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*初夜

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「ぅ……アールの綺麗な指が俺のあんなとこに入ってるの、申し訳ない……」
「前も言っていたな。それを言うなら、フウマのこの綺麗な体内に私のものを挿れる方が、申し訳ない」
「っ……、挿れ、るんだよな……」
「ああ。挿れたい」

 くち、と小さな水音を立て、指がゆっくりと抜き挿しされる。

「ううっ、ぞわぞわするぅ……」
「気持ち悪いか?」
「んん……くすぐったいみたいな、気持ちいいのかも? みたいな、ぞわぞわ……ごめん。しゃべってないと、意識しちゃって恥ずかしい……」

 脚を開いて、自分でも触れた事のない内側まで暴かれている。それを恋人に、婚約者になったアールに、されている。恥ずかしくてたまらなかった。

「私もだ。フウマの内側に触れていると思うと、感極まり……話していなければ、理性が飛ぶ」
「理性~っ」
「頑張っている。出来ればひゃんひゃんと鳴くのは後にしてくれ」
「分かったっ……、ひゃうッ」

 話している間に指が二本に増やされ、指の節が内壁を擦る感覚に、声が漏れた。


「ごっ、ごめんっ! 出来ればそのまま動かさないで、開いたり閉じたりしてほしいっ」

 この行為は、アールを受け入れるために内壁を柔らかくして、お互いに痛みがないように慣らしている。それなら、抜き挿しする必要はないのでは。風真ふうまは動きを止めたままで訴えた。

「ぃ……いま擦られたら、ひゃんひゃん言っちゃう……」

 擦るのはナシで。お願い。眉を下げ、潤んだ瞳でアールを見上げた。

「ひゃうんっ! ひ、ぅっ……ぁ、アールっ……!」

 二本の指を抜き挿しされ、ゾクゾクした快感に身を捩る。視線を向けると、アールは深刻な顔で挿入部を見据えていた。

(なんか理性飛んっ……、葛藤してくれてるっ?)

 見えてしまったアールのは、もう芯を持っている。眉間に皺が寄っているのは、挿れてしまいたい衝動に耐えているからだ。
 きっと無意識に煽ってしまった。申し訳ないと思いつつ、アールが反応してくれるのも、大切にしてくれるのも、嬉しくて。


(大好き……)

 理性を飛ばして挿れられても、今なら嬉しいけれど。アールはきっと後悔してしまう。
 頑張って声を抑えようと両手で口を覆うと、ぴくりとナカでアールの指が動いた。

「んぁッ! あぅっ、あっ、ひゃぅっ」

 そっと口から手を引き離され、シーツの上に置かれる。声を抑えるなという事だろうか。
 探るように慎重に動いていた指に激しく責められ、たまらずにシーツを掴み身を捩ると、正解だとばかりに膝にキスをされた。

「ひんッ、ひ……ぁ、音っ、やぁッ……」

 じゅぷじゅぷと卑猥な音が響き、震える手で耳を塞ぐ。

(駄目だっ、声が響くっ)

 よりにもよって、ひゃぁんっ、と甘えた声を大音量で聞いてしまった。
 自分の声とは思えないものが、やん、あん、と口から零れる。ひゃんひゃん言わないように気を付けても、ひゃうっ、と勝手に飛び出した。

「ぁっ……はずかし、っ……ひぅっ」

 もう何本入っているのかも分からない、どろどろにされたソコを凝視され続けている。
 意識しないようにしていたが、もう無理だ。涙で滲んだ視界を両手で塞いだ。
 視界が塞がれると、余計に感じてしまう。それでも、あの綺麗なアールの瞳が自分のそんなところを見ている光景の方が、刺激が強かった。


「は……可愛い、フウマ……」

 パタパタと忙しなく手を動かす姿は、落ち着きのない動物のようだ。
 どこを見ても何をしても愛らしく、健気に指を咥え込んでいる場所すらも口付けたいほどに愛しい。

(見られて、る……)

 指を開かれ、内壁を広げたままで時々動きが止まる。ナカまで、見られているかもしれない。ずっと視線を感じる。
 だがそんなところを見てもアールの熱い吐息が聞こえ、萎えていない事に安堵した。


 下からはずっと粘着質な水音が響いている。アールは、以前言った通りにしっかりと慣らしてくれているのだ。

(うぁ、ここ、びりってするっ……)

 ある一点に指が触れる度、電流が走るような感覚が襲う。アールも気付いているのか、徐々にそこに指先を押し付け始めた。
 確かめるように押され、トントンと叩かれ、その度に体が跳ねる。体のどこに触れられるより、強烈な快感。感じた事のない未知の感覚。

