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*したいこと
しおりを挟む一方、その頃。
風真は手を引かれて廊下を歩きながら、揺れる金の髪を見つめていた。
先程はユアンの膝から下ろされた瞬間にアールに手を取られ、強引に食堂から連れ出された。慌てて「おやすみなさいっ」とユアンとトキに挨拶をすると、二人は笑顔で応えて手を振ってくれた。拗ねた顔をしていたアールの事も、微笑ましく見つめながら。
(三人とも、我慢も譲歩もしてくれてるんだよな……)
それは三人ともが、お互いを大切な存在だと思っているからだ。
以前のアールなら、彼らに嫌われようが憎まれようが構わなかった。だが今は、トキの本音に動揺し、二人の事が大切だと言葉にも出来るようになった。
二人もアールを大切に想っているからこそ本音をぶつけた。そして、こうして笑顔で見送ってくれている。
(幸せに、しなきゃな)
アールを選んだ事を、間違った選択だと思わせないように。アールを、目一杯幸せにしたい。
繋いだ手にぎゅっと力を込め、アールに続いて部屋へと入った。
・
・
・
「えぁっ、……これ?」
「ああ。これがしたい」
「う、う~……これかぁ」
アールの寝室の、ふかふかのベッドの上。シャワーを浴びた風真は、体位の図解資料を見ながら呻いた。
どうやら予想以上に我慢させていた模様。アールが選んだものは、風真が直視出来ずに目を逸らした図のひとつだった。
(アールって意外とむっつりなのかな……)
まさかこれを選ぶとは。ウンウン唸り、ハッとする。
アールを幸せにすると決めた。我慢もさせない、やりたい事は小出しにさせると決めたのだ。
「……やる。覚悟決めたんだった」
「そうか。男に二言はないな?」
「ないっ」
そうと決まれば、覚悟が揺らぐ前にやるだけ。風真はバスローブを潔く脱ぎ、綺麗に畳んでベッド脇の棚に置いた。
この状況でも礼儀正しい風真にクスリと笑い、アールもバスローブを脱ぎ、あえてゆっくりと畳んで風真の服の隣に置く。
「私に服を畳ませるとはな」
「アールは畳まなくて良かったんだよっ……」
全裸で待たされた分、冷静になってしまった。アールの裸もしっかりと見てしまい、今からあの図と同じ事をするのかと想像して、すでに羞恥で泣きそうだ。
(ってか、水も滴る美形がすぎる)
同じくシャワーを浴びたアールは、まだ髪がしっとりしている。僅かに毛先に雫を作るそれは、もしかすると計算されたものかもしれない。
「ううっ、イケメン眩しい、目のやり場に困る……」
「困らせたくはないが、恥ずかしがるフウマはもっと見たい」
「アールって、結構いじめっこだよな……」
「恋愛に関してはまだ子供だからな」
ふっと笑い、風真の頬を手のひらで撫でる。
「子供が好きな子いじめちゃうのも、本で学んでたか……」
「フウマ」
「うん?」
「今から、お前を抱く」
「っ……」
「私がいない間、想像してくれていたか?」
咄嗟に顔を逸らそうとすると、顎を掴まれ無理矢理上向かされた。
「……分かってるくせに」
素直に肯定するのも癪で、そう言って睨んでみたのだが。
「ふ……、そんな顔をしても、可愛いだけだ」
アールはますます愛しげに微笑み、可愛い事を零す唇を塞いだ。
「うっ、うっ、やっぱ恥ずかしすぎる……」
「私もだ」
「どこがだよぉっ」
うっ、と涙目でアールを見つめた。正確にはアールの……下半身を。
アールが選んだのは、互いの局部が見える体位だった。
アールがベッドに仰向けになり、風真は上下逆になり四つん這いで覆い被さる体勢。つまり、アールの美しい顔を跨いでいる状態だ。
「絶対俺の方が恥ずかしいっ……」
顔に跨がっている自分の方が恥ずかしい、と風真は主張する。微妙な身長差のせいで後孔まで見られ、触られてもいないのにひくりと震えた。
(今日は窓、開いてないのに……)
風真の声を聞かせまいと、窓は閉まったまま。それでも人の気配は感じられるのか、それともアールが二人きりを克服したのか。照れもせずに横になり、風真に上に跨がれと愉しげに言ってきたのだ。
