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ユアンのお礼
しおりを挟む翌日の夜。
「国を救っていただいた神子様に~」
「感謝と我等の愛を込めて~」
「「乾杯ー!!」」
「かんぱーい!」
愛も込められた、と嬉しそうに頬を染めて、風真も木のジョッキを掲げる。
今日の一杯目はビールだ。ゴクゴクと飲み、ぷはーっと息を吐いた。
「よっ、いい飲みっぷり!」
「神子様最高!」
拍手と歓声が起こり、勝者のように両手を上げて応える。
「みなさんすごい褒め上手で、優勝した気分です」
「神子様が一番!」
「優勝おめでとうございます!」
ワーッと歓声が上がり、また両手を上げて優勝気分を味わった。
「みなさん、もう一度~、かんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」
ジョッキを掲げ、皆も一気に酒を呷る。
「へへ、最高に気持ちいいです」
隣に座るユアンを見上げ、へらりと笑った。
「いつもと同じ場所ではあるけど、結界のお礼になったかな?」
「はいっ。場所はどこでも、みなさんと一緒で嬉しいですっ」
にこにこと笑う風真の髪を、ユアンはよしよしと撫でる。
「君は城を買えるだけの宝石より、こっちの方が喜ぶと思ったんだ」
「大正解です。めちゃくちゃ嬉しいです」
「公爵夫人の席より、賑やかな食堂の宴の席の方が好きだよね」
「大正解で……すみません」
「意地悪な聞き方だったか。ごめんね」
「いえ……」
もしゃ、とサラダを口に詰め込んだ。罪悪感より、公爵夫人という言葉に反応してしまった。トキが、一身に愛されることが仕事などと言うからだ。
(ユアンさんを選んだら、きっと毎日……)
愛されそう、と想像して、ボッと赤くなる。トキにされた以上のあれこれを、毎日される。いや、それはアールも同じかと考えて、ますます赤くなった。
「神子君?」
「……」
「神子君、大丈夫?」
「……へっ? あっ、なんですかっ?」
ハッと我に返ると、ユアンの顔が間近にあった。
「ひえっ!」
「そんな魔物に会ったみたいに」
「すみません! ぼーっとしてたらイケメンがいて!」
「それは、俺のこと?」
「顔近いです! ユアンさんますます顔良くなってませんっ?」
「君を好きな気持ちが、そうさせてるのかな」
「!!」
これで落ちない女性はいない。顎を掴まれ、瞬間的に納得した。
「ねえ、フウマ。キスしていい?」
「!? だっ、だっ……!」
最近こんなスキンシップがなかったせいで、耐性が薄れている。甘い瞳で見つめられ、突き放す事も出来ない。
「駄目でーす!」
「隊長、アウトです!」
二人の間ににゅっと手が伸びて、テーブルに分厚い肉の乗った皿が置かれた。
「神子様、ラウノメアを使ったソースのステーキをどうぞ」
「えっ、ソースにもなるんですかっ?」
「デザートには使用されますが、肉にもいけるか神子様に試食をお願いしたいそうです」
「そうなんですねっ、ありがたくいただきますっ」
食べやすいサイズに切られた肉を、ぱくりと一口。
「んっ、んん~っ。これはいけますっ。甘くてフルーティな香りのソースが、肉の脂を包み込んでジューシーでまろやかにっ。濃厚なので、お酒はさっぱりしたものが合いそうですね。あっ、でもビールにも合う」
ぐびっと飲んで、はふ、と満足そうに息を吐いた。
「肉に負けた」
「神子様のお心を射止めるのは難しそうですね」
「射止める間際で邪魔したのは、君の差し金だろ?」
「何の事でしょう」
向かいに座る副隊長はしれっと言って、ジョッキに口を付けた。
「隊長。時と場所は選ばないと、神子様に嫌われますよ?」
「そうですよ。上の宿、予約してますんで」
「正論すぎて何も言えないな」
ユアンは苦笑する。
「俺たちは隊長を応援してますんで、頑張ってください」
