173 / 270
※モブ未遂注意
しおりを挟む「っ……」
侯爵の手に顎を掴まれ、無理矢理上を向かされる。
「ほう、よく見れば可愛い顔をしているな?」
舐めるような視線に、ぞわりと鳥肌が立った。
「ロイ殿下に比べれば石ころのようなものだが、これはこれで、なかなか愛嬌がある」
左右に顔を動かされても、従うしかない。風真はせめてもと、侯爵を睨み付けた。
「手放すのは惜しいが……。その前に少々、薬漬けにして可愛がってやるというのも……」
下卑た笑みを浮かべ、風真の体を品定めするように見つめる。
(そうだっ……、とんでもないゲームの世界だったっ……)
元のストーリーも、奴隷制のある国が存在する事実も。
体の自由のみ奪う薬があるくらいだ。媚薬があってもおかしくない。
「っ……、手放す、って……俺をどうするつもりですかっ……」
風真は眉を下げ、ぽろぽろと涙を零した。
堪えていたものを零しただけ。そうしたのは、少しでも情報を引き出したかったからだ。
こうなった以上、今出来るのはそれだけだ。足手まといの自分が役に立てるのは、少しでも有益な情報を持って帰る事だけ。
「ご安心ください。お相手は優しいお方です。おとなしくしていれば、それはもう、たっぷりと可愛がって貰えるでしょう」
(そっちの奴隷っ……)
今度は本当に涙が溢れた。
「お相手、って……俺っ、どこかに売られるんですかっ……?」
「さあ、どうでしょうね?」
子爵は答えない。風真は視線を落とし、ぎゅっと目を閉じた。
「嫌ですっ、知らない人のところなんてっ……」
目を開けるとグッと視線を上げ、侯爵を見つめる。一度でも性的な視線を向けたなら、泣いている姿に興奮した顔をしているなら、それを利用するしかない。
「嫌だっ……、いやですっ……」
弱々しい声を出し、泣きじゃくった。
せめて侯爵の奴隷になれれば、もし連れ去られたとしても、救い出される可能性が高くなる。本気の涙を流し、頭の一部だけは冷静に考えた。
侯爵と繋がりさえあれば、きっと三人が探し出してくれる。侯爵の地位など関係なしに、邸宅に踏み込んでくれるかもしれない。
「ふむ……。捨て犬のようで、可哀想になってきたな。私のところで可愛がってやろうか」
「閣下。あの国でなければ、さすがに見つかります」
「行き先を変えるか。私の別荘のある国に向かうよう、港の」
「閣下っ」
「そう怒るな」
子爵は侯爵の口止めをしようとしているが、子爵も口を滑らせていた。
向かう先は、風真が売られても見つからない国。闇で取引される奴隷が横行している国だろうか。そして、港には協力者がいる。
(これを誰かに伝えられればっ……)
先程までここにいた衛兵は、侯爵側だと思って間違いない。
今頃騎士が、姿の見えない風真を探しているはず。ここに人がいる事を誰かが気付いてくれれば、その反応できっと騎士も気付いてくれる。
「っ……、助けてーーっ!!」
「なっ……、このっ」
「んぐッ!」
子爵の手が、口を覆う。
「んうっ! んんっ!!」
「この状況で、なんて声をっ……」
「活きが良いな。少々おとなしくなって貰わねば」
侯爵の手がシャツを掴む。風真を見下ろしニヤリと厭な笑みを浮かべた途端、布の破れる音と共に、釦が飛び散った。
「ッ……! うっ……!」
何をされるか、もう分からない頃の自分ではない。この先を想像し、恐怖と嫌悪感でぼろぼろと涙が零れた。
指先ひとつ動かせない。忘れようとしていた、体が動かないという恐怖が、一気に押し寄せてくる。
(嫌、だ……怖い……)
恐怖に呑まれ、抗う事を諦めそうになる。だがその瞬間、皆の顔が脳裏をよぎった。
(駄目だ……絶望するには、まだ早い……)
触られたとしても、殺されはしない。薬も永遠に効果が続くような強いものではないはず。
外に自分を運ぶ準備が出来れば、もしくは港に着くまでに、きっとまた逃げ出すチャンスがある。
(少し、我慢すればいいんだ……)
こんなものは暴力で、何をされても性行為ではない。もしかしたら、その間に誰かが来てくれるかもしれない。
淡い期待。それでも、そう願っていなければ耐えられない。
こんな事になるなら、バッドエンドを選んでおけば良かった。三人に愛される、幸せなバッドエンドだ。
(みんな、ごめんなさい……)
我慢してくれたのに、こんな奴に汚されてしまう。
それでもまだ、好きだと言ってくれるだろうか。
……いや、嫌われた方がいい。悲しまれるより、嫌われたい。
……嫌われたく、ない。
嫌だ……。
こんな奴にっ……。
(体さえ動けばっ……)
ピコンッ、と小さな電子音がした。
突然目の前に画面が現れ、風真は目を見開く。
――祈りを使用しますか?
(祈り……? しますっ!)
「何だっ!?」
体は動かないまま、風真の手から目映い光が溢れる。その光は小屋の中に広がり、扉の隙間から零れた。
男たちの手が離れ、光が収まる前に、風真は立ち上がった。
「ぐっ……!」
侯爵がくぐもった声を上げる。騎士たちから教わった、確実に急所を突ける緊急時の護身術だ。
「このっ……、ぐあッ!」
ユアンから教わった方法で、襲いかかる子爵の力を利用して壁に投げ飛ばした。
二人が動けないうちに、扉を開けて外に飛び出す。
「なっ……、うぐっ!」
すぐ外にいた衛兵の喉元を咄嗟に突いて、風真は走り出した。
脚が軽い。身体も動く。
祈りは、マンティコアの毒も解毒出来た。使われたものが薬なら、解毒は効果があるのだ。体が動けばと願った事で、システムが答えたのだろう。
(もっと早く助けて欲しかった!)
文句を言っても、システムは答えない。
(でもありがとう! ほんとにありがとう!)
答えは返らないが、風真は何度も感謝しながら、庭園の出口へと全力で走った。
26
お気に入りに追加
840
あなたにおすすめの小説

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない
春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。
路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。
「――僕を見てほしいんです」
奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。
愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。
金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます
野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。
得た職は冒険者ギルドの職員だった。
金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。
マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。
夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。
以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

女神の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界でオレは愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる