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トキルート?
しおりを挟む(また……、お漏らしイベント……)
イかされた後も擦られ続け、潮も吹いたかもしれない。その後、腹を押されて普通に漏らした。力の入らない体は、それはもう、空っぽになるまで吐き出してしまった。
(トキさん、今更だけど性癖やばいな……)
顔が綺麗な分、余計に恐ろしさを感じる。成人済みの男が漏らす姿を見て何が愉しいのか風真にはさっぱり分からないが、トキはその瞬間が一番活き活きしていた。
まあ今回も愉しんで貰えたようで、と風真は息を吐いて目を閉じた。
だが一つ、解せない事がある。
「……合法的な媚薬とかですか」
多分お茶かクッキーに盛られていただろう薬の事だ。
だが、風真の手を自由にしたトキから返ってきたのは、キョトンとした視線だ。
そしてすぐに、にっこりと胡散臭い笑みが浮かぶ。
「ジンジャーとレッドペッパーですよ」
「えっ」
「蜂蜜をたっぷり入れたので、気付かれなかったようですね」
「っ……、気付かなかったですっ」
ドンッとテーブルを叩きたかったが、縛られていた腕が痺れて出来なかった。
動けない事も、気付かなかった事も、何より媚薬と思い込んでいた事も悔しい。
「大切なフウマさんに、怪しげな薬は使いませんよ?」
「そうだと思ってましたっ……。トキさんならむしろ健康にいい薬を使うんじゃないかとっ……」
「私を信頼してくださっているのですね……。昨夜は食べ過ぎたのではと、胃腸の調子を整えるレモングラスも入れておきました」
「お気遣いありがとうございますっ」
予想通り。そしてトキの思い通り。
悔しいが、トキに健康管理されている。胃腸もすっきりした気がする。性欲も発散され、邪気も祓われて全身すっきりだ。
「どうりでまだ体がぽかぽかしてるはずです……」
風呂上がりのようにじわじわ暖かくて心地好い。それに反して、濡れた服が冷えて気持ちが悪い。
「あの、……シャワー貸してください」
「ええ。お湯と着替えも準備出来ていますよ」
確信犯。ぽんっと単語が浮かぶ。
裏切り者で、確信犯。綺麗な笑みを浮かべる顔を見ると、本当に役にぴったりだなとそっと息を吐いた。
トキに連れられバスルームに向かいながら、ふと思う。
「今更なんですけど、トキさんの処理のお手伝いとか、した方がいいですよね」
望んで感じさせられた訳ではないものの、何だかんだ気持ちが良かった。自分だけすっきりして、トキには独りで処理させるというのも悪い気がする。
トキはぴたりと脚を止め、目を見開く。そして、困ったように笑った。
「お気遣いありがとうございます。ですが私は、あまり性欲がないようで」
「えっ! 嘘ですよねっ!?」
三人の中でトキが一番あるのでは。
「あっ、そっかっ、俺じゃ勃たないですよね、すみませんっ」
ゆったりとした黒の神父服では、トキが反応しているかは見えない。だが、自分の痴態で反応してくれると思い込んでいた。
(色気もないのに自意識過剰だった……)
こんな事をしたいのは風真相手だけだと言ったトキも、反応するとは限らない。
「いえ、その……フウマさんが悦がり狂うお姿に興奮はします。私の手で泣きながら乱れてくださると、この上なく至福を感じますよ」
今まで生きてきて、一番の至福。トキは蕩けるような笑みを浮かべた。だがすぐに視線を伏せ、表情を曇らせる。
「私も、とても気持ち良いのですが……私自身の肉欲を満たしたいとは、考えていません」
「へ……」
「例えば、私がフウマさんを抱いて、フウマさんが今まで以上に泣いて赦しを乞うお姿を拝見出来るなら、とは思いますが……」
何を想像したのか、クスリと笑みが零れ、トキは慌てて咳払いをした。
(ゲームのトキさんエンドって、一体……)
身体を重ねるのが恋人、という概念はトキにはないのだろうか。いや、ないだろう。そういうゲームだ。いくらゲームの流れが変わっても、トキの根本は変わらない。
「……なんていうか、……トキさんって、奉仕精神がすごいというか、献身的ですね」
あくまで風真を気持ち良くさせようとしている。それで自分が気持ち良いと言う。精神的な気持ち良さを至福だというトキは、あまりに奉仕精神に溢れているのでは。
そう解釈する風真に、トキは目を丸くした。
「フウマさんは、このような事まで赦してしまわれるのですね」
「え、いえ、赦すというか、俺のことめちゃくちゃ考えてくれてるなって思ったので」
自分の事は二の次で、と思った事を言うと、トキは信じられないように風真を見つめた。
「やはり私は、フウマさんの事を……」
そっと風真の頬に触れる。
愛しげに細められる瞳。ふわりと広がる微笑み。心から、愛しいと訴えるように。
(え……待って、本当に……?)