(感じすぎて、怖い、けど……)

 震える度に、アールは膝や太股にキスをしてくれる。大丈夫だと宥めるように。

(アールにされるなら、何でも嬉しいや……)

 ふっと力を抜いた途端、感じる場所を何度も押し込まれ、体の奥から何かが込み上げた。
 無意識にきゅうっとナカを締め付けると、全身を痺れるような快感が襲う。

「ひッ……ぃ――……!」

 ガクガクと震え、背をしならせて絶頂を迎える。チカチカと目の前に星が散り、視界が暗転した。


 気を失っていたのは一瞬らしい。目を開けると、ナカから指が抜かれるところだった。

「あ、ぇ……?」

 腹に暖かい感触。視線を下に向けると、風真のモノはまだ芯を持ち、先端からは透明の雫が溢れているだけだった。

「ぁ……アール、の?」

 この白い液体が自分のものではないなら、アールのものだ。

「…………すまない」
「う、うん、俺の方こそごめん」

 そう言いながら、視線を逸らせない。アールが風真の感じる姿に興奮して、自ら触れて解放したものだ。
 風真は暖かなそれに、そっと触れる。指先で混ぜ、液を掬い、ぺろりと舐めた。

「フウマっ……」
「ん、甘くない。邪気溜まってないから、アールの味のまま……、……ごめん」

 さすがに今のは良くなかった。アールが興奮してくれたことに嬉しくなって、舐めてみたくなって、ついやってしまった。
 アールは無表情になり、ぎこちないロボットのようにベッドを下りて、タオルを持って戻ってきた。そして風真の腹を拭い、ぎゅっと風真を抱きしめる。


「……上手くいかない」

 本当は、風真の記憶に一生残るような、完璧な初夜にするつもりだった。
 余裕のある姿を見せ、アールは格好良いと、アールを選んで良かったと、思って貰えるように。アール以外では満足出来ないと思わせたかった。

 それが、慣らしている最中に興奮し、思春期の子供のように挿入部を見据え、堪えきれずに自慰をする始末。
 襲ってしまわないようにするためとはいえ、情けない。安心して抱かれろと言ったくせに、これでは安心も何もない。


 そんな考えは、察しが悪いと言われる風真に、あまりに正しく伝わった。
 風真はアールの背に腕を回し、にへっと頬を緩める。

「アール、俺のこと好き過ぎ」

 ぎゅっと抱きしめ、すりすりと頬を擦り寄せた。

「落ち込んでるのにごめん。俺のせいで余裕なくなっちゃうアール、すごく好きだよ。可愛い。大好き」

 アールの思う失態は、風真には愛しさしか与えない。好きだと何度も素直に伝え、ちゅ、と頬や口元にキスをした。

「いつもクールで完璧で天才なアールが、俺にだけこんなになっちゃうの、すごく嬉しい。愛を感じる」

 好き、ともう一度言って、愛しげにアールを見つめた。

「……情けない、とは」
「可愛くて好きとしか思えない」
「不安には……」
「ならないよ。すごく大事に触ってくれるから」

 激しく抜き挿しされても、広げられても、一度も痛みを感じなかった。安心して全てを預けられる。


「我慢しないで、アールにも気持ちよくなってほしいよ。俺だけされるんじゃなくて、一緒に気持ちよくなりたい。こういうのって、二人で一緒にすることだから」
「っ、フウマ……」

 二人一緒に。その言葉に、アールは泣きそうに顔を歪める。

「そうだな……。恋人とは、そういうものだったな」

 一方的に触れ、愛を乞う必要はない。もう、恋人なのだから。
 風真の唇へとそっと唇を押し当て、頬を撫でる。ぴくりと反応する風真が無意識に身を捩ると、固いものがアールの肌に触れた。

「出さずにイったのか」
「う、……うん」

 恥ずかしそうに視線を伏せる。風真は、その感覚を理解している。
 ユアンに、教えられたのだろうか。
 胸にどす黒い感情が込み上げ、それを押さえ込むように風真の頬を両手で包んだ。

「私の事が、好きか?」
「うん、好きだよ」
「愛しているか?」
「う、……ぁ、……愛してる、よ」

 頬を染めてぽそぽそと呟く。愛してる、ともう一度言葉にする風真に、黒い感情は瞬く間に霧散していった。


「一生、私だけのフウマでいてくれるか?」
「うんっ。アールも、俺のだよね?」
「ああ。私の方がずっと前から、フウマだけのものだ」

 神子としてではなく、風真を好きになった日から、ずっと。
 二人は見つめ合い、どちらからともなく唇を重ねた。

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