら、全て把握しておきたい」
「これはいらない情報だと思う。余計にごめんな……」
「私には必要な情報だ。愛する者の全てを知りたいと思うのは、おかしい事ではないだろう?」
「アール……」
こんな事まで必要だと言ってくれる。盲目的になりすぎている気はするが、引かずに協力してくれる事が嬉しかった。
「ひゃんッ!」
感動したのも束の間。油断した体に強い刺激が襲い、びくりと跳ねた。
「確認、だったか?」
「っ~~、今のはびっくりしただけっ」
「そうか」
表情の変わらないアールは、靴底で器用に風真のモノを撫でる。
「っ、ぅ……」
気のせい。感じていない。気持ちよくなんかない。そう言い聞かせて意識を逸らす。
「んっ、は……ぁ、くっ……」
さすがに靴で踏まれて感じる性癖はないはず。男の急所を踏まれて、ちょっと怖いだけ。
「うぁっ、くぅ、んっ」
トントンと靴先で先端を叩かれ、力なく下がっていたソレはすぐに元気良く勃ち上がった。
「ひぅっ、ひ……ぃッ」
快感に応えて布を持ち上げるそれを、ぐりぐりと踏み付けられる。強烈な刺激に悲鳴を上げ、アールの膝に縋り付いた。
「ァ、ぁあっ、ッ……!」
風真の体で見えなくなっても、固い靴底は器用に動く。踏み付け、擦り上げ、タオル越しとは思えない強烈な刺激。
痛みと快感の絶妙な狭間で、風真はぼろぼろと涙を流し、開きっぱなしになった口の端からぽたりと唾液が零れた。
「らめ……ひゃ、らぁッ」
踏まれて達したくないというプライドと、強烈な刺激に屈してしまいそうな体。我慢しても、呂律も回らないほどに感じ入り勝手に腰が揺れた。
「やらっ、ひゃ、うぅッ……!」
腹に付くほどに反り返ったソレを強く踏み付けられ、アールの膝に額を擦り付けてガクガクと震える。
「うぁ、ァ、……ッああぁっ――!」
ふと圧迫感が薄れ、無意識に息を吐いた途端、酷い痛みと快感が襲った。
・
・
・
脚の間に濡れた感触が広がり、柔らかな布に染みと水溜まりを作る。
(靴で踏まれて、イっちゃった……)
独特な開放感の後に訪れる、妙な落ち着き。
冷静になった頭で考えるのは、先程までのあまりにも強烈な、怖いほどの快感。
急所を踏み付けられ逃げられない恐怖と、支配される悦び。
許容出来ないほどの快感は、痛みだと感じてしまう。
……これはもう、認めるしかない。靴で踏まれても感じる体だと。
はふ、と諦めと共にアールの膝に擦り寄り、そこでハッとした。
「っ……、ぁ……ごめっ……、俺っ……」
脚の間が、いつもと違う。達したにしてはぬめりがなく、あまりにぐっしょりと濡れている。
粗相をしてしまった。顔を青くしてアールから離れる。だが視線を落としたアールは、すぐにその理由に気付いて口元を緩めた。
「心配ない。それは、潮だ」
「潮……?」
「快感に体が耐えきれなくなると、透明な体液を吹くと学んだ。私がフウマをそこまで気持ちよく出来たという証だ」
「……そっか」
「嬉しいものだな」
風真を抱き上げ、膝に乗せて頬や唇にキスをする。上機嫌のアールに、こんなに喜ぶなら今後も潮というものを吹いてみようという気になる。
(……ん? でもびしょびしょだし、漏らしたのと同じでは?)
同じびしょびしょでも、粗相は恥ずかしくて申し訳ない。潮は、恥ずかしくない? それなら、粗相をしても恥ずかしくない?
