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討伐クエスト5

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 数日後の早朝。風真ふうまは討伐要請で目を覚ました。

「分かってたっ。最後はドラゴンだよなっ」

 到着すると、ユアンと騎士たちが魔物と戦っていた。
 罠は既に壊されている。地に倒れた魔物の死骸。疲労の激しい騎士たち。数メートルある魔物の首や翼を、ユアンも汗を散らしながら攻撃し続けている。また一体倒れ、死骸が積み上がった。

「神子君っ? くそっ、誰が呼んだんだっ……」

 ユアンの眉間に皺が寄る。いつになく荒い口調に、風真は呼ばれなかった理由を察した。

「ユアンさん、これはドラゴンです! めちゃくちゃやばい魔物なので俺の出番ですよ!」

 危険で数も多いからこそ呼びたくなかったのだろうと、分かっている。大事に想ってくれる気持ちは嬉しい。
 だが、いくらユアンが強くとも、これは隊長として重大な判断ミスだ。

「理由は分かってますっ。でも俺を呼ばなかったこと、後で怒りますからね!」
「神子君……」
「めちゃくちゃ怒ってるので、ひとまずこっち来てください! みなさんも結界の中に、早く!」

 風真の声に、騎士たちは命令と判断して森の方へと走る。副隊長もユアンを連れ、結界の中へと退いた。


(よしっ、祈りを選択!)

 すぐさまメッセージウィンドウから選ぶと、近くの魔物が光に包まれて消えた。

(ドラゴンにもちゃんと効く! ……ん? ドラゴン? なんか、違うような……)

 空を見上げ、風真は怪訝な顔をする。
 だが、空を飛ぶ大きな翼と、爬虫類の鱗と瞳、鋭い爪もある。濃い緑の魔物は、確かに風真の記憶の中のドラゴンだった。
 ひとまずドラゴンだと思う事にして、また一体浄化する。

(結界って空まであるんだ)

 森の上まで飛んで来られない。見上げた先で、バチッと結界が火花を散らした。
 そこに、赤と藍色の魔物も現れる。

(色違いのドラゴン?)

「赤と青……って! 火や毒を吐くかもしれませんっ、みなさんは下がっていてください!」

 咄嗟に声を上げる。
 ドラゴンなら、火や毒を吐き、翼で突風を起こす。それが結界を抜けないとも限らない。体は弾いても、爪で結界に穴を空けられるかもしれない。

(普通の祈りじゃ足りないのにっ……)

 赤の魔物が吐いた炎は、結界に届く前に本体ごと光に包まれて消えた。
 だが背後から現れた青の魔物が、どす黒い液体を吐く。それは煙を上げながら結界を滑り落ち、地に着く前に塵になった。

「あれが、毒……」
「炎も……」

 騎士たちがざわつく。討伐していた時には緑の魔物だけだった。もし赤と青がいたらと思うと、戦い慣れた彼らでさえ背筋が凍る。
 それは風真も同じだ。赤と青が増える前に到着出来て良かったと安堵した。


(炎、毒、緑は風? 倒すのはやっぱり炎と毒から……)

 浄化を続けている間に、あっという間に空を覆い尽くす数になった。

「そんな……」
「こんな数、さすがに神子様でも……」

 背後で、騎士たちの動揺する声が聞こえる。

「っ……」
「ユアンさん! 怒りますよ!」

 結界の外へ駆け出そうとするユアンを、大声で怒鳴った。同時に副隊長がユアンの腕を掴み、騎士たちが羽交い締めにする。

「みなさん、ありがとうございます。そのまま捕まえて離さないでください」

 いつもの笑顔もなく、静かに、けれど強い口調で紡いだ。
 今まで見た事のない風真の姿。神子の貫禄に、覚悟に、ユアンも騎士たちも口を噤む。
 そんな顔をさせたくなかった。護りたかったのに。ユアンは俯き、きつく唇を噛みしめた。


 風真は画面を見つめる。選択出来るのは“祈り”しかない。

(それでも、俺がやらなきゃ)

 こんな数の中で結界から出れば、怪我だけでは済まない。弓兵が攻撃しているが、命中しても致命傷には至らなかった。それなら、神子の力以外に武器はない。

(っ……出たっ、連なる祈りを選択!)

