135 / 270
ジェイとの出会い
しおりを挟むそれからしばらくして、ユアンが戻ってきた。
ジェイだという確認が取れた。規則で離れには来られないため、騎士団の建物の方にきて欲しいと言うと、ケイは慌ててベッドを下りる。
バランスを崩したケイを風真が支え、二人はハッとして互いを見つめた。
「細いっ、軽いっ……」
「風真さんっ、見た目よりしっかり筋肉が付いてますねっ?」
ケイのように細い相手が周囲にいない風真と、ジェイの逞しい筋肉しか知らないケイ。互いに新鮮な抱き心地に感動して、思わずぎゅっと抱きついた。
「フウマ?」
「わっ、ユアンさんっ」
「すみませんっ、ジェイのところにっ……」
「そうですっ、早くジェイさんのところにっ」
ユアンの笑顔の圧を感じた二人は、慌てて離れる。
「神子様。ケイ様は、私が」
「「お願いします!」」
風真とケイの声が重なる。ケイは騎士の差し出した手を取り、風真は動揺してユアンの手を握った。
「あっ、すみませ……」
「一生離さないよ」
「!?」
指を絡めて握り返され、風真はびくりと跳ねる。
だが、先程とは一変して嬉しそうな顔のユアンに、こんな顔をしてくれるならと、にぎにぎと手を握った。
・
・
・
「ケイ!」
「ジェイっ……!」
「無事で良かったっ」
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
二人は駆け寄り、しっかりと抱き合う。ごめんなさいと繰り返すケイの背を、宥めるように撫でた。
「いつも迷惑かけて、ごめんなさいっ……」
「迷惑じゃないさ。家族なんだからな」
(家族……)
ケイが初めて感じた、家族の暖かさ。ジェイの慈しみに溢れた声と、うっすらと涙の浮かぶ瞳に、ケイが主人公だから好きになったのではないと感じて、風真はそっと頬を緩めた。
「あのっ、この方が、風真さんです」
気持ちが落ち着いたケイは、頬を赤くして風真を紹介した。
「神子様。ご挨拶が遅れ申し訳ございません。ケイの保護者の、ジェイと申します」
「っ、初めまして、早川 風真といいますっ」
突然視線がこちらへ向き、風真は慌ててぺこりと頭を下げた。
「ケイ君のこと、申し訳ありません……。俺の力が足りないばかりに、いつも助けて貰って、ケイ君に危険な場所で無理をさせてしまい……」
「ケイから事情は聞いています。神子様がそのように気に病まれる事はございません。謝罪をするならこちらの方です」
今度はジェイが頭を下げる。
「……でも、俺は神子です。それなのに、ケイ君に今でも戦わせることになってしまって……」
「神子様は、ケイから聞いていた通りのお方ですね」
ジェイはそっと目を細めた。
「おつらい想いをされたというのに、ケイを受け入れ、親身になっていただき、いくら感謝しても足りません。今後は私も微力ながら何かしらの形でお返し出来ればと常々考えておりました」
ゆったりとした、誠実さを感じる声。男らしい眉が下がり、ケイと同じ年頃に見える風真を見つめた。
「……あの、では、ひとつお願いしても、いいですか?」
お返しなんて、と思いながらも、お願いして良いならとごくりと喉を鳴らす。
「はい、何なりと」
ジェイは真剣な顔で姿勢を正す。風真から願うなど、ユアンと騎士たちも神妙な顔をした。
「絶品だと噂されるジェイさんの定食を、食べてみたいです……」
同じく真剣な声で告げる風真に、ジェイは目を丸くし、動きを止めた。
「……ジェイ。風真さんは謙虚な方なんです。それに素直な方なので、本心ですよ」
「だが……」
「風真さん。ハンバーグ定食と野菜炒め定食とオムライスが人気です」
「全部食べたい! ……です」
テンションが上がってしまい、恥ずかしくなってコホンと咳払いをした。
「……確かに、私に出来る事などたかが知れております。得意な事といえば料理と狩り。神子様のために、喜んでお作りいたします」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
お返しをするはずが、風真に礼を言われてまた目を丸くする。ケイから聞いていた以上に優しい性格らしい。
「それなら、会うのは俺の屋敷でどうだろう? 厨房もあるし、材料もこちらで用意するよ。気兼ねなく話せると思うけど、どうかな?」
「いいんですかっ?」
「ああ、勿論。次の火曜にする?」
トントン拍子で話が進み、ジェイだけが、火曜? と首を傾げていた。
「あっ、あの、ジェイも一緒に、風真さんとお茶をする約束を……。今月は火曜が休みなのでっ……。勝手に決めて、ごめんなさい……」
「ケイが自分で決めたのか。偉い偉い」
「わっ、ジェイっ」
頭を撫で回され、顔を真っ赤にしてぱたぱたとジェイの手を払う。
(わぁ、可愛い~)
今まで以上に可愛い。好きな人の前ではこうなるのかと微笑ましく見つめていると、風真もユアンに頭を撫でられた。
「あの……」
「羨ましがってるのかと」
「違います……」
二人の前で、恥ずかしい。風真もほんのり頬を染めると、ケイたちも癒された顔をした。
ケイからは「風真さん可愛い……」と小さな呟きが零れる。可愛いのは確実にケイだ。風真はキリッとして前を見据えた。
ユアンが自分の屋敷の場所をジェイに伝えると、あの大きな……と呟いた。時間も決めて、ジェイはケイへと視線を向ける。
「帰ろうか」
「はい。っ……、ジェイっ、自分で歩けますっ」
「まだふらついてるだろ?」
「大丈夫ですっ、風真さんの前ですからっ」
抱き上げられたケイは、イヤイヤと首を振り、ようやく下ろされる。安堵したケイに反して、ジェイは不満気な顔だ。
「ケイ君。……恋人ルートだよね?」
「はい……」
この過保護でも、親子ルートではない。
「愛されてるね~」
「うぁっ、や、やめてくださいっ……」
カァ、と苺のように顔を真っ赤にする。可愛いなぁと見つめていると、ユアンに腰を抱き寄せられた。ジェイもそっとケイの肩を抱く。
仲良くなったのは喜ばしい事だが、目の前でイチャつかれると嫉妬してしまう。ジェイとユアンは視線を合わせ、通じるものを感じた。
26
お気に入りに追加
825
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる