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談話室にて2

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「今のは絶好のツッコミどころだったんだよ……。それにさ、アールがそんなに誰かを気に入るとか、それで笑うとか初めてで、ちょっとモヤッとしただけで……」

 その暖かさが、優しさが、自分以外にも向けられていた。その事にモヤモヤと。

「…………ん? あれ? これって嫉妬?」
「神子君、大丈夫。それは嫉妬じゃないよ」
「ユアン。神子の成長を邪魔するな」
「神子君はそのままでいいんだよ。恋愛はまだ早いからね」
「どの口が言っている?」

 アールは呆れた溜め息をつき、風真ふうまへと向き直る。

「今までなら、私が進んで交流するようになったと喜んでいただろう?」
「……確かに」
「親しい者が出来て良かった、少し話せば本当は優しいと分かって貰えると思っていたと、自分の事のように嬉しそうに話していただろう?」
「そう、だよな」
「私が神子以外の誰かを気に入り、神子の事以外で笑う事が気に食わないなら、立派な嫉妬だ」

 アールはそう言い切った。

「私に恋愛経験はないが、専門書で学んだ事だ。間違いない」

(専門……あっ、恋愛小説か)

 すぐに思い当たり、テンプレのような嫉妬をしたのかと恥ずかしくなる。アールが読んだものはきっと、男同士の本。それなら嫉妬だと納得させられた。


「嫉妬なら、俺にもしてくれたけどね」

 羞恥で熱くなりパタパタと手で顔を扇ぐと、ユアンの不機嫌な声が聞こえた。

「嫉妬されたからって、アールを選んだわけじゃないから」

 不機嫌というより、拗ねた声。アールは目を丸くし、トキは、風真の事になるとユアンはこうなるのかと愉しげに見つめる。
 二人の反応にユアンも気付いたのか、ばつの悪い顔をして立ち上がった。

「神子君、何度でも言うよ。俺は死ぬまで君を愛し続けるから、俺の家族になって欲しい」

 風真の前に跪き、手を取る。

「君と家族になりたい。君を必ず幸せに、……一緒に、幸せになろう」
「っ……」

 風真の望む、幸せ。ユアンは覚えていた。触れる手の暖かさに、思わずユアンを見つめる。


「させるか」

 その手を引き離す事はせず、風真の目元を手のひらで覆う。

「私の神子で、私のフウマだ」
「神子君は俺のだよ」
「私のだ」
「いつかと同じ言い争いをされていますね?」
「「喧嘩はしてない!」」

 トキの手が風真の肩に触れ、アールとユアンは慌てて返した。

「ぷはっ、すごい息ぴったりっ」

 つい吹き出してしまう。

「声だけ聞いたらちょっと似てるし。やっぱり従兄弟なんだなぁ」

 視界を塞がれて気付いた。顔立ちもどこか似た雰囲気のある二人は、声の雰囲気もどことなく似ていた。

「……似ているか?」
「神子君が言うなら、そうかもね」
「解せないが、神子が笑ったのだから良いか」

 目元を覆っていた手を離し、風真の頭を撫でた。


「フウマ。先程の事を誤解しないよう言っておくが、彼らに優しくした訳ではない。笑いもしない私を、特に気にしないだけだ」
「そっか。……それは余計に貴重な人たちだよな。アールがいい人たちと仲良くなれて良かったよ」
「そう言われたら言われたで、気に入らないな」
「どうしろと」

 反射的に返した風真に、アールは小さく笑った。

「大多数と接し、気に入る者も出来た。それでも私はお前以外に心を動かされる事はないと証明出来た。安心して私を選べ」

 堂々とした態度のアールに、風真も笑う。やはりアールは優しくなっても堂々としているのが良く似合う。

「私もフウマさん以外に目移りなど、神に誓って致しません。安心してくださいね?」
「トキ、急に主張しない」
「あわよくば、とは常に思っていますので」

 トキはさらりと言い放った。


「あ、え、えっと、そうだ、子爵令息さんは家と仲悪いんだよな? 令嬢さん大丈夫?」

 令息さん。令嬢さん。
 三人はぼそりと呟く。風真が呼ぶと人の名のようで、大層可愛く聞こえた。

「ああ。伯爵は、一人娘の結婚相手には身分の高い者をと考えていたそうだが、令息の聡明さと人柄の良さをいたく気に入り、伯爵家の後継者として迎える事にしたそうだ」

 一瞬の間の後、アールは淡々と答える。

「その子爵家には、伯爵家に手を出す度胸はない。今後は細々とした親族の縁を繋ぐだけで済むだろう。伯爵としては良い後継者を迎えられ、令息と令嬢は互いに慕い合っている。……これほど達成感のある仕事は初めてだ」
「アール、優しすぎる……」

 このままでは夜会で毎回キューピッドをしてしまうのでは。
 だが、それで良い人物同士の縁を繋げられるのは、国としても良い事かもしれない。特に貴族の縁は、国民にも影響のあるものだ。

「お前に似た雰囲気を持つ者は皆、後ろ暗い事がなく真っ直ぐで、芯が強い」

 そっと目を細められ、間近で見つめられてどきりとした。


「身分に関わらず話して回るなど、まだ王太子だからこそ出来た仕事だ。王になれば、思う通りには動けなくなる。……こうして過ごす時間も、貴重なものになるのだろうな」
「そっか。気軽に街に遊びにも行けなくなるんだよな。……お忍びでこっそり、なら行けるかな?」

 以前のように店に入りフードを取らなければ、少しなら大丈夫かもしれない。風真は真剣な顔で言う。

「てか、王様になったら俺がアールに会いに行くよ。神子なら顔パスだろ?」

 ニッと笑った。

「お前は、私が王となっても態度が変わりそうにないな」
「ないない。俺にとってはアールはアールだし」
「そうか。ならば、私が平民になったらどうだ?」
「アールは平民の暮らしできなそうだし、俺が一緒にいてやんなきゃな」
「王族ではない私でも、傍にいてくれるのか?」
「当たり前だろ? そもそも俺、最初から身分とか気にしてなかったし」
「そうだったな」

 ふっと頬を緩め、風真の頬を撫でる。


「私は良い王になると思うか?」
「うん、思うよ」
「いい雰囲気のところ悪いけど、俺もそう思うよ?」
「私もです。殿下はすっかり変わられましたから」

 ユアンは風真の両手を取り、トキは太腿に触れる。

「ふひゃっ、トキさんくすぐったいですっ」
「ああ、すみません。お二人が触れていない場所がこちらしかなく」
「ありますよっ、肩とかっ」
「ふふ、肩を抱いて欲しいのですか?」
「誘導尋問!」
「トキ……」
「本気になられたらユアンより厄介だな」

 二人は苦笑しながらも、風真を取られまいと各々の場所を確保し、しっかりと掴まえた。

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