 突然画面に増えた選択肢を選ぶ。すると三体の魔物が一度に光に包まれた。
 もう一度、と何度も選ぶ。数は徐々に減り始める。それでも空にも地にもまだ魔物が蔓延っていた。


「神子……」

 アールは血が滲むほどに拳を握り、風真を止めてしまいたい衝動を抑える。だがすぐに息を吐き、「その調子だ」と苦しげに呟いた。
 トキは負傷者の治療をしながら、風真に何かあればすぐに駆け付けられるよう、神経を研ぎ澄ませた。

(……大丈夫、体力も知力も90越えてるし)

 頑張れば、全部倒せる。大丈夫だと、己に言い聞かせる。
 ユアンも冷静さを取り戻し、弓兵に指示を与え始めた。

 魔物の脚が止まり、翼が破れ、地に落ちる。致命傷を与えられないならせめて、動きを止める。結界に辿り着くまでの時間稼ぎだ。
 上空の魔物が風真の納得する数まで減れば、落ちた魔物のとどめを刺しに出るつもりだ。それは、風真の体力が尽きた時に備えるものでもあった。
 袖で汗を拭う風真は、今までの討伐とは比にならないほど消耗が早い。万が一の時は出る。ユアンは副隊長に視線で告げた。



 その時、背後から馬の音が聞こえた。馬が止まり、木々の間から人陰がこちらへと向かってくる。

「風真さんっ、赤をお願いします!」
「ケイ君っ?」
「僕の炎は赤には効きませんっ、緑ももしかすると……ですが毒の青なら僕にも倒せるはずですっ」

 赤は火の耐性があり、緑は突風で消される可能性がある。だが水ではない、毒なら炎が通じる。

「分かった! 青、お願いします!」

 隣へ駆けて来たケイに答えると、画面に“捧げる祈り”が現れた。
 捧げる? と眉を寄せながらも、風真はそれを選ぶ。すると手は胸の前で組まれるが目は閉じず、数体の魔物がくっきりと浮かび上がった。

(捧げる……、討伐対象を選べるのかっ)

 それなら赤、と意識を向けると、赤い魔物だけが六体浮かび上がった。

『ギョアァァ!!』

 六体の魔物が同時に叫び声を上げ、溶けるように消える。

「もう一回っ……」

 最も多い赤を倒せば、随分と楽になるはず。ケイも青を狙いやすくなる。もう一回、と青に近い赤い魔物から浄化を続けた。

「風真さん、すごい……」

 みるみる赤い魔物が減っていく。ケイも前を見据え、大きな火球を作り青い魔物にぶつけた。


「神子とケイの連携は素晴らしいな」
「そうですね……」

 ケイが来た事で、風真の負担が格段に減っている。アールとトキはそっと息を吐いた。

「俺は、無力だな……」

 ユアンが悔しげに呟く。

「無力な者が、あれほどの死骸を積み上げる事が出来るか?」
「あのような魔物を倒せる者は、世界でもどれほどいるでしょうね」
「この場で無力な者は、……私だ」
「私もですよ、殿下。戦えない私たちがどれほど悔しいか……」

 魔物の数を減らす事も出来ず、風真を送り出すしか出来ない。悔しげな顔をするアールとトキに、ユアンは戸惑う。そんな気持ちでいつもこの場にいたのかと。
 剣を握り締め、そっと視線を落とした。

「だが例え私たちが戦えたとしても、……今回ばかりは、人智を越えた力に頼るしかない」

 飛び回る魔物を見上げ、眉間に皺を寄せた。

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