「絶景、とはこういう事か」
「やめて、ほんとの絶景見た時思い出しちゃう……」
ううっとまた呻いた。
月明かりと、棚に置かれたほんのりと青白い鉱石の明かりで、局部までしっかりと見えてしまう。今日に限って明かりを消して欲しいと言うのを忘れていた。
「こんな体位、誰が考えたんだよ……恥ずかしがらせる天才じゃん……」
「お前は本当に褒める事しか出来ないな」
「うっ、じゃあ……変態の鑑、えっちの……ううっ、ばかぁ、馬鹿は俺だぁ……」
知力が上がっても、罵倒レベルは一向に上がらない。
「私は、この体位を考えた者を尊敬する」
「ふひゃっ」
後孔を撫でられ、ぬるりとした感触に身を震わせた。ほんのりと桃の香りのする液体を、あえて指一本で塗り付ける。
「ふぁ、ぅ……触り方が変態っぽいっ」
ぬちぬちとわざと音を立て、滑る液体を擦り付けたり掻き混ぜたりと、初心者らしからぬ動きを見せていた。
「この体位を堪能しているだけだ」
「そうだろうねっ……」
「顔が見えなければ、恥ずかしくならないものだな」
「俺は逆だけどなっ……」
アールの恥ずかしがる基準が分からない。いや、そもそもアールは神の造った彫刻のような身体だ。例え局部でも、見られて恥ずかしいなどないのだろう。……それとこれとは違う気もするが。
「う~っ、アールはこんなとこも完璧か~っ。ってか、俺のそんなとこ目の前にしたら萎え、……え、え、勃っ……た」
「恋人の秘部を前にすれば、当然だろう?」
「え、え、えぇっ……、…………嬉しい」
少し擦っただけで、反応したことが。男のモノと尻をこれだけ眼前で晒しても萎えなかった事が。そして。
(恋人……)
じわりと頬が熱くなる。
「そっか、恋人……恋人の、だもんな」
目の前の完璧な美しさをそっと撫でる。それが恋人のものだと思うと。
(……舐めたい、な)
おず、と舌を出し、美しいソレを舐めようとした、が。
「うひゃあっ!」
ずぷりと音がするほど、後孔に一気に指を挿れられた。それもいきなり二本だ。
「舌を入れたかったが、まだ早いと思い、我慢した」
「んんっ、理性ありがとうっ……舌だと俺の羞恥心が爆発してたっ」
「いずれ入れる事になるが」
「っ……、未来の俺に期待しててっ」
「ああ。期待している」
ふっ、と笑う声がして太股に柔らかなものが触れる。続いてチクリとした感覚。
「んっ、痕付けた?」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ。俺も付けよ」
痕を付けるのは性行為の一環であり、自分のものという証だとアールは言った。それなら自分も付けたい。身を屈めて太股に唇を寄せた。
せっせと吸い付く風真に、アールは小さく苦笑する。
今の今まで恥ずかしいと騒いでいたくせに、すぐに他に夢中になる。コロコロと変わる行動と表情が愛しくて、柔らかい太股にまた一つ痕を付けた。
(うーん……入ってんの、めちゃくちゃ意識する)
アールの指はあらぬところに入ったまま。動かさないでいてくれるが、体を動かしたことで少し感じてしまった。
それより今は、と白い皮膚を強く吸い上げる。上手く付かずにもう一度。もう一つ濃い色で、と付けてようやく満足のいくものが出来た。
「へへ、アールは俺のって印、気分いいな」
明日も涼しい顔で仕事をするのだろうが、その服の下に自分の所有印が付いていると思うと何とも言えない優越感がある。
「ってか、かっちりした上品な服の下にこんなのが付いてるとかすごいえっち~、ぅひゃんっ!」
「煽るのが上手いな」
「煽ってな、うぁんっ、あっ、あ」
突然ぐちぐちと指を動かされ、体を支える腕が震える。指の腹が的確に前立腺を刺激し、たまらずにアールの上にへたり込んだ。
「ひぅっ、ひ……んぁッ」
それでもまだ腰は上げたまま、ぷるぷると震えながらアールのモノに頬を擦り寄せる。
(俺も、シたい……)
されてばかりでは、この体位を選んだ意味がない。喘ぎながら舌を出し、ぺろりと目の前のソレを舐めた。
咥えるには腕に力が入らない。ぺろぺろと舐め、先端を指先で撫でると、びくりとソレが震えた。
