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談話室でのこと2

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「神子と魔物という存在が、互いを伴侶に選ぶなど信じられない話だが……。フウマを見ていると、種族の違いなど些細な事に思えるな」

 アールはふっと表情を緩めた。
 懸念はまだ拭えなくとも、慕い合っていたと信じたい。そうであって欲しいと願う。


「魂の色がフウマさんと同じでしたら、神子様も、フウマさんのようにドラゴン様に接したのでしょうね」
「そうだね。どっちが先に好きになったのか気になるよ」
「フウマと同じならば、ドラゴンが先……いや、魔物から神子には近付かないか」
「神子様が通って無意識に落としたのかもね。神子君みたいに、おはよう! って挨拶から始めて」
「どこかで聞いた話だな」

 アールが落とされるに至った、最初の頃の話だ。

「当時は混沌とした世界だったと記述にあるが……共に過ごす時間は、幸せだったのだろうな」

 過ごした時を、神子への想いを、懐かしみ愛しく話すドラゴンの姿が、そう告げていた。

 魔物ではなく人間だったなら、添い遂げる事が出来たのだろうか。
 最期が悲劇で終わる事もなかったのだろうか。
 全て想像だ。それでも。

「フウマさんと親しくされる事には、多少抵抗はありますが……ドラゴン様に、今という時も幸せだと思っていただきたいです」
「そうだね。……俺だけは、認めないようにしたいんだけど」
「難しいですね……」

 騎士という立場と個人の感情は、切り離さなければならない。だが今後、冷たく接する事が出来そうになかった。


 ユアンが棚から酒を取り、三人分のグラスをテーブルに置く。
 透明の液体がグラスに注がれ、言葉もなく三人はグラスを掲げた。

「……私の先祖が神子の伴侶に選ばれなかった事には、自分を重ねて傷付いた」

 ボトルが一本空いた頃、アールがぽつりと呟く。

「あー……」
「歴史は繰り返すと言いますが……」
「っ……」
「冗談ですよ、殿下」
「建国の神子様と神子君は違うんだから。でも、神子君をアールに譲る気はないけどね」
「先祖を供養すると思って、身を引いてくれないか」
「元を辿れば俺の先祖でもあるから、アールが引いてくれよ」
「嫌だ」
「俺も嫌だよ」

 この程度で酔う二人ではないが、酒のせいにして軽口を交わす。

「お二人とも、本当に仲がよろしくなられて」
「良くない。……と言いたいところだが、以前より良い関係には違いないな」
「そうだね。俺は今の方がいいな。これも神子君のおかげだね」
「ああ。トキとも、こうして酒を酌み交わす日が来るとは思わなかった」
「私もです。以前は身分の違いを気にしていましたが、今は同じ使いとして……いえ、友人のように思っています」
「そうか。トキも成長したな」

 アールはそう言って、グラスに口を付ける。子供扱いされたお返しかと、ユアンとトキはクスクスと笑った。


「結界の件だが、神子への礼は何が良いだろうか」

 二種類の酒を混ぜ、アールはぽつりと呟く。

「俺は個人的にするつもりだけど、高価なものは遠慮しそうだし、いつも通り部下たちと一緒に飲みに行こうと思ってるよ」
「ユアンにはその手があったな」
「私は、猫と遊んでいただいてから、フウマさんのお好みに合いそうな本をプレゼントするつもりです」
「トキらしいな」

 二人のプレゼントは、風真ふうまの喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
 もう一種類の酒をグラスに追加し、まだ決めかねているアールは唸る。

「……私にしか贈れないものに、王太子妃というものがあるのだが……」
「受け取らないだろうねぇ」
「お礼で渡されても、拒否されるでしょうね」

 ユアンとトキはさらりと言って、水のように酒を呷る。

「食べ物……いや、ユアンと同じだな……街へ行くのは、……今は駄目か……」

 ぶつぶつと呟く。


「……断腸の思いで、私が使用しているものと同じシーツを……」
「それは喜ぶでしょうね」
「アールの部屋で裸で熟睡するくらいだし、相当気に入ったんだろうね」

 二人はそれが良いと頷いた。
 トキは、風真が心地よさでふにゃふにゃになる姿を想像して。ユアンは、風真がアールの部屋を選ぶ理由がなくなることに。ユアンの部屋にも、窓やバルコニーがあるのだから。

「あのシーツを渡そうと、私の部屋には来させるぞ」

 ユアンの考えている事などすぐに分かる。
 口の端を上げるアールに、俺の部屋にも来て貰うけど、とユアンも対抗して笑みを浮かべた。

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