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肖像画2
しおりを挟む「あれ? なんか……王様って、今とあんまり変わらない?」
幼いアールやロイと一緒に描かれている顔と、大人のアールと描かれている顔、そしてここへ来た頃に会った王の顔は、あまり差がなかった。
貫禄はこの絵よりもあったが、顔自体はそこまで変わらない。
「ってか、王様って何歳?」
三十代前半くらいだと思っていたが、それではアールは十歳前後での子という事になる。
「四十八だ」
「よんっ……」
「王族にしては遅い結婚だったからな」
アールの声を聞きながら、風真はしきりに絵を見比べた。
「何を驚いている? 母上も、この絵とそう変わらないぞ」
「はっ? 十代じゃん!?」
「母の前で言ってくれ。喜ぶ」
「言いたいけどっ、待って、俺の世界と色々違うっ……」
同じ年代は、近所にも学校の教師にもいたので分かる。
(これが、二次元補正……)
ここはゲームの世界なのだと、こんなところでも実感した。
「王族は老化が遅い方ではあるが、王族以外も成人から三十年ほどはそう変わらない」
「え……ええっ……」
「お前の世界は、たった三十年で変わるのか?」
「うん……」
「そのように短期間で老化していては、労働力が不足するだろう? 農耕や力仕事はどうしている?」
「……みんな、頑張ってる……?」
近所に住んでいた老夫婦は、足腰が痛いと言いながらも頑張って畑に出ていた。
職員室にプリントを提出に行った時には学校の担任が、疲れが取れないと笑いながら栄養ドリンクを飲んでいた。
君たちくらいの頃はそんな事なかったのに。
良く聞く言葉だった。確かに身体が若いままなら、労働は格段に楽になるだろう。
「あれ……でも、騎士のみなさんはそれなりに渋い人たちもいた……」
「若くから貫禄のある者もいるが、第一部隊には六十や七十の者もいると聞いている」
「七っ……いや、俺の世界基準で考えたら駄目だ……」
三十年変わらないなら、彼らが七十代でもおかしくはない。
「……この世界の平均寿命って、どのくらい?」
「国によって変わる。この国では、百二十前後だ」
「あ、それはそんなに変わらない」
四十ほど変わるのだが、もしかして二百歳くらい? と思っていた風真からしたら、それすらも誤差に思えた。
「じゃあ、アールが渋い感じになるのもずっと先かぁ」
「……渋い男が好きか?」
「そうじゃなくて、アールはおじいちゃんになってもイケメンなんだろうなって」
「そんな歳まで一緒にいる覚悟を決めているのか……」
「違っ、いや、違わないけどさ」
アールだけでなく、出来れば皆とずっと一緒にいたいと思っている。だがそれは、叶うのだろうか。
「……てことは、俺だけ先におじいちゃんになるんだよな……」
「歴代の神子でも、そのような話は聞いた事がないが?」
「へ?」
「老化が早いなら、記述に残るはずだ。王と結婚した神子の話では、神子が王の最期を看取ったものもある」
「え……でも、そんなことある……?」
「それは直接神に訊いてみろ。だが、老化は早くないと記述が示している。私が悲しんでいないのがその証拠だ」
風真が先に天寿を全うするなら、こんなにも落ち着いてはいられない。
神子の記述は全て読んだ。力の使い過ぎで衰弱して亡くなった高齢の神子はいたが、老化が早まったり、元から早いという記述はどこにもない。
「そ、っか……」
アールは、嘘をつかない。それでも、自分が今までの神子と同じだとは限らない。元々は、神子ではないのだ。
(……俺の身体って、この世界の人たちと同じ寿命になってる?)
頭の中で問いかけてみても、答えは返らない。
(アールたちより先に、歳取る?)
それでも答えはなかった。
じわりと視界が滲む。平均年齢で考えれば、アールたちより四十年先に死んでしまう。先に老化する事などどうでも良いほどに、その事が悲しかった。
「……やっぱり俺、先におじいちゃんになるかも」
――老化速度は王族の平均より遅くなります。
「えっ?」
――祈りは体力を消費する為、身体維持機能が備わっています。
「すごっ……」
「神子?」
(ん? 力使いすぎたら寿命短くなるとか、ないよな?)
――極度の過労は命を縮めます。
(それはそうだよなぁ)
――適度の使用と、適度な休憩と睡眠をお勧めします。
(ヘルスケアアプリみたいだな……)
そのうち座りっぱなしアラーム機能なども付くのでは。アールたちだけでなく、システムにまで健康管理されて複雑な気分になる。ありがたくはあるが。
(健康に気を付けたら、これからあと百年生きられる?)
――可能です。
(……なんだ、喋らなくても答えてくれるじゃん)
安堵した途端、ぼろ、と涙が零れ落ちた。
「っ、どうしたっ?」
「へへ……俺、みんなと一緒に歳取れるって。良かったぁ……」
「……神と話したのか」
「うん」
最初は姉の声が神の声だったが、今ではシステムも神のように答えてくれる。ゲームの流れが変わり、今までの情報では足りなくなったからだろうかと風真は推測した。
「そんなにも簡単に話せるのか……?」
「答えてくれない時もあるけどな」
「そうか……。やはりお前は、神に愛されし神子なのだな。……妬ましいが、お前を悲しませずに済んだ事に感謝しなければ」
「アール、眉間のシワすごいって」
相手は神様だから、と額をつついて笑った。
安堵すると涙もすぐに止まり、袖で雫を拭う。
一緒に生きられる事が嬉しくてへらりと笑うと、アールも綺麗な笑みを見せた。
そしてそっと風真の手を取り、何だろうと思っている間に、手の甲にキスをされる。
「っ……」
続く言葉はない。それでも、同じ時を生きられる事が嬉しい、そんな気持ちが、重なる瞳から伝わってきた。
アールの気持ちが嬉しい。また熱くなる頬。それでも視線を逸らせず見つめていると、ますます愛しげに瞳が細められた。
(王子様か……、王子様だった……)
この表情、手の甲にキス、アールの王族レベルがぐんぐん上がっていく。
アールの手が頬に触れ、風真は咄嗟にその手首を掴んでいた。
「そっ、そういえばっ……離れの部屋には何もなかったけど、こっちに色々飾ってたんだなっ」
思いついた話題をすぐさま口にする。これは地雷を踏んでいない。風真は胸を撫で下ろした。
アールとしては良い雰囲気を壊されたのだが、顔を真っ赤にして慌てる風真はただただ愛しかった。
「お前を呼ぶと決まってから、倉庫から出してきた」
「倉庫?」
「家族の絵を飾るなど、私がすると思うか?」
「えっ、いや、それもそうか……」
申し訳ないが、納得してしまう。
「でも、ご両親と仲が悪いとかじゃなさそうで良かったよ」
「仲は……良い方だろうな。だが、わざわざ部屋でまで親の顔を見たいとは思わない」
「それもそっか」
風真も両親が大好きだったが、家族写真を部屋に置いたのは、亡くなって数年してからが初めてだった。
生きている頃に大きく引き伸ばした写真を自分の部屋に飾りたいかと言われたら、飾りたくないと答えただろう。一番の理由は、思春期男子の部屋に親の視線は、色々と気まずい。
「アール、ご両親のこと好きなんだな」
「……そうだな。良い両親だと思う」
肖像画を見つめる表情は変わらない。だが、その瞳は優しかった。
「家族というものを意識したのは、お前に出逢ってからだ。それまでは、王と王妃として考えていた部分が大きい。だが両親は、私に子としての愛情を注いでくれていた……のだと、思う」
愛情というものを意識したのも、風真に出逢ってからだ。
「今まで必要最低限の会話のみだった私が、離れでの暮らしを話した時には、泣かれた」
「えっ、泣かれたんだ?」
「ああ。お前との生活が楽しいと話した時には、二人ともバスタオルが必要なほどに号泣していたな」
「そっかぁ、いいご両親だな」
「……私もそう思う」
そう同意出来る日が来るとは。アールはそっと笑みを零した。
風真の言う、暖かい家族。それを知るのはアールだけだとユアンは言った。今なら、確かに知っていると心から言い切れる。
「王様とは話したことあるけど、もっとちゃんと話したいな。王妃様にも会ってみたいし」
「二人が視察から戻ったら伝えよう。私も、フウマを将来の伴侶だと紹介したい」
「ンッ……」
「それまでに、私を選ばせてやる」
ふっと笑みを浮かべ、風真の頬を撫でた。
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