上 下
185 / 270

ロイ訪問2

しおりを挟む

 ロイをソファへと戻し、アールは風真ふうまの手を取り指を絡める。気付いたユアンも、もう片手を握った。

(捕まった宇宙人みたいだな……)

 ロイの前で、と思うが、ロイはあの兄上がと言わんばかりに微笑ましい視線を向けていた。


「午後に私の執務室へと伝えていたはずだが。神子ならば罪に問わないと分かっていて、ここへ来たな?」
「っ……、神子様にも直接謝罪と、事実をお伝えしたくて……」
「私に嘘をつけると思うな」

 今のは誰も騙されないなと、その場の皆が思う。ロイは一瞬視線を彷徨わせてから、にっこりと笑った。

「今申し上げた事は本当です。それに加え、今回の件で機嫌の宜しくないであろう兄上と二人きりでは、事実をお伝えしても納得していただけないと判断しました」
「そうか。私に怒られる事が怖かったのだな」
「……そのようなことは」

 溜め息をつくアールに、ロイは笑顔のままで冷や汗を流す。


「先程の話で気になる点があった。私と婚約中の令嬢に想いを伝えなかったのは、お前が小心者だからだろう?」
「!」
「令嬢は昔からお前と想い合っていたつもりらしいが、お前は破棄後に求愛して令嬢の心を射止めたと、つい最近まで思っていたのでは? 令嬢が優しくしてくれるのは、私に冷たくされた反動だと」
「兄上っ、それはっ……」
の主人公は、幼い頃から互いに想い合い、苦難を乗り越えて結ばれたはずだが」
「お読みになられたのですかっ!?」

 ロイは大声を上げた。

「世紀の大恋愛?」
「ロイ殿下とアイリス様をモデルにした恋愛小説だよ」
「他者から見た私の姿を知るにも、良い小説だった。部屋に置いているものを貸してやろう。凛々しく好青年のロイを見られるぞ」

 にやりと悪い笑みを浮かべる。風真はピンときた。

「アール、もしかして、ロイさんが俺にキスしたことまだ怒ってる?」

 二人きりが怖くて離れを訪ねて来た事を怒っているのではない。もしかしてと問うと、アールは風真の頬を撫でた。


「私の神子が、ロイなどにキスされてそこはかとなく嬉しそうにしている事に嫉妬して八つ当たりをしている」
「そっち!? ごめんな!?」
「私の頬にキスするなら、怒りも収まるかもしれないな」
「かもじゃなくて収めてほしいっ、ごめんな~!」

 慌ててアールに顔を寄せ、挨拶と謝罪と機嫌直してのキスだから、と己に言い聞かせて頬にキスをする。

「神子君、俺も怒ってるんだけどな」
「ですかっ、すみませんでしたっ」

 ユアンの頬にも慌ててキスをした。

「私も嫉妬しました」
「すみませんでしたっ」

 わざわざ目の前にきて頬を差し出すトキにも。
 ちゅっちゅと小鳥が啄むような可愛いキスをする風真を、ロイは唖然として見つめた。

「……神子様が、謝られる事など……」
「あっ、大丈夫です。俺にキスして貰うために手段を選ばないというむしろ光栄な儀式ですからっ。というかロイさんに当たらせてすみませんっ」
「あいつに謝るな。目の前でキス以上の事をさせるぞ」
「誤解生む!!」

 キスした三人に揉みくちゃにされた上での今の発言。ロイが物凄い顔をしている。


「……あの、僕は、これで……」
「待って! 誤解です!」

 動揺のあまり一人称が僕に戻っている。風真は慌てて引き止めた。

「アールっ、ユアンさんっ、トキさんもっ、着席!」

 必死に訴えると、いかにも何かある風に愛でていた三人は、おとなしく席につく。

「……さすが神子様です」
「ありがとうございます……」

 猛獣使いのような誤解をされたが、ひとまず認める事にした。


「ロイ」
「は、はい……」
「大公領ならば、自らの脚で見て回れる規模だ。領民と対話して治める方法は、お前に向いている」

(いや、何事もなかったみたいに真面目な話って)

 マイペースだなと苦笑してしまうが、ロイは驚きながらも瞳を潤ませていた。

「今回の件を胸に刻み、私情に流されず、領民のためとなる政治を行うよう期待している」

 ロイは立ち上がり、深く頭を下げる。
 以前ならば、アールの口からは決して語られなかった言葉。民のために。それは、アール自身も己に言い聞かせるものだった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

仔犬のキス 狼の口付け ~遅発性オメガは義弟に執心される~

天埜鳩愛
BL
ハピエン約束! 義兄にしか興味がない弟 × 無自覚に翻弄する優しい義兄  番外編は11月末までまだまだ続きます~  <あらすじ> 「柚希、あの人じゃなく、僕を選んで」   過剰な愛情を兄に注ぐ和哉と、そんな和哉が可愛くて仕方がない柚希。 二人は親の再婚で義兄弟になった。 ある日ヒートのショックで意識を失った柚希が覚めると項に覚えのない噛み跡が……。 アルファの恋人と番になる決心がつかず、弟の和哉と宿泊施設に逃げたはずだったのに。なぜ? 柚希の首を噛んだのは追いかけてきた恋人か、それともベータのはずの義弟なのか。 果たして……。 <登場人物> 一ノ瀬 柚希 成人するまでβ(判定不能のため)だと思っていたが、突然ヒートを起こしてΩになり 戸惑う。和哉とは元々友人同士だったが、番であった夫を亡くした母が和哉の父と再婚。 義理の兄弟に。家族が何より大切だったがあることがきっかけで距離を置くことに……。 弟大好きのブラコンで、推しに弱い優柔不断な面もある。 一ノ瀬 和哉 幼い頃オメガだった母を亡くし、失意のどん底にいたところを柚希の愛情に救われ 以来彼を一途に愛する。とある理由からバース性を隠している。 佐々木 晶  柚希の恋人。柚希とは高校のバスケ部の先輩後輩。アルファ性を持つ。 柚希は彼が同情で付き合い始めたと思っているが、実際は……。 この度、以前に投稿していた物語をBL大賞用に改稿・加筆してお届けします。 第一部・第二部が本篇 番外編を含めて秋金木犀が香るころ、ハロウィン、クリスマスと物語も季節と共に 進行していきます。どうぞよろしくお願いいたします♡ ☆エブリスタにて2021年、年末年始日間トレンド2位、昨年夏にはBL特集に取り上げて 頂きました。根強く愛していただいております。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

処理中です...