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*そして三度目の摂取

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 二度目の体液摂取を終え、もごもごと口を動かす。やはり蜂蜜のような味だった。

「見え……見えそう~……、んん?」
「もう一度だな」
「ちょっと待、んぐッ」

(アール、そういうとこあるー!)

 次はアールの番だと、二回目の途中でユアンが言っていた。だからといって、早々に突っ込む奴があるか。風真ふうまはむぐむぐと文句を言う。

「んンッ、むぐっ、む……」

 だが不本意ながら、味は美味しい。こちらは洋梨のように上品で爽やかな甘さだ。
 こうなるとトキはどんな味か気になる。きっと桃のような優しい甘さだ。風邪の時にも食べるしな、と無理矢理自分を納得させた。トキのも舐めたいと言えば、この場でハッピーバッドエンドになりそうだから。


「んうぅッ!」

 突然全身に快感が走り、反らしそうになった頭をアールの手が押さえた。

(危なっ……噛み千切るかと思ったっ)

 口をいっぱいにされて力は入らないが、風真は血の気が引いた。
 トキの手が胸と下肢に触れ、どちらも強烈な刺激を与えられたのだ。

「フウマ……」
「う? うぐッ」

 今度は喉奥を突かれる。両手で頭を抱えられ、激しく腰を打ち付けられた。

(なんかスイッチ入った!?)

 密室の時と同じ。ここは密室ではないが、ユアンとの行為を見続けて、限界がきていたのだろう。
 当然だ。風真はぼんやりとした頭で考える。いくらアールから譲ったとはいえ、気分の良いものではなかったはずだ。


「アール!」

 ユアンの咎める声。

「んっ、んんぅッ」

 風真は大丈夫だと訴えるように、ぎゅっとアールの腰に抱きついた。

「神子君……?」

(大丈夫です、アールの好きにさせてあげたいです)

 伝われ、とアールの背を撫でる。ずっと我慢させたアールを褒めているのだと、必死のそれは、先にトキに伝わった。
 トキがユアンにそっと囁き、ユアンも眉間に皺を寄せながら、止めようとした手を下ろす。

「好きだ、フウマ……、お前が欲しい……」
「んンッ、んっ、ぅっ」

 喉奥を遠慮なしに突かれ、息が苦しい。それでも、あの冷静なアールがこんなになるほど求めてくれている事に、胸が締め付けられる。
 そのうちに咥内のモノがびくりと跳ね、熱い飛沫が喉奥にぶつけられた。
 飲み干しても、口から溢れる。アールの自身が抜かれた口に、零れた体液を掬った指が押し込まれた。

(甘い……)

 爽やかな味のそれを、ぴちゃぴちゃと舐める。こくりと喉を鳴らして飲み干すと、ようやく指は抜かれた。


「っ……、すまないっ」

 アールの焦った声が聞こえる。もう一度謝罪した声は、驚愕して、震えていた。

「ぁ……、アール……おれのこと、好きすぎ……」

 へたりと倒れ込み、アールの背から腕を離す。もう全身が限界だ。

「好きだ……。傷付けたくなかった……」
「傷付いてはない……。びっくりしたけど……」

 突然はやめて欲しい。ただそれだけ。背後からユアンに抱き起こされながら、風真はそっと息を吐く。

「アール、ごめん……」
「っ、お前が謝る事などっ」
「俺が考えなしだったせいだよ。アールには無理にでも外に出て貰うべきだった。見せたらいけないものだったのに……」
「神子君が俺と二人きりになる方が、アールには耐えられなかったと思うよ。これが最善の選択だったんだよ」

 トキも一緒にいたことで、自分は風真に選ばれなかったのだと錯覚することもなかった。

「謝罪するなら、私です。フウマさんの喘ぎ声がお二人を刺激する事は分かっていましたのに……」
「刺激された俺たちが悪いけど、それも神子君を愛するがゆえ、……という事でおしまいにしようか。今は治療の時間だからね」

 ユアンは眉を下げ、風真の頬を撫でた。


「……見えるか?」
「見え、……待ってよ、待って、見えそう~、絶対見える~」

 沈んだ雰囲気を変えようと、風真はおどけた言い方をする。
 それに、次の摂取はまだ待って欲しい。甘い味がいっぱいいっぱいになってきた。
 ふと肉まん味になったりもするのだろうかと考えるが、それだとうっかり噛んでしまいそうで怖い。

「み……、み……」
「……可愛いな」
「可愛いね」
「愛らしい鳴き声ですね」
「鳴き声じゃないですっ」
「神子君、ワンッて鳴いて?」
「絶対鳴きません!」

 前回身の危険を感じた事はまだ忘れていない。あれは本気でゾクリとさせられた。

 風真はジッと前を見据える。するとじわじわと灰色の視界が白になり、徐々に霧が晴れて輪郭を持ち始めた。


「見え~……見えた!」

 すっきりと晴れた視界。目の前には、アールがいた。

「あれ? 俺の部屋じゃない」

 何もない部屋。すぐに気付き、風真は目を瞬かせる。

「神子の部屋は許可がなければ開かない。ここは私の部屋だ」
「アールの……、……ほんとだっ、シーツ!」

 脚に触れる肌触り。何故今まで気付かなかったのだろう。

「このシーツだからぐっすりだったのかもなぁ。体力すごい回復した感じあるし……って、夕方じゃん!」

 窓から射し込む光が朱く、風真は絶句する。魔物が現れたのは早朝。一体何時間眠っていたのか。

「えっ、ケイ君、行方不明で心配されてるんじゃ……」
「まだ遅い時間ではないだろう?」
「そうだけど、あの森まで送ってくれた人がいるんだよ」
「そういえば、馬の蹄の音がしたな」
「ケイ君のとこに行かなきゃっ」

 風真はベッドから降りようとするが、背後から抱きしめるユアンに止められる。

「神子君はまだ病み上がりだから、俺が運ぶよ」
「疲れて寝てただけですからっ」
「まだ駄目だよ」

 ぴしゃりと言い切られ、風真は口を噤んだ。
 ユアンの眉間には僅かに皺が寄っている。それが、風真に無理をさせた事に対するものか、他の何かに対するものかは、訊けなかった。

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