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ちゃぷちゃぷ

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 暖かい紅茶を飲んでひと息ついたところで、トキは次の話題を切り出した。

「さて、フウマさん。こちらへお連れした理由はもう一つあります」
「っ……邪気、溜まってましたね……」

 今回は魔物を討伐していないが、周囲の邪気を取り込んだとドラゴンが言っていた。

「でも少しなんで、次の討伐が終わってからでも」
「フウマさん」
「はい……、すみません……」

 咎める視線に素直に謝り、小さくなる。本気で心配していると分かっているから、断る事が出来なかった。

「フウマさん」
「はい……」
「お部屋を移動しましょうか」
「……はい。お祓い、お願いします」

 にっこりと清々しい笑みを向けられ、ガクリと項垂れる。

(今日はお漏らしイベントなかったらいいな……)

 気持ち良くされて喘ぐより、粗相をしてしまう方が恥ずかしい。着衣のままだと特に、背徳感も重なって居たたまれなかった。





「これで終わりです。お疲れ様でした」
「え? ……ありがとうございました」

 儀式の間で、何事もなくお祓いは終わり、両手の拘束が解かれる。そしてまたトキの私室へと戻ってきた。

(いや、待てよ? この前は安心させておいてやられたな)

 この流れ、同じだ。

(美味しいお茶ばっか出される……)

 分かっていても、美味しくて飲んでしまう。二杯目で何故かもうお腹がちゃぷちゃぷだ。

「……あの、トイレをお借りしても」
「ええ。こちらですよ」

 部屋の端の扉を開け、洗面台のある部屋のその先、更に扉を開けると目当ての場所だった。


(普通に借りれた……)

 用を足して手を洗いながら、神妙な顔をする。
 今日はお漏らしプレイはないのだろうか。いや、油断させておいて、ここを出たら拘束されるパターンもある。風真ふうまは唸った。

 それでも部屋を出ないのは、トキと過ごす時間が楽しいからだ。これからえっちなイベントが発生するとも限らない。もしかしたら今日は、本当にお祓いとお礼だけかもしれない。

(あんまり警戒するのも、トキさんに悪いよな)

 悪意がある訳でも、危害を加えようとしている訳でもない。それなのに悪者扱いをするのは失礼だ。風真は頷き、部屋へと戻った。


「珍しいお茶を教わったので、ご用意しますね」

 トキはそう言って、スプーンに乗せた角砂糖にブランデーをたっぷりと垂らし、火を点ける。青い火が美しくゆらゆらと揺れ、小さな赤い炎が周囲にパチパチと花を咲かせた。
 花火のようなそれを風真が興味深く見つめる先で、炎が消える前にそっと紅茶に沈める。

「いいにおい~」

 渡されたカップからは、薔薇とキャンディと、煮詰めたジャムのような香りがした。

「んっ、大人の味ですね、美味しいですっ」
「お口に合って良かったです。こちらの砂糖は、薔薇の蜜から作られているのですよ」
「オシャレですね~。華やかでお酒の味ともぴったりです」

 ジャムのような甘さはブランデーの味だろうか。重厚な香りを楽しみながら、大人の気分で紅茶をちびちびと楽しんだ。一気に飲んでしまうのは勿体ない。

「強めのお酒ですので、念のためお水をどうぞ」
「ありがとうございます」

 紅茶の余韻を堪能してから、水を飲む。そしてまた紅茶を口に含んだ。
 カップが空になってから、トキはまた次を準備する。


「次はこちらを。ライムを塗ったカップに塩を付けて、レモンの香りのする紅茶を……」

 ソルティドッグみたいだな、と思いながら飲んだ紅茶は、茶葉の種類と良く合って爽やかだ。


「塩漬けにした花の蕾に、白湯を注いだものです」

 こちらは塩味が丁度良く、口の中がさっぱりとした。


「どれも美味しくて楽しいです。いろんな飲み方があるんですね~。トキさんってほんと物知りです」

(そうは言っても、あっという間にお腹がちゃぷちゃぷなんですけど……)

 ゆっくりと時間をかけ、菓子と共に会話を楽しみながら飲んでいるうちに、二時間が経っていた。

(断るには、お茶の種類が魅力的すぎた……)

 元の世界では缶コーヒーやペットボトルの緑茶ばかりだった風真には、次は何が出るのかと楽しみで、断るなど出来なかった。

「あの、トイレに……」
「今日は、こちらにしましょうね」
「へ?」

 ひょい、と抱えられ、ベッドに下ろされる。あれよあれよと言う間に、後ろ手に縛られてしまった。更に両足まで固定される。

「んあーっ! やっぱりするんですねっ!?」
「痛くありませんか?」
「ありませんけど! ふわふわで優しさ感じますけど! 今日はえっちなのはナシでお願いしたいです!」
「久しぶりですので、じっくりと致しましょうね」
「話聞いてっ!」

 思わず敬語が外れる。


「本当は、地下牢で……と考えていたのですが」

 さすがに暴れようとした風真は、その単語にピタリと動きを止めた。

「そちらの絨毯の下に、地下室への扉がありまして。本来は避難用ですが、使用する機会もないので鉄格子を設置したのです」
「なんで設置しちゃったんですかっ……」
「あわよくば、と」
「~~っ!!」

 輝く笑顔を向けられ、声にならない声を上げる。

(トキさんエンドフラグ~!?)

 由茉ゆまがあれほど危険だと言うなら、地下牢プレイもあるかもしれない。それを今設置してしまうなら、トキルートも完全には閉鎖されていないのだろうか。

「フウマさんを監禁する意図はありませんよ?」
「えっ」
「数時間だけ楽しくお遊びをするための、お遊技場です」

(これやばいやつだ!)

 暴れたらこのまま担がれて連れ込まれる。トキの穏やかな笑顔から、本気で身の危険を感じた。
 ダラダラと冷や汗を流しながら、硬直したように動きを止める。ビクビクしている風真に、トキはとても綺麗な笑みを浮かべた。

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