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*今日の出来事2
しおりを挟む「そうだ、アール。護衛さんって、その……違ったら申し訳ないんだけど……」
「他の男の話で勿体ぶるな」
「んんっ、ごめんなっ」
アールがアールだ。繋いだ手に力を込められ、引き寄せられて指先にキスをされる。
「ごめんってばっ。護衛さんって、もしかして、俺の……護衛騎士だったりする……?」
おず、とアールを見上げると、そんなことかと呆れた視線が返る。
「そうだが?」
「聞いてないよ!?」
「神子専属の護衛騎士だ」
「知らなかったよっ……」
ダンッとテーブルを叩きたいが、両手は繋がれている。アールは、言ってなかったか? という顔をした。
「殿下。フウマさんが気にされるからと、仰られなかったのでは?」
「神子君と仲良くなりすぎても困るからじゃなかった?」
二人も曖昧、と言うと、ユアンに顎の下を擽られる。
「ふぁっ、んっ、ふ……」
「そんなに怒らないで? 俺たちも教えてなくてごめんね」
「ぁ、んぅっ、ふは、ぁ、あっ」
「フウマさんが色気のある喘ぎを……」
「神子はそこも性感帯か……」
(久々だからめちゃくちゃ感じるんですけどっ!?)
ビクビクと小刻みに体が震え、はふはふと短い呼吸を繰り返しながら喘ぐ。下肢に熱が集まる感覚さえ湧き起こった。だが。
「ごめん……」
ユアンはすぐさま手を離し、ぎゅうっと風真を抱きしめた。
「食堂で射精させるのは、良くないよね」
「以前、誰かがさせたな」
「申し訳ありません」
前科のあるトキは眉を下げて苦笑した。
「神子はそこも弱かったのか」
「ひっ……」
指は絡めたまま親指で手首の内側を撫でられ、風真はまたびくりと震える。
「……」
「あぁんッ」
繋いでいない方の手で手首から肘までを撫で上げると、悩ましい嬌声が零れた。
「……神子を大人にしたのは、何奴だ?」
「俺じゃないよ。……誰だろうな?」
「私でもありませんよ」
三人は神妙な声を出す。
もしや、昼間の。いや、彼らは今のところ信用に足る人間だ。それなら、他の親しい者か。三人の思考が一致した瞬間、風真は口を開いた。
「俺、召喚された時から大人……」
ふう、と息を吐く。
「ですが……、ひゃんひゃんと愛らしく鳴いていたフウマさんが、突然色気のある喘ぎをされるので……」
トキは眉を下げて風真を見つめた。
「どなたか親しい方に誑かされ、その方を好きになられた事を私たちに言い出せずに、それでも抑えきれない想いに耐えかねて処女を喪失されたのかと……」
「……トキさんは、神職の自覚をですね」
そもそも処女ではない。それに何故、切ない物語のような想像なのか。
「俺、そんな簡単に誑かされないです。それに……するのは他の親しい人じゃなくて、やっぱり、……好きな人とが……」
もごもごと語尾を濁す。
「私か」
「俺だね」
二人の声が重なる。バチッと火花を散らし始めたが、トキが立ち上がるとすぐに口を噤んだ。
「フウマさんは、本当に純粋無垢で愛らしいですね。大好きですよ」
トキは元のように座る前に、風真の頬を撫でてふわりと微笑む。その綺麗な笑みに見惚れているうちに、額に軽く触れるだけのキスをした。
「っ……フウマ、トキに惚れるな。私を好きになれっ」
「フウマ、俺を好きになって? 愛してるよ」
ほんのりと頬を染める風真に危機感を覚え、二人は必死で訴える。やはり一番のライバルはトキだ。
「うわっ、わ……」
ユアンに背後から包み込まれて、耳元で愛の言葉を囁かれる。アールには頬を撫でられ、空色の瞳に見つめられた。
日々激しくなる求愛に、耐性の方がついていかない。顔も体も火照り、久々に知恵熱が出そうだ。