(……いや、快感で出ちゃうなら、潮と精液は同じ括りだよな)
うっかり駄目な結論を出すところだった。例えさらりとした体液でも、潮は粗相とは違う。風真はしっかりと脳内に刻み付けた。
「ってか、靴汚してごめんっ……、新しい靴なのにっ……」
「気にするな。フウマの潮を浴びたのだから、この上ない僥倖だろう」
「その靴は俺じゃなくて地面を踏みたかったはずだよ……」
靴目線で話されてはますます申し訳ない。
「うあー……。駄目だ……そもそも何するにしてもアールが天才ってこと、忘れてた……」
潮まで吹いてしまったのはきっと、自分の性癖がどうと言うよりも、アールが天才だからだ。
「私の技術のみでは潮まで吹かなかっただろう。靴底で踏まれるという屈辱的で倒錯的な環境と、それを快感と捉えるフウマの体と心があってこそだ」
「うっ……」
反論出来ずに呻く。アールの言う通り、踏まれて達したくないと思った瞬間に更に感じてしまった。なんならアールの足元に座り、見上げた時からドキドキしていた。……期待、していた。
(違う、って言えない……)
恋人になる前も、悪戯をされて酷く感じていた。元々の素質もあるが、逃げられない状況でより感じてしまうのは、体に教え込まれた条件反射のようなものだ。
踏まれたいなど思っていないと確認したかったはずが、知りたくなかった自分の性癖を知る結果になってしまった。風真はガクリと項垂れる。
「必要ないと思っていたが、縄や手枷を用いた体位の資料もある」
「えっ……」
「その中でも、痛くはないのかと興味があったのは、部屋に張られた縄を跨ぎ、股を擦りながら……」
「俺の天使にそんなの教えたのは誰だーっ!」
「フウマは知っていたのか?」
「知らないよ! 知らないけど、ろくでもないってことは分かる!」
股を擦りながら歩くとでも言うのだろう。
「それはさすがに痛いと思う!」
「私も同意だ。縄はささくれ立っていたら危険だからな。シーツを繋げた方が良い」
「……シーツ、すべすべだもんな」
アールの最近の思考は、風真に怪我をさせないかどうか。さすが溺愛エンド、と毒気を抜かれてしまった。
「ってか、男の急所だし、踏まれても擦られても気持ちよくなるに決まってるよな……」
更にそもそもの事実に気付き、アールの膝から下りてベッドに横になった。風真が手招きするとその隣にアールも横になり、風真を抱きしめる。
「私には特殊な性癖はなかったはずだが、興味が出て来てしまった」
「目覚めさせてほんとごめん」
「……いや、そうか。安心しろ。靴がどうという事ではなく、苦痛と快楽の狭間で喘ぐフウマに欲情するだけだ」
「本気の目覚めだよ……ほんとごめんな……」
アールは溺愛エンドのはずなのに。そんなアールを目覚めさせてしまったのは自分のせいだ。風真は罪悪感に呻いた。
「……まあ、アールは痛いことしないし、したいようにしていいよ」
「っ……」
「性癖ってより、アールのことが好きだから何されても気持ちいいんだよな。アールが喜ぶと俺も嬉しいし、何してもいいよ。一緒に、……気持ちよくなりたい」
最後は恥ずかしくてボソボソと小さな声になってしまったが、アールにはしっかりと届いた。
「フウマ……。私も、同じ気持ちだ」
そっと背を撫で、髪にキスをする。
「今は、抱き合ったまま繋がりたい。フウマを蕩けるまで愛したい」
「っ、……うん。愛……して、ほしい」
ぎゅっと抱きつき、風真の方から唇を重ねた。
触れるだけのキス。すり、とアールの脚に脚を絡めると、空色の瞳がスッと細められる。
「だが次に訪れる時には、限界を越えるまで悦がらせたい」
「!?」
「何度も潮を吹かせてやる」
「えっ、あのっ、今の甘い雰囲気はっ?」
「ああ、だからこそ、次回予告だ」
「うぇっ?」
「次はいつ抱かれるのか、昼か、夜か、今日か明日かと考えながら過ごせ」
「横暴出てきたぁっ……」
そんな事を言われては、今日以上に意識してしまう。ふっと笑みを零すアールの意地悪な顔に、ボッと全身が熱くなった。
「こういう私も、好きだろう?」
「うぅっ……、嫌いじゃないっ」
素直にしかなれない風真は、呻いてアールの肩に額を擦り付ける。
「フウマに甘い私も?」
「うぇ……、好きぃ……」
どんなアールも好きで困る。好きで、好きだから、アールが欲しくてたまらない。
我慢出来ずに腰を押し付けると、脚の間に熱いものが押しつけられた。
「今日は、たっぷりと甘やかしてやる」
「っ……、うん……」
甘やかして。とろかして。愛してほしい。
望んだ通りに優しいキスが唇に触れ、望むものが体内を溶かす。
幸せだ。幸せで、とけてしまいそう。
(好き、だな……)
これ以上の幸せをアールに与えたくても、いつも幸せにされてしまう。アールを、幸せにしたいのに……。
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