トキルートが復活したのだろうか。それも、優しい愛情込みで。
澄んだ海色の瞳から、蕩けるような笑みから、視線を逸らせない。
あまりにも、美しくて……。
「私は……この愛らしいお顔を歪ませ、泣きながら乱れさせるのを、やめられないようです」
「そっ、そうですか!」
一瞬どきりとした自分が悔しい。バッと顔を逸らし、悔しさに悶えた。
今日はずっとトキの手のひらの上で転がされている。いや、転がされない時があったかと言われたら、……ない。
「これからも、最も近しい友人として、私なりの愛情をフウマさんに注ぎ続けますね」
「友達はえっちなイタズラしないんですよっ……」
「フウマさんの世界ではそうだったのですね」
「多分どの世界でも一緒ですっ」
「フウマさん、早くお湯に浸かりましょうね。このままでは風邪をひいてしまいますよ」
「~~っ」
(全部トキさんのせいですけどね!?)
声にならずにバンバンと叩こうとして、見た目が綺麗で細身なトキ相手には出来なかった。
丁度良い温度の湯に浸かりながら、この時間に適温になるよう熱い湯を張っていたのかと戦慄する。
だが、風呂は気持ちが良い。離れのように広すぎず、香りもせず、花びらも浮いていない。あれはあれで大変心地好いが、普通の風呂の心地よさに、気付けば鼻歌を歌っていた。
ほこほこしながら上がると、何の悪戯もない着替えが置かれていた。部屋に戻ると、水分補給のお茶が用意される。
お漏らしの形跡もすっかり片付けられた部屋は、普通にとても居心地が良かった。
・
・
・
「フウマさん、誰にでも体を許してはいけませんよ?」
帰りの馬車の中、トキは深刻な顔をしてそう嗜めた。
(えっ、それトキさんが言う?)
「気持ちの良い事に弱いお年頃だと、分かっています。急所を掴まれれば、誰の手でも感じさせられてしまうのでしょう」
その光景を想像したのか、トキは眉をしかめる。風真を乱れさせて良いのは自分と、アールとユアンだけだ。
「誰にでもじゃないです。騎士さんたちも、護衛さんたちも大好きですけど、えっちなことされるのはちゃんと嫌ですし」
想像して、触れられる前までしか出来なかった。
確かにこの体は反応してしまうかもしれない。それでも、誰でも良い訳ではない。
きっぱりと訴えると、トキは少しだけ安堵の表情を見せた。
「私たちを特別に想ってくださるのは嬉しいです。今は殿下もユアン様も堪えておられますが、限界を超えたら……フウマさんなど、ひとたまりもありませんよ」
「っ……」
「お相手は、あのユアン様と、全てにおいて完璧な天才であられる王太子殿下です」
重々しいトキの声。風真はぶるっと震えた。
(た、確かに、ひとたまりもないっ……)
体力も声も水分もあれもこれも空っぽにされる。
バッドエンド。
絶対に避けなければならない単語が浮かび、ぎゅっと膝の上で拳を握った。
「気を抜くのは、私の前だけにされてくださいね?」
「抜けませんけどっ……」
「私は安全ですよ? フウマさんを力づくで犯そうなど、思っていませんから」
神職~! と内心で机をバンッと叩く。
顔だけは慈しみに溢れた清廉な微笑みをたたえ、ほら安全です、と言い切った。
「最近のフウマさんは、無防備どころか、貞操観念がないも同然になっていませんか?」
「うっ」
「体から籠絡されるのも時間の問題です。快楽に流されて、心を疎かにしてはいけませんよ」
「はい……肝に銘じます……」
あまりに身に覚えがあり、ザクザクと刺さる。教会で説教もしているだろうトキの言葉は、重みが違った。
「そんなフウマさんだからこそ、私も至福の時間をいただけるのですが」
今までの話は何だったのか。トキは「次はもっと頑張りますね」と、にっこりと笑った。
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