「っ……」
アールの吐息も聞こえ、夢中になって舌を這わせる。恥ずかしいより、アールを気持ちよくしたい気持ちが上回り懸命に奉仕した。
「うぁッ、あっ、あぁっ」
突然ぐちゃぐちゃと粘着質な音が響き、指を激しく抜き挿しされる。感じる場所ばかりを刺激され、へたりと座り込みアールの顔に股間を押し付けてしまった。
「ひッ……、ひゃあんッ」
裏筋に舌を這わされ、びくんっと腰が震える。離れようとすると腰を引き寄せられ、ますますねっとりと舌が触れた。
「やっ、だめっ……だめぇっ」
アールが、そんなこと。
あの綺麗な唇が、舌が、自分のあんなモノを舐めている。
綺麗な顔に、とんでもないものを押し付けている。
背徳感と罪悪感で腰を引きたくても、快楽に負けて力が入らない。それどころか腰を揺らしてしまい、はしたなさにぼろぼろと涙が零れた。
せめてアールも気持ちよくしたい。震える手でアールのモノを扱き、舌を這わせる。熱く、びくりと震える生き物のようなそれ。舐めているだけで舌まで気持ちよかった。
「っ、目を閉じていろ」
「んぇ……?」
ぼんやりとした頭で、言われた通りに目を閉じる。するとナカの指がゴツゴツと前立腺を突き上げ、目の前にパチパチと星が散った。
「ひゃッ、あぁッ――……!」
思わず手の中のモノを掴むと、途方もない快感と共に、顔に熱いものがぶつけられた。それが何か理解することも出来ないまま、そこでぷつりと意識が途切れた。
・
・
・
あまりの快感と羞恥に、脳の許容量を越えてしまったらしい。強制シャットダウンされたのはほんの数秒で、目を開けるとアールの顔が目の前にあった。
「……この感情を、背徳感というのか」
真顔で呟き、風真の顔を見つめる。まるで、記憶に刻みつけるように。
(背徳感? なんで?)
目を瞬かせて、気付いた。顔に濡れた感触と、暖かさがあることに。
(あっ、これ、アールの……?)
まさかそんな事になっているとは思わず、カァ、と頬が熱くなる。だが手で拭って良いものか迷い、どうしようとアールを見上げた。
「……待っていろ」
アールは伸ばし掛けた手を引き、バスローブを羽織ってベッドを下りた。
湯を張った桶とタオルを持ってきたアールに、丁寧に顔を拭われる。
首や鎖骨まで飛んだものも全て綺麗にされると、突然襲う罪悪感。
「ううっ……天使の顔に、大変なものを押し付けてしまった……」
「私の天使には、欲の塊を掛けてしまったが?」
「俺は天使じゃないんだよ……」
「神の子か。大変なことをしてしまったな」
「いいんだよっ、俺の顔は平凡だからっ……でもアールの顔は人類の宝だからっ」
「そうか。次はその人類の宝に、フウマの精……」
「うわああああっ!!」
「掛ける事を許してやろう」
「だー!! 駄目っ、絶対!!」
この綺麗な顔に、そんなこと。
(…………ちょっと、興奮するな……?)
罪悪感の方が強いが、ほんの少し、そんなえっちなアールを見てみたいと思う。押し付けるよりはまだ罪悪感も少ない。
(だからって、しないけどな!)
天使は天使だ。自分の欲まみれにさせるわけにはいかない。
無言で百面相する風真を見つめ、アールはそっと笑みを零す。
「ここまで卑猥な体位だとは思わなかった」
「ンッ、ほんとにねっ!」
「次もまた顔に出したい」
「俺の天使に変な癖付いちゃったよっ……、別にいいけどっ……」
「良いのか?」
「いいよっ、俺の顔だからっ」
アールも喜んでいるなら、拒否する理由はない。
「私の欲にまみれたフウマに、異常に興奮した」
「正直なのも考えものーーっ!」
「指で掬い、舐めさせようかと思ったのだが」
「っ……」
「動くと垂れて目に入りそうで、やめた」
「大事にしてくれてありがとうっ!?」
自分の欲より大切にしてくれて嬉しい。だが、この顔からつらつらと卑猥な言葉が出てくると、違和感……よりもやはり罪悪感が凄い。
ううっ、とまた呻く風真を愛しげに見つめながら、アールは乱れた黒髪を遊ぶようにくいくいと引っ張った。
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