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邪気満タン

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 風真ふうまが目を覚ましたのは、陽も傾きかけた頃だった。

「フウマ!」
「神子君!」

 アールとユアンの声が聞こえる。良かった、と泣きそうな二人の声。両手を握られている事に気付き、暖かいなとまた目を閉じた。
 ぼんやりした意識の中で、あの後すぐに眠ってしまったのだと思い出す。


「ケイ君、は……」
「別室で寝ている。ただ眠っているだけだ。心配ない」
「そっか、良かった……。騎士のみなさんの怪我は……」
「君のおかげで全員軽傷だよ。……ありがとう、神子君」

 両手で風真の手を握り、泣きそうな声を零す。

「俺、ちゃんと護れたんですね……。でもユアンさんは後で話があります」
「ああ。どんな叱責でも罰でも甘んじて受けるよ」

 じっくり言い聞かせますから、と付け加える風真に、ユアンは目を瞬かせてから、嬉しそうに笑った。

「目覚めて最初に皆様のご心配をされるところが、フウマさんらしいですね」
「一番気になることですし、……あれ?」

 目を開け、風真はぱちぱちと瞬きをする。
 三人の声がして、三人とも元気で、すぐ傍にいる。それは分かるのだが。
 風真は体を起こし、ごしごしと目を擦った。

「フウマさん?」

 トキの心配する声は、すぐ傍だ。

(ん、うあー……まあ、当然だよなぁ……)

 目の前で手を開いたり閉じたりして、ガクリと項垂れた。


「邪気、キャパオーバーしたみたいです……」

 寝ぼけているだけかと思ったが、この視界の悪さは邪気満タンの合図だ。声の方に向かって苦笑してみせると、三人は顔色を変えた。

「どのくらい見えていますか?」
「トキさんの顔も全然見えないです。いつもは視界が白いんですけど、今は薄暗くて……声を聞いてなかったら、ちょっと怖かったです」

 みんながいて良かった、とへらりと笑う。

「神子……」
「ごめん、神子君……。俺が至らないせいで……」
「ユアンさんは人間最強くらい至ってますから。ドラゴンを剣一本で倒すとか物語の勇者しか知りませんでしたよ」
「神子君……」

 ぎゅっと手を握られ、風真もその手を握り返す。

「アールも心配ありがとな。目は治るのが分かってるんだし、大丈夫だって」
「だが……、……心配は、する」
「大丈夫だって~。アールって実はすごい心配性だよな」

 きっと今は、しょんぼりとした顔をしているのだろう。これ以上心配させないよう、明るく笑ってみせた。

「お二人とも。フウマさんに気を遣わせてどうするのですか」
「へへ、トキさんもありがとうございます。みんなが俺を大事にしてくれてるの、嬉しいです」
「フウマさん……」

 トキは感極まり、風真をそっと抱きしめた。


(目が見えなくても、体温感じるとすごい安心する……)

 優しく抱きしめられ、しっかりと手を繋がれて、皆がいてくれると感じると何も怖くない。

 すっかり安心しきって頬を緩める風真に、三人は胸が締め付けられる心地がした。目が見えないなど、もし治らなかったらと考えない訳ではないはずだ。
 アールとトキは顔を見合わせ、頷いた。

「神子の治療だが、ユアンに譲る」
「アール?」

 ユアンが驚いた声を出す。

「前線で命を懸けて戦ったのはお前だ。フウマを守った、お前に譲る」
「でも、神子君を守りたい気持ちに優劣はないだろ? みんなで……」
「ユアン様。それではになりますよ」

 トキの淡々とした声。アールとユアンはふとその画を想像してしまった。
 風真が、三人のモノから出るを飲まされる光景。卑猥なものに囲まれ、顔も髪も白濁だらけになる風真を想像して、アールとユアンはそっと前屈みになった。


(無言でも、三人の顔が想像できるもんだな)

 きっと自分のえっちな姿を想像したのだろう。そう気付けたのは、風真がこの世界にきて一番成長した部分だ。

(みんなではちょっとなぁ……、っトキさんごめんなさい……)

 どれが誰のものか当てて貰いましょうか、などと言い出すトキを想像してしまい、風真は申し訳なさにぷるぷると頭を振った。

「フウマさん? どうされました?」
「えっ、いえっ、ええっと、なんの話でしたっけっ?」

 後ろめたさで、聞いていなかったふりをする。苦しかったかと笑って誤魔化す風真の頬を、トキの手がするりと撫でた。


「フウマさんは、ユアン様のお薬、零さず飲めますか?」

(言い方と声が、なんか……)

「トキ、それはわざと?」
「何の事でしょう?」
「わざとか」

 アールとユアンは呆れた溜め息をついた。

「神子の意見を聞いていなかったな。薬はユアンで良いか?」
「……うん。怒るのは後にする。薬もだけど……あんな怖い魔物と戦って、俺を護ってくれたお礼をしたいよ」
「……礼か」
「これがお礼なんて、神子君はえっちだね」
「王宮イチえっちな人に言われたくないです」

 頬を膨らませる風真に、ユアンはそっと目を細める。こんな状況でも、他者を思いやれる。神子らしくて、風真らしい、愛しい子だ。

「すぐに治してあげるからね」

 早くこんな状態、治してあげたい。風真の頬を撫で、ユアンはベッドに乗り上げる。
 すぐ近くで聞こえる小さな金属音に、風真は以前の事を思い出してしまい、目元を染めて視線を落とした。

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