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オススメの細工師

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 離れに戻ると、ユアンが応接室にロイを連れて来た。アールが贈った指輪に釣り合うような細工師なら、王族であるロイが知っていると思い相談に行ったのだ。
 本当は風真ふうまがお願いに行きたかったが、王宮をうろついていれば、アールに知られてしまう。出来ればサプライズで渡したかった。


「神子様、ご婚約おめでとうございます」

 ロイは部屋に入るなり、輝く笑顔で告げた。

「腕の良い細工師をご紹介いたします。カットや細工は神子様のお好みで選んでいただけますよ。お戻りになられたばかりのところ大変恐縮ですが、これからお時間ございますか?」

 ソファにも座らず、風真にズイズイと詰め寄りながら話す。

「うぁっ……あります、けど、今からいいんですか?」
「勿論です。大事な事ですから、要望を伝えてデザイン画を描いて貰い、お部屋でじっくりとお考えいただければとっ」
「殿下。少々距離が」
「あっ、申し訳ありません。神子様が兄上に指輪を贈られると伺い、喜びのあまり……」

 てへ、と言わんばかりに笑い、ゼロ距離目前だった体を離した。


(ロイさんも綺麗なお兄さんなんだよな……)

 恋愛感情ではないドキドキを感じ、ふう、と息を吐く。そこでふと、違和感を覚えた。

「婚約指輪のお返しって、何か深い意味があるんですか?」

 ロイがここまで喜ぶなら、何かあるのでは。風真にジッと見据えられ、ロイはまた輝く笑顔を浮かべた。

「生涯の夫は貴方です。私の身も心も貴方のもの。全てを捧げます、という意味があります」
「っ……」
「百年ほど前に、恥ずかしがりで言葉に出来ない令嬢が手紙と共に指輪のお返しをした事が由来ですが、神子様は素直なお方ですからあまり関係がないかもしれませんね」

 にこにこと笑うロイに、風真はそっと視線を逸らす。素直な性格の自信は、あるのだが……。


「……それ、アールも知ってますか?」
「多分、知っているのではと。恋愛と婚約に関して、熱心に勉強されていましたから」
「っ……ぅ、うぁ……」
「神子様?」
「うぅっ……それを知って贈るとなると……二人きりだと、恥ずかしくて……」
「えっ、そんな可愛……、……でしたら、この指輪のお返しは今のお二人にぴったりですね」

 そんな可愛い関係、と言い掛けたロイは、爽やかな笑顔に切り替えた。

「では神子様。参りましょうか」
「うっ、はい……お願いします」

 差し出された手を取り、風真は立ち上がった。





 ロイの紹介の細工師は、とても人柄の良い人物だった。見た目は熊のような大男だが、話しやすく、すぐに風真と意気投合した。
 参考にと繊細な技術で作られた作品を幾つも風真に見せ、そこから要望を聞きデザイン案を描いていく。絵が苦手な風真に尊敬の眼差しで見つめられ、すごい、実物見てるみたい、どれも綺麗で迷う、と褒め千切られて筆が乗った細工師は、大量のデザイン画を描いて風真に渡した。

(どれもアールに似合いそうで迷うなぁ)

 馬車の中で風真は分厚い封筒を握りしめ、ほくほくした顔をする。宝石のカット法だけでも何種類もあり、そこでも迷ってしまう。
 ひとまず確定したものは、傷が付かない加工と地金の素材だ。
 この宝石では銀の色が消えないため別の液剤を使用するらしく、地金の方に銀を使用した素材を選んだ。それ以外はまだ決めきれていない。帰ったらゆっくり考えよう。


「あの、俺、何から何までお世話になってしまって、すみません……。本当にありがとうございました」

 結局自分で調べる前に全て解決してしまった。深々と頭を下げる風真を、ユアンはポンポンと撫でた。

「フウマは何でも自分で解決しようとするからね。王太子妃になるんだから、これは周囲の力を借りる練習だよ」
「神子様に頼られる事は光栄な事ですから、気にされずに命じて下さって良いのですよ。私も、神子様のお役に立てて光栄です」

 ロイは爽やかに微笑む。

「神子様がどれほど兄上を想ってくださっているか、この目で拝見出来て安堵と共に私まで幸せな気持ちになりました。完成まで私が責任を持って神子様に同行致しますので、いつでもお声かけください」
「っ……ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いしますっ」
「迷惑だなど。私にとってはご褒美です」

 輝く笑顔の背後に、ぶわっと花を背負う幻覚が見えた。


(なんか、ロイさんも変わったな……)

 アールとの確執がなくなり本来の性格が出てきたのか、アイリスと幸せになり丸くなったのか。
 ここまで仲良くなれて嬉しいが、今の台詞はこの顔でなければ危険だった。爽やかなロイに見つめられ、風真もへらりと笑顔を返す。



(ご褒美……?)

 部屋に戻ってからやっと、何がご褒美なのだろうと気付き、首を傾げた。

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