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ロイ訪問2
しおりを挟むロイをソファへと戻し、アールは風真の手を取り指を絡める。気付いたユアンも、もう片手を握った。
(捕まった宇宙人みたいだな……)
ロイの前で、と思うが、ロイはあの兄上がと言わんばかりに微笑ましい視線を向けていた。
「午後に私の執務室へと伝えていたはずだが。神子ならば罪に問わないと分かっていて、ここへ来たな?」
「っ……、神子様にも直接謝罪と、事実をお伝えしたくて……」
「私に嘘をつけると思うな」
今のは誰も騙されないなと、その場の皆が思う。ロイは一瞬視線を彷徨わせてから、にっこりと笑った。
「今申し上げた事は本当です。それに加え、今回の件で機嫌の宜しくないであろう兄上と二人きりでは、事実をお伝えしても納得していただけないと判断しました」
「そうか。私に怒られる事が怖かったのだな」
「……そのようなことは」
溜め息をつくアールに、ロイは笑顔のままで冷や汗を流す。
「先程の話で気になる点があった。私と婚約中の令嬢に想いを伝えなかったのは、お前が小心者だからだろう?」
「!」
「令嬢は昔からお前と想い合っていたつもりらしいが、お前は破棄後に求愛して令嬢の心を射止めたと、つい最近まで思っていたのでは? 令嬢が優しくしてくれるのは、私に冷たくされた反動だと」
「兄上っ、それはっ……」
「世紀の大恋愛の主人公は、幼い頃から互いに想い合い、苦難を乗り越えて結ばれたはずだが」
「お読みになられたのですかっ!?」
ロイは大声を上げた。
「世紀の大恋愛?」
「ロイ殿下とアイリス様をモデルにした恋愛小説だよ」
「他者から見た私の姿を知るにも、良い小説だった。部屋に置いているものを貸してやろう。凛々しく好青年のロイを見られるぞ」
にやりと悪い笑みを浮かべる。風真はピンときた。
「アール、もしかして、ロイさんが俺にキスしたことまだ怒ってる?」
二人きりが怖くて離れを訪ねて来た事を怒っているのではない。もしかしてと問うと、アールは風真の頬を撫でた。
「私の神子が、ロイなどにキスされてそこはかとなく嬉しそうにしている事に嫉妬して八つ当たりをしている」
「そっち!? ごめんな!?」
「私の頬にキスするなら、怒りも収まるかもしれないな」
「かもじゃなくて収めてほしいっ、ごめんな~!」
慌ててアールに顔を寄せ、挨拶と謝罪と機嫌直してのキスだから、と己に言い聞かせて頬にキスをする。
「神子君、俺も怒ってるんだけどな」
「ですかっ、すみませんでしたっ」
ユアンの頬にも慌ててキスをした。
「私も嫉妬しました」
「すみませんでしたっ」
わざわざ目の前にきて頬を差し出すトキにも。
ちゅっちゅと小鳥が啄むような可愛いキスをする風真を、ロイは唖然として見つめた。
「……神子様が、謝られる事など……」
「あっ、大丈夫です。俺にキスして貰うために手段を選ばないというむしろ光栄な儀式ですからっ。というかロイさんに当たらせてすみませんっ」
「あいつに謝るな。目の前でキス以上の事をさせるぞ」
「誤解生む!!」
キスした三人に揉みくちゃにされた上での今の発言。ロイが物凄い顔をしている。
「……あの、僕は、これで……」
「待って! 誤解です!」
動揺のあまり一人称が僕に戻っている。風真は慌てて引き止めた。
「アールっ、ユアンさんっ、トキさんもっ、着席!」
必死に訴えると、いかにも何かある風に愛でていた三人は、おとなしく席につく。
「……さすが神子様です」
「ありがとうございます……」
猛獣使いのような誤解をされたが、ひとまず認める事にした。
「ロイ」
「は、はい……」
「大公領ならば、自らの脚で見て回れる規模だ。領民と対話して治める方法は、お前に向いている」
(いや、何事もなかったみたいに真面目な話って)
マイペースだなと苦笑してしまうが、ロイは驚きながらも瞳を潤ませていた。
「今回の件を胸に刻み、私情に流されず、領民のためとなる政治を行うよう期待している」
ロイは立ち上がり、深く頭を下げる。
以前ならば、アールの口からは決して語られなかった言葉。民のために。それは、アール自身も己に言い聞かせるものだった。
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