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奉仕活動?
しおりを挟む風真と騎士は楽しく話しながら、護衛を会話に交えていく。社交性のある二人のペースに巻き込まれ、護衛もぽつりぽつりと話し始めた。
「……謹慎中は、王都から出なければ、何をしても良いのですか?」
「もちろんです」
風真は二杯目の果実酒を飲み、コクリと頷く。
「では、神子様のお側に控える事にします」
「えっ、あのっ、ゆっくり寝るとか温泉に浸かるとか、体を休めてほしかったんですけど……」
そのための一週間だ。
「……日没から夜明けまでは、仰る通りに致します」
「普通の日勤じゃないですか」
一応日勤と夜勤の区別はあるものの、護衛はほぼ日勤で風真と行動を共にしている。更には彼の希望で、他の護衛より勤務時間が数時間長い。
そのうえいつの間にか離れに住み込みになっていて、最近では夜にも度々風真の部屋の前まで様子を見に来ているらしい。
(この世界で一番長く近くにいるの、護衛さんだよな……)
無言の時間が続いても気にならず、話をすれば楽しく、信頼出来て、強い。良い意味で空気のような存在だ。傍にいると安心出来る。
だが。
「うーん……普段から勤務時間長いですし、この機会にもっと自分の時間を取れるよう、アールに相談を……」
「不要です」
「えっ」
「私は、私の意志で動いております」
真っ直ぐに見据える瞳。強い意志をたたえたそれは、何故か縋るようにも見えて。
「きっと神子様のお側に控える事が、彼の趣味でもあるんですよ。好きな事をしている時間を減らされるのはつらいものです」
騎士の言葉に、護衛はコクリと大きく頷いた。
これほど強く意思表示をするのは初めてだ。風真は戸惑いながらも、好きでしている事ならと唸る。
「……それなら、光栄です。でも休暇がほしい時はすぐに言ってくださいね?」
「はい」
「体調が悪い時はきちんと休んでくださいね?」
「はい」
これは言わずに無理するやつだ、と風真は察する。護衛が言わない分、些細な変化も見逃さないようにしようと風真は決めた。
「では私が神子様の剣の稽古や昼飲みにお付き合いする事も、自由ですよね?」
「そうなりますけど、ゆっくり休んでほしいんですけど……」
「普段は隊長にガードされてるんで、この機会に神子様とたくさん交流したいです」
交流、と風真は目を瞬かせる。それは、風真としても嬉しい。稽古や昼飲みも毎日ではないのだから、他の日は休んで貰えるだろう。
「俺も交流できたら嬉しいです。昼飲み、またここでもいいですか?」
「勿論です。外に連れ出すと隊長にボコボコにされますし、こちらでぜひお願いいたします」
爽やかな笑顔の騎士に、ユアンさんもそこまでは、と言い掛けて口を噤む。暴力ではなく、鬼の訓練を与えられそうだ。
笑顔が凍り付く風真に、「隊長ですからね」と騎士は苦笑した。
その時には、護衛も風真の傍に控える事になる。ワインを飲みながら、護衛は風真を見つめた。
主と共に食卓に着くなど、とんでもない事だ。だが。
「護衛さん、次は赤にしますか? それとも果実酒に挑戦してみます?」
太陽のような笑顔を向けワインクーラーの前に立つ風真を見ると、謹慎中の今だけはと、自分らしくない考えが浮かんでしまう。この笑顔を曇らせる事は決してしたくはないと。
「……神子様が飲まれているものと、同じものを」
「これですねっ、さっぱりしてて美味しいですよ」
パッとますます笑顔を弾けさせ、新しいグラスに果実酒を注ぐ。その笑顔を護るために、……いや、不敬だと分かりながらも、今この時だけは、夢を見たのだと思い心のままに過ごす事にした。
「……とても、美味しいです」
「ですかっ、良かったですっ」
初めて見る柔らかな表情に、風真も頬を緩める。もう一口飲み、ウィンナーを口にする。何かを食べる姿を見るのも初めてだ。
(年に何度かは一緒に飲んだり食べたりしたいなぁ……)
護衛と神子ではなく友人のようになりたいと、そう考えているのは自分だけだろうと理解している。彼は、神子を護る仕事に誇りを持っているのだから。
だが、たまには、こうして同じものを食べて、飲んで、ゆっくりと時間を共有したい。仕事中には出来ない会話を楽しみたい。
「神子様。もしお許しいただけるなら、今後もたまに三人で昼飲みをしたいのですが」
二人の様子を微笑ましく見つめていた騎士が、そんな事を言った。
「っ、どうして分かっ……いえ、俺もしたいです」
「ご許可、ありがとうございます。年に何度か開催したいですね」
「はいっ」
コクコクと頷く。
(第一部隊の人って、心が読めるみたいに気遣い上手だ)
それに、いつも気に掛けてくれる。へらりと笑うと、騎士も嬉しそうに笑みを浮かべた。
「……ご一緒いたします」
「! ありがとうございます!」
「……仕事ではありませんので」
仕事ですから。その逆の言葉に、風真は頬を緩める。
無理に付き合うわけではない。そんな顔をする護衛に、風真はふにゃりと笑った。
「素直じゃありませんね」
「そこも護衛さんのいいところです」
そう言って長所にする。護衛は上がりそうになる口角を誤魔化すように、グラスに口を付けた。
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