「お二人とも。フウマさんが茹だってしまいますよ?」
体温の上がった風真に気付き、二人はハッとして風真から離れた。アールは手を繋いだまま、ユアンは肩に触れたままだが。
(俺……こんな人たちと、えっち出来ないんじゃ……)
死んじゃう。内心で呟き、想像しそうになってブンブンと頭を振った。
「焦る気持ちは分かりますが、落ち着いてフウマさんを愛しましょうね?」
「そうだよね……。ごめんね、フウマ」
「すまない……」
「いえ、俺こそ……」
まだ熱い顔を俯け、ふう、と息を吐いた。
「話を戻しますが、フウマさんは、触れる場所で鳴き声が変わるのでしょうか?」
そんな、押すボタンで声が変わるオモチャみたいな、と思いながらも風真は思案する。
「なんというか……刺激が強いところは大きな声出ちゃいますけど、皮膚薄いところは、ゾワゾワというか、ゾクゾクして息が先に出て、声が詰まる感じです」
だから悩ましい喘ぎになるのか。三人は納得した様子を見せる。
「びゃっ!!」
「本当ですね」
「いきなり掴まないでくださいっ! ふひゃっ、ひゃぁんッ」
「本当だね。でもトキ、それ以上は駄目だ」
「ええ。これ以上はさすがに」
風真の大事な部分を鷲掴みにしたトキは、数回揉んでから手を離した。
(寸止めつらいっ……)
たったこれだけで、身体は熱を持ってしまう。まだ芯を持っていないものの、服が擦れるだけでも反応してしまいそうだ。
「神子君、部屋まで……」
「神子。部屋まで送ろう」
歩くのもつらいと考えた瞬間、アールがユアンの手を振り払い、風真を抱き上げた。
「ユアン。次は私の番だ。譲れ」
「……正直嫌だけど、不公平は良くないか」
肩を竦めると、アールは微かに口元を緩める。公正な勝負を挑んでくるユアンだから、風真を巡るライバルとして認めていられる。
目を丸くしたユアンが何か言い出す前に、アールは廊下へと出た。
その後を、ユアンとトキもついて行く。
「アールは、手首は治ったのかな」
「そのようですね」
風真を落とす可能性があるなら、ユアンに譲るはず。
「神子君を運べなかったのは残念だけど、早めに治って良かったよ」
「ええ、本当に」
ユアンは、もう少し治りが遅ければ、などとは思わない。今のユアンには、アールも大切な存在だからだ。もし風真がアールを選んでも、落胆はしても、憎む事なく二人の幸せを願えるだろう。
そしてそれは、アールも同じだ。ヒソヒソと会話をする声はアールには届き、だから憎めないのだとそっと口元を緩めた。
部屋に着くと、風真は「ありがとう! 助かったよ!」と元気に言って、部屋に駆け込んだ。そして扉を閉めてしまう。
「ごめんなさいっ、もう寝ますねっ」
アールの体温を感じ、揺られた事で、放置して鎮まるレベルを越えてしまった。これは、抜かなければ収まらない。
「独りで大丈夫?」
「はい!」
「身体を冷やさず、しっかりと湯に浸かるようにな」
「うん!」
「では、おやすみなさい、フウマさん」
「おやすみなさい!」
風真は元気に返事をして、バスルームへと向かう。
(みんな優しいっ、大好きっ)
護衛の代わりの騎士が、扉の側にいる。彼に、今の風真の状態を悟らせない言葉を選んだ。
壮年の騎士は、様子のおかしい風真に気付いてしまったが、三人が平然としていたために、何があったかまでは分からなかった。
独りで処理した風真は、冷静になった頭で「三人に触られるより何倍も時間がかかったな……」とバスルームの天井を見上げる。そしてその時の事を思い出し、再びそっと手を添えてしまった。
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