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*ごめんね
しおりを挟む「へ……?」
眩しい朝の光。咄嗟に閉じた目を開けると、琥珀色の瞳に見下ろされていた。
(あれ? なんか、押し倒されてる?)
手首を掴まれ、ベッドに押し付けられている。脚を動かそうとすると、体重を掛けて押さえ込まれた。
「え……あの、ユアンさん……?」
美形の真顔は怖い。表情が読めず、冗談か本気かも分からない。
逃げるべきか、突然どうしたのかと言って笑うべきか。
「……ごめん、少しだけ」
「へ? ひッ……」
髪が胸元に触れ、擽ったいと思った時には、唇が触れていた。
「ユアンさんっ! んあっ、だめ、ですっ……」
小さな粒をやわやわと唇で食まれ、背筋が震える。
「離しっ……ふぁっ、は、あぁっ」
熱く滑るものが粒を包み、背をしならせた。
(ユアンさん、本気だっ……)
逃げようとしても、掴まれた腕はびくともしない。蹴り上げようにも、ユアンの体重を押し返すだけの力がなかった。
「やっ、ぁっ……う、うーっ」
ユアンの手によって開発されたそこは、ユアンの舌によってますます性感帯にされていく。
下への自慰より感じてしまう。達しないように堪えるだけで精一杯だ。
(ぬるぬるして熱くてやばい、ほんとやばいっ……)
ねっとりと優しく舐められ、はふ、と吐息が零れる。強烈な快感とは違う。じわじわと全身まで気持ち良さが広がる。
軽く吸い上げられ、ひゃぁ、と女の子のような声が漏れた。
「可愛い……」
「へ……わっ、んンッ――!」
じゅう、と痕が付くほどに吸い上げられて、目の前に星が散った。
「ひっ、ひゃうんッ!」
突き出した胸に歯を立てられ、強烈な快感にまた視界がチカチカする。何度も食まれ、その度に達する感覚が襲い、ぼろぼろと涙が零れた。
ふ、と快感が止み、手首の拘束も外れる。掛けられた体重もなくなり、無意識に安堵の溜め息が零れた。
汗で額に張り付いた黒髪を、長い指がそっと払う。滲んだ視界で、光に透ける橙色が揺れた。
「ごめん、フウマ……」
視界から色が消え、ふっと腰が宙に浮いた。
「ぇ……、っ……、そんなっ……ッ――!!」
そんなところ、と言葉にする前に、下肢を熱いものが包んだ。
「アッ……、ひ……ぃっ」
ユアンの舌が、熱い咥内が、敏感な部分を擦り上げる。根元を戒められ、出せないのに達する感覚が何度も襲った。
「らめっ、ひゃっ、イっ……」
(イってるっ、イってるからっ……)
そう訴えたいのに、口から零れるのは甘い嬌声ばかり。シーツを握り締め、背をしならせて何度も絶頂を迎える。
(ユアンさんが、俺のを……)
息も絶え絶えになりながら視線を下げると、霞んだ視界で琥珀色の瞳とぶつかった。
「ぁ、ッ――……!」
ぞくぞくと背筋が震え、脳まで痺れるような快感が走る。真っ白になった視界で、体の中の熱が解放される感覚を、どこか遠くに感じた。
意識が飛んだのは一瞬だった。目を開けると、コクリと音が聞こえた。
「ぁ……ぇ、……の、飲ん……っ」
視界は滲んだまま。体も動かない。それでも、親指で口元を拭うユアンが映り、何をしたか理解出来てしまった。
「みっ、みずっ……」
呼吸も整わないまま訴えると、噎せてしまう。ベッドが揺れ、ユアンがグラスに水を入れて戻ってきた。
風真をそっと抱き起こし、口元にグラスを近付ける。コクコクとゆっくりと水を飲み、ぷはっと風真は息を吐いた。
「あっ、違うっ、ユアンさんが飲んでくださいっ」
「ありがとう。でも、勿体ないから」
ユアンは眉を下げて、無理矢理唇に笑みを作る。だがすぐに俯き、深く頭を下げた。
「楽しい気持ちを、台無しにしてごめん」
「っ……」
「ごめん……。どうしても今、君の一部が欲しかったんだ」
ユアンの言っている意味が分からず、風真は怪訝な顔で見つめる。何故、今なのか。風真にはそれが一番引っかかった。
「もうすぐ君は答えを出すんだろうと思ったから……。君が俺を選ばなくても、もう、後悔はないよ」
疑問は全て、すぐに解決する。理解すると同時に、風真の手がベチッとユアンの両頬を挟んでいた。
「大人って、子供の話を聞かない時がありますよね。ユアンさんはいつも俺を子供扱いしてますし」
「っ、神子君……?」
今度は風真の言う意味が分からず、ユアンは戸惑う。
トキは意図的に聞いていないふりをしたが、ユアンは最初から聞こうともしていない。つまり、人の話を聞け、ということだ。
「自己完結しないで、触っていいか先に聞いてくださいよ」
風真はわざと呆れたように溜め息をついた。
「……聞いたら、受け入れてくれた?」
「それは、お願いの仕方によります」
言い切り、ユアンの頬を揉む。
「お願いされて流されるのと、何も聞かれないでされるのは大きく違うんですよ」
知力が上がり賢くなったおかげで、今の気持ちを言葉で説明する事も、諭す事も出来る。そして、こうなった原因も冷静に考える事が出来た。
「でも……俺も、どうしたのか訊かずに、動かないでいるって判断を勝手にしちゃいました」
どうしたのかと、勢いに任せて訊けば良かった。
賢くなったことで理性がストッパーになり、由茉の言う自分の良さがなくなっている気がした。
