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「キスと挿入は、恋人と……だったな」

 己に言い聞かせるように呟く。

「出した物を飲んで貰うが、薬と思って耐えてくれ」

 薬? と風真ふうまは首を傾げる。だが小さな金属音に、そういう事かと察した。

「迷惑かけるんだし、俺がするよ」

 トキに注意されたばかりだと思い出したものの、ユアンにして、アールにしないのは申し訳ない。
 迷いなく上体を倒し、手探りでアールの脚を掴む。その中心に慎重に手を動かし、を見つけ出した。


(お、おおう……、王太子様も結構なモノをお持ちで……)

 さすがえっちなゲームの攻略対象。男らしさが詰め込まれている。
 いいな、と思いながら形を確かめ、大きく口を開ける。すると肩を掴まれ、力いっぱいに引き離された。

「っ……まさか、ユアンにも……?」
「へ? ……あっ、ええっと、下からの摂取はさすがに駄目だしさ、キスとか血を貰うのも駄目ってなったら、これしか……」

 語尾が消えていく。躊躇いもせず咥えようとすれば、それはこういう反応になる。

「……ごめん」
「何に対する謝罪だ?」
「一番は、ユアンさんにしたの黙ってたこと……。それと、前も目がこうなったことと、アールに断りもなく大事なものを口に入れようとしたことに、ごめんなさい」

 ゲームのアールが口に突っ込んできたとはいえ、今のアールは横暴さもない。苛立ってもいない。もしかしたら、口でされるのは嫌なのでは。
 見えない目でおずおずと見上げる。

「お前は……」

 ぽつりと呟く声。髪に触れられる感覚に、風真はびくりと震えた。


「何でも口にするなと言っただろう?」
「へ?」
「粉薬は嫌がるくせに、これは平気なのか」
「え、いや、平気ってわけじゃ」
「仕方ないな。私の手で食べさせてやる。ほら、口を開けろ」

(なんかアール、キャラ変わったな……)

 言い方もそうだが、声が愉しそうだ。視界がゼロで声だけ聞いていると、甘い乙女ゲームのワンシーンのよう。

(口にくっついてんの、乙女ゲー絶対NGのやつだけど)

 食べさせられるのは甘いお菓子ではなく、決して登場させてはいけないアレだ。

「どうした? 私のものは食べられないか?」

 不機嫌な声と共に、ぐいぐいと押し付けられる。甘くされるよりこちら方が落ち着くなと思いつつ、少し体を離し口を開いた。

「ちょっと心の準備し、んぐっ」

 口を開けた途端、無理矢理押し込まれる。まさかの、ここで序盤のフラグ回収。

(姉ちゃん、絶対回収出来るスチルって言ってたもんな!)

 見下ろすアールの顔は、残念ながら見えない。後頭部を掴まれ、そのまま奥まで押し込まれるかと身構える。


「っ……、ん?」

 だが、衝撃は訪れなかった。むしろ軽く抜かれ、先端だけ咥えた状態。

「これに抵抗はないか?」
「う……、ん」

 平気、と答えるように舌を這わせた。
 アールが我慢した。スチル回収は、一瞬の絵だけで終わったのかもしれない。
 もう二度と傷付けないと言ったアールの言葉が蘇り、約束を守ってくれた事に嬉しくなった。

(頭撫でてくれるのも、嬉しいな)

 褒められているようで、この不思議な味でも頑張って咥えていられる。
 まさか、人生で二度も男性のを口に入れる事になるとは。

 最初のユアンの時より頭が冷静で、人肌の感触や体温を、しっかりと感じてしまう。生きているものを口の中に入れる事は、恐ろしいと知った。
 例えるなら、まだ柔らかい仔犬の手を口に入れるような、歯を立てれば傷付いてしまう弱々しさが、……怖い。

(傷付けないように……ん?)

「ん、む……」

 仔犬と言うにはふてぶてしいモノは、口の中であっさりと芯を持った。固くて、熱い。時折ビクリと震えるモノ。
 これなら平気そう、と早々に仔犬から大蛇へと認識を改めた風真は、本格的に口と手を動かした。



(……まあ、そうだよな。やっぱ遅いのがかっこいいよな)

 それから数分。もごもごと舌を這わせても、手で擦っても、なかなか達しない。
 最近では掴まったら即死レベルに早くなってしまった風真は、つい比べてしまい切なくなった。
 男として、この刺激に耐えられる体は心底羨ましい。上から聞こえるのは、せいぜい吐息だ。

(俺が下手なの?)