「伴侶になられたら俺たちも神子様にお会い出来る機会がもっと増えますし、頑張ってください」
「まったく、素直だな」
結局風真に会いたいだけじゃないかとまた苦笑して、ジョッキの中身を一気に呷った。
(騎士のみなさんって、ユアンさんのこと大好きだなぁ)
任務中は上官として敬い、任務外では気心の知れた友人や家族のように接する。良い関係だなと、風真はにこにこしながら果実酒を手に取った。
今日はちびちびと飲みながら騎士たちと話していると、目の前に皿が置かれた。
「神子様、これお好きでしたよね」
「あっ、ありがとうござ……っ」
それを見るなり、ボッと顔が赤くなった。
「神子様っ?」
「えっ、あっ、あのっ、なんでもないですっ」
そっと視線を逸らすと、ユアンの下半身が視界に入り、慌てて顔を前に戻した。
その様子に、騎士たちの間に戦慄が走る。
「隊長っ!?」
「嫁入り前の神子様に何をされたんですかっ!」
(嫁じゃない……)
「神子君が隠しておきたいなら、俺の口からは言えないな」
「隊長ーっ!?」
(相手がユアンさんなだけに、誤解がすごい)
隣にいるのがアールやトキだったとしても、ユアンが何かしたのだと疑われるだろう。
だが、そう疑われるのは男としての魅力があるということ。そして自分は、何かされた側だと思われる。男として、した側だと疑われるのは羨ましい事だった。
「……俺も、そのくらい欲しいです」
せめてサイズだけでも男らしく。そう考えた事が、言葉に出てしまった。
騎士たちは静まり返り、ユアンは微笑ましく風真を見つめる。そしてハッと我に返った騎士が風真に詰め寄った。
「体格に見合うサイズが一番美しいと思いますよ!」
「そうですよ! デカけりゃいいってもんじゃありません!」
「大事なのは愛する人を喜ばせられるかどうかです!」
「俺は、神子君のなら何でも嬉しいよ」
「「隊長は黙っててください!!」」
声を揃えて怒られ、ユアンはくすりと笑って両手を上げた。
「ありがとうございます……。すみません、食事中に変な話して……」
「いえっ、こちらこそ勘違いをっ」
「神子君、はいどうぞ」
「えっ……」
ズイ、と口元に近付けられたもの。切り分けてフォークに刺したウィンナーだ。
「……このサイズは、わざとですね?」
「何の事かな? 神子君は、俺のを見たことあった?」
「っ……」
「「神子様ー!?」」
「違うんです! ユアンさんのとかじゃなくてっ、一般的なサイズのっ……むぐっ!」
(覚えのあるサイズ……!!)
体液摂取で初めてユアンのモノを咥えた時、このウインナーではないかと疑った。その次も、ウインナーと同じ大きさと熱さだなと考えてしまった。
(そうそう! ウィンナーの方が柔らかくてっ……じゃないわ!)
「ぅ……、んぅっ!」
「痛ッ」
脳内でノリツッコミをして、力を込めてパリッと噛みちぎる。その瞬間、ユアンではなく各所で小さな声が上がった。
「今痛みを訴えた者、明日の訓練メニューは三倍だ」
「本気の数字!」
「すいませんでした!」
普段でも常人には付いて行けない厳しい訓練が、三倍。体は壊さないが地獄の苦しみを与える数字に、騎士たちは悲鳴を上げる。
「元はといえばユアンさんのせいですよ。……そもそも俺が変に反応しちゃったのが悪かったですし、訓練はいつも通りで」
「そう? 神子君がそう言うなら」
「神子様~っ」
「慈悲深い神子様に感謝するといい」
「ありがとうございます! 神子様!」
「いえ……、俺のせいで巻き込んですみません……」
騎士たちは会う度に過保護になる。何をしても許して、何を食べても褒められる。
(生まれたての子犬の気分……)
あれもこれもと美味しい料理を取り分けられ、食べると「食べた」と喜ばれる。美味しい酒も次々に注がれ、自制していたはずが、いつも通りの時が訪れた。
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