比較的救いのあるBLゲームの世界に転移してしまった

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
190 / 270

*今日の出来事2

しおりを挟む

「そうだ、アール。護衛さんって、その……違ったら申し訳ないんだけど……」
「他の男の話で勿体ぶるな」
「んんっ、ごめんなっ」

 アールがアールだ。繋いだ手に力を込められ、引き寄せられて指先にキスをされる。

「ごめんってばっ。護衛さんって、もしかして、俺の……護衛騎士だったりする……?」

 おず、とアールを見上げると、そんなことかと呆れた視線が返る。

「そうだが?」
「聞いてないよ!?」
「神子専属の護衛騎士だ」
「知らなかったよっ……」

 ダンッとテーブルを叩きたいが、両手は繋がれている。アールは、言ってなかったか? という顔をした。

「殿下。フウマさんが気にされるからと、仰られなかったのでは?」
「神子君と仲良くなりすぎても困るからじゃなかった?」

 二人も曖昧、と言うと、ユアンに顎の下を擽られる。


「ふぁっ、んっ、ふ……」
「そんなに怒らないで? 俺たちも教えてなくてごめんね」
「ぁ、んぅっ、ふは、ぁ、あっ」
「フウマさんが色気のある喘ぎを……」
「神子はそこも性感帯か……」

(久々だからめちゃくちゃ感じるんですけどっ!?)

 ビクビクと小刻みに体が震え、はふはふと短い呼吸を繰り返しながら喘ぐ。下肢に熱が集まる感覚さえ湧き起こった。だが。

「ごめん……」

 ユアンはすぐさま手を離し、ぎゅうっと風真ふうまを抱きしめた。

「食堂で射精させるのは、良くないよね」
「以前、誰かがさせたな」
「申し訳ありません」

 前科のあるトキは眉を下げて苦笑した。


「神子はそこも弱かったのか」
「ひっ……」

 指は絡めたまま親指で手首の内側を撫でられ、風真はまたびくりと震える。

「……」
「あぁんッ」

 繋いでいない方の手で手首から肘までを撫で上げると、悩ましい嬌声が零れた。

「……神子を大人にしたのは、何奴だ?」
「俺じゃないよ。……誰だろうな?」
「私でもありませんよ」

 三人は神妙な声を出す。
 もしや、昼間の。いや、彼らは今のところ信用に足る人間だ。それなら、他の親しい者か。三人の思考が一致した瞬間、風真は口を開いた。

「俺、召喚された時から大人……」

 ふう、と息を吐く。


「ですが……、ひゃんひゃんと愛らしく鳴いていたフウマさんが、突然色気のある喘ぎをされるので……」

 トキは眉を下げて風真を見つめた。

「どなたか親しい方に誑かされ、その方を好きになられた事を私たちに言い出せずに、それでも抑えきれない想いに耐えかねて処女を喪失されたのかと……」
「……トキさんは、神職の自覚をですね」

 そもそも処ではない。それに何故、切ない物語のような想像なのか。

「俺、そんな簡単に誑かされないです。それに……するのは他の親しい人じゃなくて、やっぱり、……好きな人とが……」

 もごもごと語尾を濁す。

「私か」
「俺だね」

 二人の声が重なる。バチッと火花を散らし始めたが、トキが立ち上がるとすぐに口を噤んだ。

「フウマさんは、本当に純粋無垢で愛らしいですね。大好きですよ」

 トキは元のように座る前に、風真の頬を撫でてふわりと微笑む。その綺麗な笑みに見惚れているうちに、額に軽く触れるだけのキスをした。


「っ……フウマ、トキに惚れるな。私を好きになれっ」
「フウマ、俺を好きになって? 愛してるよ」

 ほんのりと頬を染める風真に危機感を覚え、二人は必死で訴える。やはり一番のライバルはトキだ。

「うわっ、わ……」

 ユアンに背後から包み込まれて、耳元で愛の言葉を囁かれる。アールには頬を撫でられ、空色の瞳に見つめられた。
 日々激しくなる求愛に、耐性の方がついていかない。顔も体も火照り、久々に知恵熱が出そうだ。