 ちらりと上目遣いで窺う。目は見えないが、アールの視線を感じた気がした。

「んん~っ」
「っ、咥えたまま喋るなっ……」

 見んな、と言ってみた。するとますます膨張して、先端からとろりと液体が溢れる。
 アールが、感じてくれている。嬉しくなった風真は、ちらちらと見上げては懸命に舌を動かした。

 上目遣いに見上げられ、アールとしてはたまったものではない。口をいっぱいにして、気持ち良いかと窺ってくる。焦点は合っていないくせに、しっかりと視線が合うのだ。
 風真が、己の一部を口にしている。懸命に奉仕している。この時間が、光景が、永遠に続けばと……そう願っても、こんな光景、煽られないわけがない。

「っ……」

 じゅ、と吸い上げられ、堪えきれずに風真の頭を掴んだ。

「うっ、んンッ……!」

 戸惑う風真の喉奥まで突き、精を吐き出す。
 無理矢理注がれ、苦しげに歪む顔。それすらも愛しく、決して忘れないようにと目に焼き付ける。
 ……本当は、快楽に耽る顔を見たかった。自ら望んで抱かれる姿を。

「っは、うぇ……」

 自身を抜くと、風真の口からぽたりと白い液体が零れた。

「出すな」
「んぐっ……」
「これは薬だ。飲み干せ」

 顎を掴み閉じさせ、吐き出せないよう口を覆う。

「んぅっ、んっ、んぐっ」

 風真は息苦しさに呻き、生理的な涙を零しながら喉を動かす。全て飲み干すまで、手を離してくれない。そう分かっているからこそ、必死で飲み込んだ。


 全て飲み下し、ぐいぐいとアールの服を引っ張る。
 解放されると一気に酸素が流れ込み、盛大に咽せてしまった。

「っ、すまない」

 アールはハッと我に返る。
 量が足りず、治らないのではという焦りから、無理矢理口を覆ってしまった。泣かせて、しまった。
 震える手で、咳き込む風真の背をそっと撫でると、またパタパタと涙が落ちる。

「うえ……、全部飲めたぁ……」

 あ、と口を開けてみせる。しっとりと濡れた黒の瞳が、ちらりと宙を見上げた。

「……良く頑張ったな。偉いぞ」
「へへ。俺、頑張った~」

 これは褒められ待ちの視線だと、アールには分かった。望む通りに褒められ、頭を撫でられた風真は、嬉しそうにへらりと笑った。
 その顔をしっかりと覚え、アールは水を取りにベッドを下りる。記憶力が桁違いの天才で良かったと、今日ほどありがたく思った日はない。


「見えるか?」

 水を飲み一息ついた風真は、声のする方をジッと見据えた。

「っ……」
「どうした?」
「まだ見えない、けど……」

 突然身を固くし、俯く。そして。

「……トイレ」
「……何事かと思えば」
「わりと切迫してる」

 ぶるっと震える。風真にとっては一大事だが、アールにとっては何でもない。ここで漏らしても、途中で漏らしても、全く気にならない。

「わっ! ちょっ、漏れるっ……」

 抱き上げてベッドを降りると、衝撃で危なかったとピーピー鳴く。

「漏らしても構わない」
「なに言ってんの!?」
「お前の全てが愛しいと言っただろう?」
「っ……」

(それを使う場面はここじゃない……!)

 心の中で叫んだ。これ以上実際に叫んだら出てしまう。
 お漏らしイベントはトキだけにして欲しい。漏らしたら普通に呆れて欲しい。抱き上げている時に漏らされて「仕方ないな~」などと笑って許せるのは、子供か動物だけだ。


「びゃっ!!」

 トイレに下ろされると、下着ごとズボンを下ろされる。

「自分で出来るから!」
「まだ見えないのだろう?」
「さっきより見えてるから大丈夫!」
「そうか。終わったら呼べ」

 両手で局部を隠していると、あっさりと扉が閉まった。
 風真はストンと座り、天を仰ぐ。

(……あれ? デジャヴ?)

 つい最近、こんな事があったような。はて、と首を傾げても、そんな記憶はない。
 気のせいかと息を吐き、アールは保育士かなと考える。躊躇いもなく服を脱がせ、手伝おうとするなど。

(いや、介護……)

 自分は子供ではなかった。
 そう考えているうちに、じわじわと視界が輪郭を持ち始める。

(最初に見えるのが自分のアレってのもさ……)

 ふう、と溜め息をつき、ひとまず治って良かったと脱力した。

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