「俺が優柔不断でユアンさんに無理させてるから、原因は俺なんですよね。一番の原因は……全裸で添い寝に慣れてしまった俺のせいです。いえ、ほんとに……」
友人でも全裸で添い寝はしない。許容範囲は友人を基準にするべきだったと今更唸る。
「神子君は何も悪くないよ。脱がせた俺のせいだ」
「それは服がシワにならないようにですし」
今更ながら布団を引っ張り、自分とユアンの脚に掛ける。
「……俺、元の世界ではキスすらしたことないんです」
全裸で添い寝など論外。誰かの手で喘がされる事もなかった。
「だから……気持ちいいことが、こんなに気持ちいいとは思わず……。いけないと思いつつ、本気で止めようとしてないんですよ……」
(タイトル、童貞わんこは異世界に喚ばれてビッ●になりました……)
姉の本棚で見た事のある題名を組み合わせてみる。今ならあの本たちの内容が何となく想像出来る気がした。
「何が言いたいかというと、ユアンさんが傷付いた顔することないんです。その……すごく、気持ちよかったですし」
気持ち良かったのは本当だ。された事は、止めなければならなかったと思っていても。
これからユアンに避けられるようになるくらいなら、気持ち良かったからそれで良しとしたい。
指を組みもぞもぞと動かす風真を、ユアンは呆然と見つめる。
今回の事は、許される範囲を超えていた。それなのにこんな結論を下す。傷付いた顔をしないために。これからも、一緒にいてくれるために。
ユアンはグッと拳を握り、ふっと力を抜いた。
「ごめんね、神子君」
普段通りの笑顔を見せると、いえいえ、と言って風真は安堵したようにユアンの頭を撫でた。
「一つだけ、訊いてもいい?」
「はい、いくつでもどうぞ」
「最近俺以外に、こういう事された?」
「えっ」
「俺の勘違いならいいんだけど、想像してたより濃くなかったから……」
眉を下げるユアンに対して、風真はカァ……と頬を赤くする。
「えっ、あのっ、じっ、自分でっ」
「……トキか」
「!?」
「トキだったか……」
「誘導尋問!」
すぐに引っかかる、と頭を抱え、ぶんぶんと振った。
「健康のために出してくれただけですっ、俺が根を詰めるからって、気遣ってくださってっ」
「……トキの方が、俺より君を大事にしてるのか」
「えっ、ええっとっ、それぞれのやり方で大事にして貰ってますね! いつもありがとうございます!」
これは本心だ。だが言えば言うほど嘘っぽくなる。あわわ、と慌てると、ユアンはそっと風真の頭を撫でた。
「俺が言える事じゃないけど、トキには無理矢理されたわけじゃないんだよね?」
「はいっ」
大きく頷く。縛られたり色々あったが、結果的にはすっきりして終わった。
「それなら良かったよ……。……抱きしめてもいい?」
「えっ、はい、どうぞっ」
両手を広げると、困ったように笑って風真を抱きしめる。
「俺も、ひとつ訊きたいんですけど」
「うん、何でも訊いて」
「ユアンさん、止めようと思えば止められたんですよね」
「……どうして?」
「胸の時も、あっちの時も、俺の顔をじっと見てどうしようか考えてたじゃないですか」
最中には気付けなかったが、思い返せばそんな表情だった。
「よく考えたら、ユアンさんが理性飛ばした時って、考えるより先に行動してますよね。魔物の時に思いました」
あの時は冷静に見えても理性を欠いていた。今回は、その逆だ。
「……それでも、俺を赦すの?」
「そもそも怒ってませんし」
子供みたいだな、とぽんぽんと背を叩く。
「理性が飛んだなら可愛いなって思いましたけど、やっぱりユアンさんは冷静な大人で、この国一番のえっちな人です」
「……王宮イチじゃなくて?」
「王宮には収まらない男だと理解しました」
「嬉しいな」
「褒めてません」
今度はぺちぺちと叩く。そして逞しいくせに子供のようなユアンを、ぎゅうっと力いっぱいに抱きしめた。
「……ありがとう、神子君」
すり、とユアンの頬が寄せられたところで、ぐううっ、と盛大に腹の虫が鳴った。
「……俺とはシリアスな展開にはならないと、理解していただけたでしょうか」
「ふ、っ……理解しました。すぐに持ってくるね」
「すみません、お願いします」
ユアンは服を着ながらも小さく笑い、風真の頭を撫でて部屋を出て行った。
風真はまた横になり、目を閉じる。
「……お笑いキャラじゃん、知ってた~」
お腹が空気を読んだのか、読まなかったのか。
だが結果的に場は和んだ。ユアンも笑ってくれた。ありがとう、お腹。胃袋に感謝して、顔を洗おうとベッドを下りた。
(五回目の討伐、終わったもんな……)
ユアンとトキが同じような事を言うのは、もうすぐ風真が結論を出すと感じているからだろう。風真自身も気付いていない気持ちを。
これもゲームシステムの影響かと思うと、自分の気持ちもそれに引きずられているようで怖くなる。
「いやいや、俺は俺の気持ちで答えを出すんだって」
下を向くなど自分らしくない。バシャバシャと顔を洗い、鏡の中の自分を真っ直ぐに見据えた。
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