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ジェイとの出会い

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 それからしばらくして、ユアンが戻ってきた。
 ジェイだという確認が取れた。規則で離れには来られないため、騎士団の建物の方にきて欲しいと言うと、ケイは慌ててベッドを下りる。
 バランスを崩したケイを風真ふうまが支え、二人はハッとして互いを見つめた。

「細いっ、軽いっ……」
「風真さんっ、見た目よりしっかり筋肉が付いてますねっ?」

 ケイのように細い相手が周囲にいない風真と、ジェイの逞しい筋肉しか知らないケイ。互いに新鮮な抱き心地に感動して、思わずぎゅっと抱きついた。

「フウマ?」
「わっ、ユアンさんっ」
「すみませんっ、ジェイのところにっ……」
「そうですっ、早くジェイさんのところにっ」

 ユアンの笑顔の圧を感じた二人は、慌てて離れる。

「神子様。ケイ様は、私が」
「「お願いします!」」

 風真とケイの声が重なる。ケイは騎士の差し出した手を取り、風真は動揺してユアンの手を握った。

「あっ、すみませ……」
「一生離さないよ」
「!?」

 指を絡めて握り返され、風真はびくりと跳ねる。
 だが、先程とは一変して嬉しそうな顔のユアンに、こんな顔をしてくれるならと、にぎにぎと手を握った。





「ケイ!」
「ジェイっ……!」
「無事で良かったっ」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」

 二人は駆け寄り、しっかりと抱き合う。ごめんなさいと繰り返すケイの背を、宥めるように撫でた。

「いつも迷惑かけて、ごめんなさいっ……」
「迷惑じゃないさ。家族なんだからな」

(家族……)

 ケイが初めて感じた、家族の暖かさ。ジェイの慈しみに溢れた声と、うっすらと涙の浮かぶ瞳に、ケイが主人公だから好きになったのではないと感じて、風真はそっと頬を緩めた。


「あのっ、この方が、風真さんです」

 気持ちが落ち着いたケイは、頬を赤くして風真を紹介した。

「神子様。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。ケイの保護者の、ジェイと申します」
「っ、初めまして、早川 風真といいますっ」

 突然視線がこちらへ向き、風真は慌ててぺこりと頭を下げた。

「ケイ君のこと、申し訳ありません……。俺の力が足りないばかりに、いつも助けて貰って、ケイ君に危険な場所で無理をさせてしまい……」
「ケイから事情は聞いています。神子様がそのように気に病まれる事はございません。謝罪をするならこちらの方です」

 今度はジェイが頭を下げる。

「……でも、俺は神子です。それなのに、ケイ君に今でも戦わせることになってしまって……」
「神子様は、ケイから聞いていた通りのお方ですね」

 ジェイはそっと目を細めた。

「おつらい想いをされたというのに、ケイを受け入れ、親身になっていただき、いくら感謝しても足りません。今後は私も微力ながら何かしらの形でお返し出来ればと常々考えておりました」

 ゆったりとした、誠実さを感じる声。男らしい眉が下がり、ケイと同じ年頃に見える風真を見つめた。


「……あの、では、ひとつお願いしても、いいですか?」

 お返しなんて、と思いながらも、お願いして良いならとごくりと喉を鳴らす。

「はい、何なりと」

 ジェイは真剣な顔で姿勢を正す。風真から願うなど、ユアンと騎士たちも神妙な顔をした。

「絶品だと噂されるジェイさんの定食を、食べてみたいです……」

 同じく真剣な声で告げる風真に、ジェイは目を丸くし、動きを止めた。

「……ジェイ。風真さんは謙虚な方なんです。それに素直な方なので、本心ですよ」
「だが……」
「風真さん。ハンバーグ定食と野菜炒め定食とオムライスが人気です」
「全部食べたい! ……です」

 テンションが上がってしまい、恥ずかしくなってコホンと咳払いをした。

「……確かに、私に出来る事などたかが知れております。得意な事といえば料理と狩り。神子様のために、喜んでお作りいたします」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」

 お返しをするはずが、風真に礼を言われてまた目を丸くする。ケイから聞いていた以上に優しい性格らしい。


「それなら、会うのは俺の屋敷でどうだろう? 厨房もあるし、材料もこちらで用意するよ。気兼ねなく話せると思うけど、どうかな?」
「いいんですかっ?」
「ああ、勿論。次の火曜にする?」

 トントン拍子で話が進み、ジェイだけが、火曜? と首を傾げていた。

「あっ、あの、ジェイも一緒に、風真さんとお茶をする約束を……。今月は火曜が休みなのでっ……。勝手に決めて、ごめんなさい……」
「ケイが自分で決めたのか。偉い偉い」
「わっ、ジェイっ」

 頭を撫で回され、顔を真っ赤にしてぱたぱたとジェイの手を払う。

(わぁ、可愛い~)

 今まで以上に可愛い。好きな人の前ではこうなるのかと微笑ましく見つめていると、風真もユアンに頭を撫でられた。

「あの……」
「羨ましがってるのかと」
「違います……」

 二人の前で、恥ずかしい。風真もほんのり頬を染めると、ケイたちも癒された顔をした。
 ケイからは「風真さん可愛い……」と小さな呟きが零れる。可愛いのは確実にケイだ。風真はキリッとして前を見据えた。


 ユアンが自分の屋敷の場所をジェイに伝えると、あの大きな……と呟いた。時間も決めて、ジェイはケイへと視線を向ける。

「帰ろうか」
「はい。っ……、ジェイっ、自分で歩けますっ」
「まだふらついてるだろ?」
「大丈夫ですっ、風真さんの前ですからっ」

 抱き上げられたケイは、イヤイヤと首を振り、ようやく下ろされる。安堵したケイに反して、ジェイは不満気な顔だ。

「ケイ君。……恋人ルートだよね?」
「はい……」

 この過保護でも、親子ルートではない。

「愛されてるね~」
「うぁっ、や、やめてくださいっ……」

 カァ、と苺のように顔を真っ赤にする。可愛いなぁと見つめていると、ユアンに腰を抱き寄せられた。ジェイもそっとケイの肩を抱く。
 仲良くなったのは喜ばしい事だが、目の前でイチャつかれると嫉妬してしまう。ジェイとユアンは視線を合わせ、通じるものを感じた。

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