「お二人とも。フウマさんが茹だってしまいますよ?」

 体温の上がった風真に気付き、二人はハッとして風真から離れた。アールは手を繋いだまま、ユアンは肩に触れたままだが。

(俺……こんな人たちと、えっち出来ないんじゃ……)

 死んじゃう。内心で呟き、想像しそうになってブンブンと頭を振った。

「焦る気持ちは分かりますが、落ち着いてフウマさんを愛しましょうね?」
「そうだよね……。ごめんね、フウマ」
「すまない……」
「いえ、俺こそ……」

 まだ熱い顔を俯け、ふう、と息を吐いた。


「話を戻しますが、フウマさんは、触れる場所で鳴き声が変わるのでしょうか?」

 そんな、押すボタンで声が変わるオモチャみたいな、と思いながらも風真は思案する。

「なんというか……刺激が強いところは大きな声出ちゃいますけど、皮膚薄いところは、ゾワゾワというか、ゾクゾクして息が先に出て、声が詰まる感じです」

 だから悩ましい喘ぎになるのか。三人は納得した様子を見せる。

「びゃっ!!」
「本当ですね」
「いきなり掴まないでくださいっ! ふひゃっ、ひゃぁんッ」
「本当だね。でもトキ、それ以上は駄目だ」
「ええ。これ以上はさすがに」

 風真の大事な部分を鷲掴みにしたトキは、数回揉んでから手を離した。

(寸止めつらいっ……)

 たったこれだけで、身体は熱を持ってしまう。まだ芯を持っていないものの、服が擦れるだけでも反応してしまいそうだ。


「神子君、部屋まで……」
「神子。部屋まで送ろう」

 歩くのもつらいと考えた瞬間、アールがユアンの手を振り払い、風真を抱き上げた。

「ユアン。次は私の番だ。譲れ」
「……正直嫌だけど、不公平は良くないか」

 肩を竦めると、アールは微かに口元を緩める。公正な勝負を挑んでくるユアンだから、風真を巡るライバルとして認めていられる。

 目を丸くしたユアンが何か言い出す前に、アールは廊下へと出た。
 その後を、ユアンとトキもついて行く。

「アールは、手首は治ったのかな」
「そのようですね」

 風真を落とす可能性があるなら、ユアンに譲るはず。

「神子君を運べなかったのは残念だけど、早めに治って良かったよ」
「ええ、本当に」

 ユアンは、もう少し治りが遅ければ、などとは思わない。今のユアンには、アールも大切な存在だからだ。もし風真がアールを選んでも、落胆はしても、憎む事なく二人の幸せを願えるだろう。
 そしてそれは、アールも同じだ。ヒソヒソと会話をする声はアールには届き、だから憎めないのだとそっと口元を緩めた。


 部屋に着くと、風真は「ありがとう! 助かったよ!」と元気に言って、部屋に駆け込んだ。そして扉を閉めてしまう。

「ごめんなさいっ、もう寝ますねっ」

 アールの体温を感じ、揺られた事で、放置して鎮まるレベルを越えてしまった。これは、抜かなければ収まらない。

「独りで大丈夫?」
「はい!」
「身体を冷やさず、しっかりと湯に浸かるようにな」
「うん!」
「では、おやすみなさい、フウマさん」
「おやすみなさい!」

 風真は元気に返事をして、バスルームへと向かう。

(みんな優しいっ、大好きっ)

 護衛の代わりの騎士が、扉の側にいる。彼に、今の風真の状態を悟らせない言葉を選んだ。
 壮年の騎士は、様子のおかしい風真に気付いてしまったが、三人が平然としていたために、何があったかまでは分からなかった。



 独りで処理した風真は、冷静になった頭で「三人に触られるより何倍も時間がかかったな……」とバスルームの天井を見上げる。そしてその時の事を思い出し、再びそっと手を添えてしまった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...